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【Tree of Savior M】装備強化にかかるコストの期待値の計算

 オンラインRPG「Tree of Savior M」の攻略記事です。ただし内容は、他の一般的なオンラインRPGの多くにも応用できる内容です。本記事では、このゲームにおける「装備強化」にかかるコスト(消費財貨、消費耐久度)の期待値を計算したのですが、その「装備強化」の仕様は他のオンラインRPGにも共通する内容だからです(特に消費財貨の仕様)。

 本記事の構成は次のようになります。
 まず最初に、「装備強化」の仕様について確認します。その上で、計算式の説明は後回しにして計算結果の表をまず先にお示しします。とりあえず結果だけ知りたい、という方はそこだけ見るというのでもよいかと思います。
 その次に、計算過程について詳しく説明します。上述の計算結果を得るために用いた成功率等の入力値が仮に間違っていたとしても、そこの計算式を使えば、その正しい成功率数値のもとで正しい期待値が算出できるはずです。そしてまた、他のオンラインRPGにもそのまま応用できると述べたのはその計算式の部分です。ゲームごとにそこに代入するパラメータを変える必要はあるでしょうし、ゲームによっては数式内のいくつかの箇所を微調整したり新しい要素を入れる必要があったりするでしょうが、数式の基本的な形および考え方はそのまま使えると思います。内容は高校数学の知識があれば十分理解できる内容です。数学に抵抗がないという方は是非読んでみてください(私の計算に間違いがないかをチェックしていただく意味でも)。


1.装備強化の仕様の確認

 まず、本記事で述べる「装備強化」の仕様について確認しておきます。多くのプレイヤーの方はすでに熟知している内容であると思われます。その場合は読み飛ばしていただいて構いません。

 さて、このゲームでは装備品を強くする手段として「(装備品の)レベルアップ」(および「超越」)、「強化」、「精錬」という3つの手段が用意されているのですが、本記事で述べるのはそのうち「強化」に関するものです。実際にゲーム内で「装備強化」を実施する画面は下の画像のようなものになります。

装備の「強化段階」を10から11へ上げるときの強化実施画面
(本記事冒頭に掲げた画像の再掲)

 要点を抽出すると次のようになります。

  • 強化をすると装備の「強化段階」が上がり、それによってその装備品ごとに攻撃力、防御力などが上がる。

  • 強化には「〇〇の金床」というアイテムとシルバー(ゲーム内通貨のひとつ)を消費する。使用できる金床は、装備品の装備可能レベル帯ごとに決まっている。

  • 強化は必ず成功するとは限らず、「成功率」が設定されている。強化に失敗すると、その装備品が持っている「耐久度」というパラメータが1減少する。そして「耐久度」がゼロになると、その装備品はもう強化できない(ただし、レアアイテムによって耐久度を回復させることは可能)。「成功率」は強化段階が上がるほど低くなっていく。

  • 強化段階が5や10以外のときは、強化に失敗すると段階が下がる(私が経験した範囲では-1)。例えば強化段階が6のときに失敗すると強化段階が5に下がり、そこからやり直しになる。(なお、上の画像には段階降下について書かれていませんが、強化実行時に警告メッセージでその旨が知らされます)。

 装備段階が5や10以外のときは、失敗すると金床は減るわシルバーは減るわ耐久度は減るわ強化段階は減るわで、まさに「踏んだり蹴ったり」×2(!)ですが、でも装備消失はありません。古いMMORPGとかだと、装備強化の失敗で容赦なくその装備が消滅したりしますよね💧 それに比べると良心的ですね。

 また、私が視認した範囲では、装備段階が5のときと10のときには失敗時の段階降下は無いようでした。装備強化を実行しようとすると、「強化に失敗すると耐久度、強化段階が下落します」という警告メッセージが出るのですが、装備段階が5のときと10のときには「強化に失敗すると耐久度が下落します」とだけ書いてあって、段階が下がるとは書いてありませんでした。

 おそらく、装備段階が5の倍数のときは、失敗しても装備段階が減少しないと思われます。とはいえ、私がチキンやろうなせいで 諸事情により私は12段階までの強化しかやったことがありません。なので15のときにどうなるかを自分の目で確かめてはいません。でもネット上でそういう文言があるのを見たことがありますし、実際、そういう定期的な節目ごとに装備段階減少が免除されるというオンラインRPGは結構あります。なので、このゲームも多分そうなんじゃないかなと思います。

 さて、レベル90で装備できる装備「スーペリアレディナスコットングローブ」の、強化段階12までの各段階における成功率、金床消費数、シルバー消費量は下記の表のようになります。また、失敗時の段階低下の有無についても記載しました。

レベル90装備の12段階までの成功率、消費金床数など。

私がチキンやろうなせいで 諸事情により現在私の手元には段階12→13の時までの記録しかないので、表でもそこまでしか載っていませんがご容赦ください。また段階降下数については、実際に本当に1だけしか下がらないのか全て確かめたわけではありません。ゲーム内では「強化段階が下落します」としか書いてないので、「時々2下がったりして。いやまさか~ハハハ…」と思うところもあるのですが、現在までのところ私はマイナス1しか経験していませんし、2以上下がったという話も聞いたことはありません。多分降下数は一律で1だと思います。

 装備レベルが低い装備になると消費シルバーがもう少し安くなりますが、成功率等は他の装備でも多分同じだと思います。

 もし上の表に間違いがあったとしても、本記事で述べる計算式を使えばすぐに正しい期待値を計算しなおすことができます。

2.期待値の計算

2-1.計算結果

 上のデータに基づき、装備品の「強化」で消費する金床の数、シルバーの量、減る耐久度の期待値を、各段階ごとに計算しました。計算式は「3.計算式の説明」のところで説明します。ここではまず先に結果を示してしまいます。

 なお「期待値」の概念に馴染みがないという方は、私が以前書いた記事「命中・貫通・クリティカルの計算」の中の、「2.命中・貫通・クリティカルを考慮した与ダメージ期待値の計算」の冒頭の説明文などを参照してください。

 一言で言ってしまえば、ここでいう「期待値」とは「装備品の強化にかかる費用の平均値」です。運がいい人は一発で強化に成功し、運が悪い人はとことん失敗し続けてとんでもない量の財貨を消費することになるかもしれませんが、みんなに「結局いくらかかったの?」と聞いてまわって、その平均値を計算すればこの値になるであろう、と数学的に予測される値が期待値です。ただ、3人とか4人とかに聞いて回った程度ではその平均値はその予測値からずれる確率が高いです。数百人ぐらいになってくるとその平均値は非常に良い精度でこの「期待値」に近似するはずです(「大数の法則」と呼ばれるものです)。

 さて、前置きが長くなってしまいましたが、結果を示します。まずは金床消費量です。

lv90装備「スーペリア(中略)グローブ」の装備強化にかかる金床消費量の期待値

「消費金床期待値」は、その段階から次の段階への強化に消費する金床の数の期待値、「累積消費金床期待値」は、段階0から始めてその段階に上げるまでの間に消費する金床の総数の期待値です。例えば段階9から段階10に上げるのに消費する金床の期待値は3.47個ですが、段階0から出発して段階10になるまでの間に消費する金床の総数の期待値は16.98個となります。

 運がいい人なら、段階0から段階10まで上げるのに10個の金床で済みますが、平均的な人だったら16.98個は消費する、という感じになります。もちろん、運が悪いとそれ以上に消費することもありえます。とはいえ、よっぽど何かに取り憑かれているのでもない限り、せいぜい期待値の数倍程度までです。

 次はシルバーの消費量の期待値です。

lv90装備「スーペリア(中略)グローブ」の装備強化にかかるシルバー消費量の期待値

 表の見方は金床のときと同じです。12万シルバーほどあれば+10にはできるようですね。

 最後に、「消費耐久度」の期待値です。

lv90装備「スーペリア(中略)グローブ」の装備強化にかかる耐久度減少量の期待値

 これを見ると、平均的には第11段階に行くまでの間に耐久度は5くらい減ってしまうようですね。装備品を入手したときにその装備品が持っている耐久度は大体「3」とか「5」なので、耐久度回復アイテムを使わない限りせいぜい第11段階ぐらいまでが限界、ということになるようです。もちろん、あくまでも「平均的には」の話です。運がいい時だったらどんどんその先まで行きます

 ただ、この数値、個人的には少しぴんと来ないものでした。実は私は最近2つの装備を第10段階以上まで上げたのですが、第10段階にいくまでの耐久度の減少は大体1か2くらいで済んでいたからです。しかし計算過程をチェックし直してみても、特に間違いは見つかりませんでした。確かにこの数字になるようだ、と理論的には納得できるものでした。

 単に私の運がよかっただけでしょうか?そうかもしれません。しかし、もしもそうでないとしたら、考えられる要因は次のものです。

「装備強化の成功率は、実際にはゲーム内表記より高いかもしれない??」

まあ分からないですね。


2-2.20段階までやるとしたらどうなるの?

 前節で述べた通り、私がチキンやろうなので 諸事情により現在私の手元には12段階までの表記成功率の情報しかありません。しかし、その段階までの表記成功率の下がり方を見ていると、「多分13段階以降はこんな風になるんじゃないか?」という予想をある程度立てることができます。消費シルバー量等についても同様です。

 そこで、20段階目まで計算したらこんな感じになるのではないか、という予測表を作ってみました。

 ちなみに、20段階目以上があるのかどうかは分かりません。私がざっとゲーム内で見た範囲では、17段階の人が最高でした。

 しかし、とりあえずの目安として、20段階まで計算してみればもう十分だということが分かりました。十分に地獄のような数字になりました(笑)

 さて、まず、20段階目までの成功率・消費財貨・耐久減少の仕様の予想は以下になります。

lv90装備「スーペリア(中略)グローブ」の15段階強化までの成功率・消費財貨等の予想表。
黒文字は私が実際にゲーム内で見た数字ですが、赤文字は私の勝手な予想です。

黒文字のところは前節とまったく同じ内容で、私が実際にゲーム内で見た数字です。赤文字で示したところは、私の勝手な予想です。でも、「そうだね、多分そんな感じになるんじゃない?」と多くの方が同意していただけるのではないかと思います。

 さて、この予想に従って、消費金床、消費シルバー、耐久度減少の期待値を計算してみます。結果は次のようになります。個人的にはなかなか楽しい計算でした。

 まず消費金床数の期待値です。

lv90装備「スーペリア(中略)グローブ」の装備強化にかかる金床消費量の期待値。
13段階以降の「成功率」と「消費金床(数)」は、私の勝手な予想です。

一部繰り返しになりますが、表中の13段階目以降の、赤文字で示した「成功率」と「消費金床(数)」は、私の勝手な予想です。なので、それを元に計算した期待値のほうも、一応赤文字にしてみました。

 見ると、11段階から12段階への強化以降では、消費金床数の期待値は急激に増えていきます。ほとんど「倍々」です。そしてそれは15段階目でいったんガクッと減りますが(15段階目では失敗時の段階降下がないので)、そこからの伸びがまた異様です。特に17段階目以降は異次元です(笑)。

 第0段階から第20段階まで上げるのに費やされる金床の総数の期待値は、圧巻の3680.69個です。

 次に消費シルバーを見てみます。表は以下になります。

lv90装備「スーペリア(中略)グローブ」の装備強化にかかる消費シルバーの期待値。
13段階以降の「成功率」と「消費シルバー」は、私の勝手な予想です。

最後のほう、ちょっと桁が分からないですね(笑)。とりあえず、ゼロ段階から15段階まで上げるのにかかる総費用(813,823)は、10段階まで上げるのにかかる総費用(123,169)の6.6倍です。そして20段階まで上げるのにかかる総費用(63,594,323)は、15段階まで上げるのにかかる総費用の78倍、10段階まで上げるのにかかる総費用の516倍です。なかなか楽しい数字ですね。

 最後に、耐久度減少について見てみます。これが一番気になるところかもしれませんね。結果は次のようになります。

lv90装備「スーペリア(中略)グローブ」の装備強化で減少する耐久度の期待値。
13段階以降の「成功率」と「失敗時耐久減少」は、私の勝手な予想です。

段階0から段階20まで上げる際に減少する耐久度の期待値は、圧巻の2646です

 15段階まで上げるだけでも30.68を要します。ゲーム内で非常に低い確率で得られる「耐久度復元剤」を使えばいけますが、ただでさえ確率が低い上に1個につき1回復ですから、30個くらい必要になります。多分無理ですね。

 ただし、これはあくまでも期待値です。運が良ければ段階15に行くまでの間に5以内の耐久度減少で済むでしょう。実際、ゲーム内でランキング上位の人たちを見ると15段階以上の装備を1つや2つ付けている人がちらほらいますが、それらは運だと思います。あるいは、後述するように「圧倒的な試行数の多さ」のなせる業だと思います。

 もしかしたら私の知らない何らかの手段があるのか、あるいは前節でも述べたように実はこのゲームの装備強化の成功率って表記上のものより高いのか、あるいは上の表で赤文字で書いた成功率予想値が間違っているのか、そういった可能性もあります。ただ、現在のところ計算式や計算プログラムに誤りは見いだせていません。多分それら(特に計算式)は合っていると思います。

 いずれにせよ、装備強化において耐久度復元剤をあてにするのは難しいと思います。より確実に高い強化段階の装備を得るための手段は、その部位の武器・防具をとにかくたくさん用意し、片っ端から強化しまくる、ということであると思います。その過程で何十個もの装備がはかなく消えていくことでしょうが、その先には輝かしい「+15装備」があなたを待っていることでしょう✨

 え、「+20装備」ですか? 多分無理だと思います(笑)


3.計算式の説明

3-1.計算式

 計算式は以下の4つになります。本記事冒頭でも述べたように、これらの数式は他の多くのMMORPGやスマホRPGにも応用できる数式です。

 段階の数値を$${s}$$とし、段階$${s}$$に上げるために必要な財貨消費量(金床数またはシルバー消費量)を$${G_s}$$とします。たとえば$${s=6}$$に上げるための財貨消費量、すなわち第5段階から第6段階に上げるのに必要な財貨消費量$${G_6}$$は、金床なら$${G_6=1}$$、シルバーなら$${G_6=6900}$$です。また、段階$${s}$$に上げるのに失敗したときの耐久度減少量を$${F_s}$$とします。例えば第4段階から第5段階への強化に失敗したときの耐久度減少量なら$${F_5=1}$$、第5段階から第6段階への強化に失敗したときの耐久度減少量なら$${F_6=1}$$、となります。てかこのゲームでは一律1ですね(;´∀`)
 そして段階$${s}$$に上げる際の強化成功率を$${p_s}$$とします。ただし確率は確率論の慣習に従い%ではなく$${0\leq p_s\leq1}$$の数字で表すとします。例えば段階5から段階6に上げるときの成功率は80%ですので、$${p_6=0.8}$$となります。

 このとき、段階$${s}$$に上げるためにかかる財貨の期待値を$${G'_s}$$、その際減少する耐久度の期待値を$${F_s'}$$とすると、それは次のように求められます。

 まず失敗時の段階降下がない場合は次のようになります。

$$
G_s'=\frac{G_s}{p_s},
$$

$$
F_s'=\frac{(1-p_s)F_s}{p_s},
$$

です。

 例えば段階5から段階6への強化の場合、消費シルバーの期待値は、

$$
G_6'=\frac{6900}{0.8}=8625,
$$

耐久度減少量の期待値は、

$$
F_6'=\frac{(1-0.8)\times 1}{0.8}=0.25,
$$

となります。

 次に、失敗時の段階降下がある場合です。計算はちょっと苦労しましたが、最終的には意外なほどスッキリした式になりました。
まず金床数またはシルバーの場合には、

$$
G_s'=\frac{(1-p_s)G_{s-1}'+G_s}{p_s},
$$

耐久度減少量の場合には、

$$
F_s'=\frac{(1-p_s)(F_{s-1}'+F_s)}{p_s},
$$

となります。

 例えば段階6から段階7への計算は次のようになります。まずシルバー消費量の期待値は、上で求めた$${G_6'=8625}$$を用いて、

$$
G_7'=\frac{(1-0.75)\times 8625+7900}{0.75}=13408.333\ldots,
$$

耐久度減少量の場合には、やはり上で求めた$${F_6'=0.25}$$を用いて、

$$
F_7'=\frac{(1-0.75)(0.25+1)}{0.75}=0.41666\ldots,
$$

となります。

3-2.計算式の導出

 計算式の導出について説明します。それらは期待値の計算の基本にのっとって導かれます。

 一般的に期待値と呼ばれる統計量は次のようにして計算されます。問題としている状況において、起こりうる事象(出来事)ひとつひとつに番号をつけ、それらを$${i}$$とします。その総数は$${i_{\rm max}}$$になったとします。そして事象$${i}$$の起こる確率を$${q_i}$$、その事象$${i}$$が起こったときにもたらされる数値を$${V_i}$$とします。$${q_i}$$は確率論の慣習にのっとり%ではなく$${0\leq q_i\leq1}$$の数値で表すとします。このとき期待値$${E}$$は、

$$
E=\sum_{i=1}^{i_{\rm max}}q_iV_i,
$$

のように求められます。ここで事象$${i}$$についての量$${q_iV_i}$$は、事象$${i}$$からの「寄与」と呼ばれます。

 装備強化にかかる費用の期待値も、この期待値の定義に従って丁寧に求めていけばよいです。すなわち、起こりうる出来事(例えば、「2回失敗して3回目で成功した」など)を全て列挙し、それら各事象の生起確率を算出し、そしてそのときにかかったコストを算出します。そしてその確率とコストをかけ合わせて「寄与」を求めます。あとは、それら全ての事象からの「寄与」を足し合わせれば、それが期待値です。

 では実際に求めてみましょう。

 まず、失敗時の段階降下がない場合を考え、金床数やシルバーのような消費財貨についての期待値を求めましょう。このときの事象・確率・費用を列挙すると、次のようになります。例えば段階5から段階6への強化におけるシルバー消費量の場合、

$$
\begin{array}{lll}
\text{失敗数}&\text{確率}&\text{消費財貨}\\ \hline
0 & 0.8 & 6900\\
1 & (1-0.8)\times0.8 & 6900\times2\\
2 & (1-0.8)^2\times0.8 & 6900\times3\\
3 & (1-0.8)^3\times0.8 & 6900\times4\\
\vdots & \vdots & \vdots
\end{array}
$$

のように書けます。ここで「失敗数」と書いたのは「最後に成功するまでの間に何回失敗したか」の数です。たとえば「失敗数0」ならば、「0回失敗して次の試行で成功した」、つまり「一発で成功した」という意味です。「失敗数1」ならば、「1回失敗し、その次の試行で成功した」という意味です。「失敗数2」ならば、「1回目の試行で失敗し、2回目の試行でまた失敗し、3回目で成功した」という意味です。以下同様です。これを「失敗数$${\infty}$$」まで書き連ねれば、それが起こりうる事象の全てです。

 あとは各事象からの寄与を足し合わせます。上の具体例から察せられるように、それは

$$
G_s'=\sum_{n=0}^{\infty}(1-p_s)^np_s\; (n+1)G_s,
$$

と書けます。実はこれでおしまいにしてもOKです。このままでも期待値を計算できます。この和は収束するからです。$${n=\infty}$$(と書くと数学科の人に怒られるでしょうか?より厳密には$${n\to\infty}$$ですかね)まで計算するのはさすがに無理ですが、$${n=10}$$くらいまでなら何とか力づくで各項を計算できます。コンピュータなら一瞬です。それらを合計すれば、十分よい精度で近似値が得られます。確率$${p_s}$$が低いときにはもっとたくさんの$${n}$$が必要になりますが、それでもせいぜい100ぐらいまで計算すれば十分だと思います。でも、試しに上の式を頑張って変形していってみると

$$
\begin{align}
G_s'&=\sum_{n=0}^{\infty}(1-p_s)^np_s\; (n+1)G_s\nonumber\\
&=p_sG_s\sum_{n=0}^{\infty}(1-p_s)^n(n+1)\nonumber\\
&=p_sG_s\left\{\sum_{n=0}^{\infty}n(1-p_s)^n+\sum_{n=0}^\infty(1-p_s)^n\right\}\nonumber\\
&=p_sG_s\left[\frac{1-p_s}{\{1-(1-p_s)\}^2}+\frac{1}{1-(1-p_s)}\right]\nonumber\\
&=p_sG_s\left(\frac{1-p_s}{p_s^2}+\frac{1}{p_s}\right)\nonumber\\
&=p_sG_s\left(\frac{1-p_s+p_s}{p_s^2}\right)\nonumber\\
&=\frac{G_s}{p_s}\nonumber
\end{align}
$$

スッキリした式になりました🌸
これが2-1節で最初に示した式です。なお、3行目の式から4行目の式に移る際、左側の無限和については以前の記事「おみくじの効果の計算」に添付したPDFファイル「omikuji.pdf」の巻末付録Aに載せた計算を用いました。右側の無限和については普通に等比級数の和の公式を用いました。「omikuji.pdf」を以下にも添付します。

ちょっと長いですが、全部読む必要はありません。22ページの「付録A」は完全に独立した内容です。(論文とかの付録も、本来はそうあるべきなんですよね。でも付録の内容を理解するために本文を全部読まされる論文の何と多いことか(ヽ''ω`))

 耐久度減少の期待値も、同様にして求められます。まず最初に立つ式は、

$$
F_s'=\sum_{n=0}^{\infty}(1-p_s)^np_s\; nF_s,
$$

です。耐久度は失敗するたびに$${F_s}$$の値だけ減少しますが、成功するときは減少しません。したがって「n回失敗してそのあとに成功した」場合の耐久度減少量は$${(n+1)F_s}$$ではなく$${n{F_s}}$$になります。違いはそれだけです。あとは上と同様に式変形していって、

$$
F_s'=\frac{(1-p_s)F_s}{p_s},
$$

と求まります。

 さて、次は、強化失敗による段階降下がある場合です。上と同様に、まずそのような具体例として段階6から段階7への強化をとりあげ、起こりうる事象と確率と消費財貨量と列挙してみます。

$$
\begin{array}{lll}
\text{失敗数}&\text{確率}&\text{消費財貨}\\ \hline
0 & 0.75 & 7900\\
1 & (1-0.75)\times0.75 & 8625\times1+7900\times2\\
2 & (1-0.75)^2\times0.75 & 8625\times2+7900\times3\\
3 & (1-0.75)^3\times0.75 & 8625\times3+7900\times4\\\\
\vdots & \vdots & \vdots
\end{array}
$$

上の表は、次のように考えて作りました。まず失敗数ゼロのときは以前と同じです。問題は失敗数が1以上のときですね。先述の、段階降下がない場合との重要な違いは、かかる費用のところに「8625×〇」という項が足されているという点です。この「8625」というのは、失敗して段階が6から5へ下がったとき、その5の段階から6の段階へ復帰するのにかかる費用の期待値です。失敗数が2だったら、2回失敗している、つまり段階5から段階6への復帰を2回やっていることになりますので、8625×2という費用が余分にかかります。そして3度目の正直(3度目の7900シルバー)で段階6から段階7への強化に成功するというわけです。なのでかかる費用の総額は8625×2+7900×3です。そのように考えました。

 あとは、また期待値の定義にのっとって素直に計算していくだけです。まず金床やシルバーのような消費財貨の場合、

$$
G_s'=\sum_{n=0}^{\infty}(1-p_s)^np_s\; \{nG_{s-1}'+(n+1)G_s\},
$$

となります。例によってこのままでもコンピュータを使えば計算できます。が、やはりちょっと試しに式変形を始めてみると

$$
\begin{align}
G_s'&=\sum_{n=0}^{\infty}(1-p_s)^np_s\; \{nG_{s-1}'+(n+1)G_s\}\nonumber\\
&=p_s\sum_{n=0}^{\infty}(1-p_s)^n(nG_{s-1}'+nG_s+G_s)\nonumber\\
&=p_s(G_{s-1}'+G_s)\sum_{n=0}^{\infty}n(1-p_s)^n+p_sG_s\sum_{n=0}^{\infty}(1-p_s)^n\nonumber\\
&=p_s(G_{s-1}'+G_s)\frac{1-p_s}{p_s^2}+p_sG_s\frac{1}{p_s}\nonumber\\
&=\frac{(G_{s-1}'+G_s)(1-p_s)}{p_s}+G_s\nonumber\\
&=\frac{G_{s-1}'(1-p_s)+G_s(1-p_s)+G_sp_s}{p_s}\nonumber\\
&=\frac{(1-p_s)G_{s-1}'+G_s}{p_s}\nonumber
\end{align}
$$

2-1節に示した3番目の式が導けました🌸

 耐久度減少の期待値については、やはり最後の成功時には耐久度は減らないので、$${(n+1)F_s}$$ではなく$${nF_s}$$になり、したがって第一段階の式が、

$$
F_s'=\sum_{n=0}^{\infty}(1-p_s)^np_s\; \{nF_{s-1}'+nF_s\},
$$

となります。あとは、やはり上の式と同じように変形していくことができて、

$$
F_s'=\frac{(1-p_s)(F_{s-1}'+F_s)}{p_s},
$$

と求まります。

 以上の計算式、もしくはそれを導いた考え方は、本記事冒頭でも述べたように、他のオンラインRPG一般にもほぼそのまま通用するものだと思います。ゲームによっては強化失敗時の段階降下数が2だったり3だったり、あるいは強化に失敗するたびに次の強化時の成功率がちょっとずつ上がっていくという救済(?)措置がとられていたり、いわゆる「天井」(例えば100回失敗したらもう次の強化は成功させてあげる、というもの)があったりするかもしれませんが、基本的にはここで述べた考え方の応用で、適切な計算式を求めることができると思います。ここに挙げた数式の一部を調整したり新しい要素を入れたりすることで対応できると思います。いずれ機会がありましたら、そういったケースについても記事を書いてみたいと思います。


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