「夢を見るな 現実を見ろ (その1)-反競技指向のススメ-」

1 本稿の内容は、あくまでも仕事をしながら趣味としてBJJを練習している人(ここでは「普通の人」と称す)を対象としている。
 結論から言えば、普通の人はJBJJFやDUMAUといった公式試合に出るべきではない。
 理由は次の3つ。①プロと普通の人との練習量の差②点取りゲームの巧さと柔術の強さは別物③ステロイド問題である。以下、個別に論じよう。

2 1日1部練VS3部練

「量が質に変わるまで稽古せよ!」という言葉を聞いたことがあるが、私見によればBJJの強さは練習量の多寡で決まると言っても過言ではないと思う。生まれ持った才能の差がある事は確かだが、他のスポーツに比べると才能よりも努力の差が技量の向上に直結する割合が高いように感じる。
 普通の人は1日1部練(2時間程度)を週3~4回もすれば多い方だと思うが、インストラクターレベルの人は1日2部練にフィジカルトレーニングも加えれば実質1日3部練を週に6日こなしていると言われている。
 普通の人とインストラクターレベルの人の練習量を週換算で比較すると、前者が3.5回後者が18回である。つまり、インストラクターレベルの人は普通の人の4倍以上練習をしているわけで、この差は絶対的である。
 しかも、JBJJF・DUMAUいずれもプロとアマチュアでカテゴリー分けをしていないため、普通の人もインストラクターレベルの人も同じ土俵で試合をするようになっている。
 それでも普通の人がインストラクターレベルの人に勝てると思えるだろうか?
 私の知っている一般人で、所属する道場の夜の練習の他に、サークルとしてほぼ毎日朝練を続けて全日本マスター選手権で優勝した人がいたが、普通の人はそこまでBJJの練習のために時間を割くことはほぼ不可能だろう。普通の人は、まずその練習量の絶対的な差を自覚すべきである。

3 点取りゲームの巧さと柔術の強さは別物?

 こう書くと「ポイントゲーム」を否定するように聞こえるかもしれないが、そういう意図はない。ただ、公式試合が「ポイントゲーム」化したおかげで、ポイントアウトして試合に勝つための技術が極端に発達している事実を認識して欲しいという意味である。
 例えば、BJJコミュニティで一世を風靡した「ベリンボロ」という技術があるが、これに入るためには「ダブルガード」の展開になることが前提である(注1)。
 「ベリンボロ」を習得するのにかかる時間、そして、実際にスパーや試合の中で「ベリンボロ」を使いこなす(「ベリンボロ」に繋げる技術も含む)のに必要とされる時間を考えると、普通の人が「ベリンボロ」を習得するのは時間対効果の点で非常に効率が悪い。
 加えて、試合の技術には流行り廃りがあるので、今は「ベリンボロ」を始めとする「モダン柔術」よりも、「レッグロックゲーム」の方にトレンドがシフトしていっている。
 今後もこのような流行り廃りが繰り返されることを考えると、試合に勝つために最新の技術を追い続けても、普通の人の練習量では何一つモノにならないと考えた方が素直だろう。
 そうであるならば、普通の人は「エビ」や「ウパ」のような基本技術の習得に時間を割いた方が、例え試合ではポイントで勝てなくても、長い目で見ればその方が柔術は強くなるはずである。

4 ステロイド問題
 現在の「スポーツ柔術」の試合では、ステロイダーもノンステロイドの人も同じ舞台で試合をせざるを得ない。だが、普通の人は自分の(BJJ以外の)生活を考えればステロイドを使用することはリスクを考えればとても出来ないだろう。
 また、BJJに関する次のような誤解もまま見られる所である。すなわち、「テクニックはステロイドに勝る」である(注2)。
 BJJもコンタクトスポーツである以上、フィジカル差がモノを言うのは確かである。少なくとも30キロ体重差があれば、技術レベルによほどの差がない限り、軽い方が重い相手を制することは困難である。まして、相手がステロイダーであった場合の困難さは私の想像を超えている。

5 結局、普通の人はプロと①練習量の差②試合に勝つための技術を習得する事の難しさ③(常に必ずしもそうとは限らないが)ステロイド問題という現実を直視すれば、試合で勝つことを目的に練習する事は夢物語に過ぎないという事が分かって貰えると思う。
 しかし、「試合に勝つ」という事から離れて柔術に取り組めば、また違った楽しみはある。道場内で友人を作る、身体を動かしてストレスを発散する、護身術・セルフディフェンスとしての柔術を追求する。楽しみ方は人それぞれである。少なくとも、「試合に勝つ」事だけに柔術を練習する価値があるのではないというのが私の意見である

注1)「ベリンボロ」をするためにスパイダーガードやデラヒーバガード等からの入り方が近年では発達している。BJJの技術革新は留まるところを知らない。
注2)参照:http://cafe.quietwarriors.com/?eid=868512

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