Me Too

1 別記事執筆のためにYOUTUBEを見ていたら、ブラウザ画面に下の動画がオススメとして表示された。


 日本のBJJ村に全く興味のない私でも、さすがに橋本知之さんの名前くらいは知っている。

 「日本人で最もムンジアルに近い男」と言われ、おそらく日本人柔術家の中では世界的に最も有名な方なのではないかと思う。
 冒頭の動画の中で、橋本さんは「①今度ラクラン・ジャイルズの下に3週間ほど出稽古に行くが、②お金が足りないので、もっと(橋本さんが運営されている有料の)オンラインサロンの会員が増えて欲しい」と語っている。

 この話を聞いて私が思った事を本稿では書いてみたい。

2 世界レベルの柔術家である橋本さんですら遠征費を捻出するのにかなり苦労されていると言う話を聞いて、以前次の記事を読んだのを思い出した。


 実際、クレイグもDDSから独立する前は、金を稼ぐために年に90回もセミナーを開いた事があるらしい。そのうえで、「年に90日もセミナーで練習時間を潰されるのは馬鹿げてる」と述べていた。
 橋本さんもおそらくはクレイグも、「金持ちになりたい」からお金が欲しい、と考えているのではなく、「(遠征費も含めた)練習するのに必要な費用を捻出するために」お金が欲しいと言っているのだと思われる。
 
 話を橋本さんの動画に戻せば、オンラインサロンの会員がなかなか増えないのは、橋本さんの営業努力が足りないからでも、コンテンツのクオリティが低いからでもないだろう。
 橋本さんの動画によると、コミュニティ機能もあるし、会員から送られた試合動画について橋本さんからのアドバイスも貰えるそうである。だから、競技柔術に真剣に取り組んでいる方にとっては、月額2000円という料金は必ずしも高いとは私も思わない。
 ただ、橋本さんのオンラインサロンは、これに参加している会員さんの主観的価値(平たく言えば「満足」)は高いだろうが、コンテンツの特性上、その客観的価値(「市場価値」と言い換えてもいい)はどうしても低くならざるを得ない。
 コンテンツの市場価値は需要と供給のバランスで決まるが、BJJ自体が日本ではマイナースポーツ?であり、その競技人口が非常に少ないうえに、たとえ橋本さんの的確なアドバイスを貰えるにしても、それを必要とする位真剣に競技柔術に取り組んでいる人はもっと、ずっと少ないからである。
 それに加えて、残念ながら今の世の中ではまだ「(形あるモノと違って)情報ないしデータはタダだ」と思っている人が多い。その極端な例が、今は閉鎖された「漫画村」等になるが、橋本さんの動画に比べて質的に劣っていたとしても、パッと見れば同じような内容のYOUTUBE動画が無料であれば、特にBJJを始めたばかりの白・青帯の人(そして、彼らが柔術人口の半数以上を占めている)はどうしても無料の方を見てしまうのではないかと思う。
 橋本さんの動画を見る目があって、しかも競技柔術に真剣に取り組んでいる紫帯以上の人となると、日本ではどうしてもその絶対数が限られてくる。

 単純にジャイルズの下に出稽古に行く遠征費を集めるだけなら、橋本さんの知名度を考えれば「クラウドファンディング」でお金を集めた方が早いのではないか?と思う(教則を買わずとも、橋本さんを応援したいという人は相当数存在すると予想される)が、橋本さんとしては「クラウドファンディング」で毎回お金を集める作業に練習時間を削られるより、「オンラインサロン」の会員が増える事を通じて、安定的に収入を増やしたいと考えておられるのだろうから、あまりいいアドバイスにはならないだろう。
 今の段階では時期尚早かもしれないが、日本でもプログラップリングがもっとメジャーになって、1試合100万くらいのファイトマネーが出るような状況になれば、橋本さんの金策ももっと楽になるだろうし、私もそれを願っている。
 
3 話を変えて、橋本さんが今度出稽古に行かれるという「ラクラン・ジャイルズ」についても触れておきたい。ジャイルズは、シャンジ・ヒベイロが引退した今、ラファエル・ロバートjrと並んで私が最も好きな現役のプロ・グラップリングの選手である。
 ジャイルズが有名になったのは、ライト級にも関わらず、無差別級でゴードン・ライアンに負けて3位となった2019年のADCCだが、その時のアジア予選の動画が公開されているので、興味のある方はご覧頂きたい。


 ADCCでブレイクして後、中国で行われたグラップリングマッチでリダ・ハイサムに「ヒールフック」で1日に2勝(2本先取という変則ルールのため)。


 コロナ下で行われたKinektic でも、Bjjfanaticsの一員として下記の動画のように大活躍している。


 ジャイルズは、グラップリングの選手としても一流だが、彼のYOUTUBE動画を見ていると、何と言ってもテクニックの説明が本当に分かりやすい。だから、私が記事を執筆する際に彼の動画を頻繁に引用させて貰っているのだが、橋本さんから見ても彼の下に出稽古に行ってでも「学ぶ価値がある」という事だそうなので、ジャイルズはやはり指導者としても一流なのだ、と今回再認識させられた次第である。
 ジャイルズは、元々クレイグ・ジョーンズの師匠である。クレイグは、次の試合後にジャイルズの下を離れて、ジョン・ダナハーのチーム(DDS)に移籍したのだが(別に二人は仲違いしたわけではない)、PolarisやWNOで大活躍するクレイグと違って、ジャイルズはその後もオーストラリアに留まり、ADCC以外では彼の姿を試合で見る機会は非常に少ない。

 
 ある人がジャイルズに「クレイグがあれだけ大活躍しているのだから、君はどうしてアメリカに言ってプログラップリングの試合に出ないのか?」と尋ねたら、ジャイルズは「だって、自分にはオーストラリアに弟子がいるから道場を離れるわけにはいかない」と答えたそうである。
 ジャイルズの動きは、とても私には真似できない。その意味では、彼のスタイルやテクニックはほぼ全く私の参考にならない。だが、私がジャイルズを好きなのは、彼がクルクル回るからでも、足関節でカッコよくサブミットし続けるからでもない。やはり、彼の指導力と人間性が好きだからなのである。
 
 冒頭に挙げた動画を見て、私はこんな事を考えた。

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