大阪ハードコア日記①


とあるバーに入る事になった。 お酒をバーで呑むなんて事は21歳の僕には初めての事だった。 

どう注文していいかもわからず、一緒に入った年上の彼にお酒の事は任して、ぎごちないながらも必死にカウンターに座っていた。

この先輩とこうしてサシで呑むのは初めてだ。

以前東京のクラブで知り合いを通じて同じ大阪在住という事で軽く紹介され、それ以来会うことなく一年が経った頃にこっちで偶然出会い、連絡先を交換して今日に至ったという訳だ。

積極的に交流しなかった理由はシンプルに僕の人見知りもあるが、見た目がどう見ても怖いんだ。 田舎者の僕には。  長身でスキンヘッドで会う時は暑い日といえども常にタンクトップ。 タトゥーが出ててもお構いなし。


そして入った今日のこのバー。
強面な上に腰までのモヒカンのマスター。
そりゃ、経験不足じゃなくてもぎこちなくなるでしょ?

ウェルカムドリンクと言われ、大きめのショットグラスに並々注がれたテキーラが出てきた。
初めてのテキーラに意を決し一口で飲みきり、余韻に苦しみながらバーで過ごす初めての夜が始まった。

結果的にどう言うわけか、約4時間後の退店時には、僕の頭は歪なモヒカンになって店を出ていた。

「バーってのはな、バーバーから来てんだ!」と店主に怒鳴られながらバリカンを入れられた光景が退店時にも頭の中でまだ僕を怒鳴っていた。

地方から出てきた僕は濃く激しいバーの洗礼を受け、バーって思ってた感じと違うな。と疑いつつも否定もできず、なんとなく呆然と過ぎたこの初夜以降、疑問を抱えながらこのバーに通う事になるのです。

この鮮烈なバーデビューから12年。

今にして思えば僕と、一緒にバーに行った先輩、そしてバーのマスター、3人でのハードコアな夜が始まるのだが、混ぜるな危険の3人でした。

或いは僕にとっての、混ぜるな危険の2人でした。



店を後にし、初めての酔いに格闘しながら自転車で近くにある先輩の彼女の家に押しかけた。  
深夜のお呼びでない客人に不快感をぶつけられるながらも気にも止めず自己紹介をし、一杯だけ一緒に飲んでその日は寝た。

昼前に汗だくでソファーで目覚めると、彼女さんはすでに仕事に出かけていた。  

シャワーを貸して欲しかったが、美味いカレー屋に連れて行ってやる。と言われたのでそうする事に。

スパイスカレーもこれまた人生で食べた事はなかった。

先輩が彼女さんの500円貯金箱をひっくり返し揺らして、硬貨の入れ口からなんとか2人分のカレー代を抜き取ろうとしていた。


ポケットに昨夜バーで貰った誰かの名刺があったので何かの足しになるんじゃないかと閃き先輩に渡した。  

名刺を縦に折り曲げてから貯金箱の口に突っ込み、レールのようにして500円硬貨4枚を10分ほどかけてなんとか抜き取り意気揚々カレー屋に出発した。


オープン前の平日のカレー屋に一番乗りで並び、昨夜のバーでの出来事を話し合った。  

耳や首に払い残した毛をつけた歪なモヒカンとスキンヘッドタンクトップの二人組。



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