オリジナル脚本 僕の影と影の僕

シナリオ・センター基礎科146期卒業生、現在は研修科受講生です。
オリジナルの脚本です。
ぜひご高覧ください。
今後も、随時オリジナル脚本を掲載していきますので「スキ」や「シェア」どうぞよろしくお願いします!コメントには必ずお返し致します。
シナリオセンターの研修科の課題で不安をテーマに執筆した少しファンタジー性のある作品です。


人 物 


シュウ(22)司法書士

(22)シュウの影 

面接官(45)プラスティック司法書士事務所の司法書士

 宮崎(32) プラスティック司法書士事務所の司法書士

 店員(22)日本橋三越の店員


本文

 〇プラスティック司法書士事務所

   面接官(45)とシュウ(22)が机を挟んで対峙している。

面接官「からかってるの?」

シュウ「え?」

面接官「ばかにしてるんでしょ?」

シュウ「え?そんなことないです」

面接官「東大のロースクールに出てなんでここに座ってんのって聞いてんだけど」

シュウ「ええ、ですから履歴書に書いた通り」

   面接官は椅子にのけぞって座る。

   ボールペンをくるくる回し鼻と上唇の間に挟み、シュウの言葉を遮り履歴書を棒読みする。

面接官「ええと、なになに?ADRや予防法務等幅広い業務範囲や生活に密着したその姿が、自分の目指す法律家像に近いと感じ司法書士を目指す決意をいたしました」

シュウ「ええ、いわゆる町の法律家を目指したいんです。この事務所で。それが人生の希望なんです。」

面接官「希望ねえ。あのね、僕が言ってるのはね、弁護士になれるのになぜわざわざ薄給で誰からも見向きもされない司法書士として働きたいのかってことなんですよ。やっぱからかってますよね?」

シュウ「いえ、本気です。本気で世の中のためになりたいんです。お金は食っていける程度あれば。僕は、世の中を良くしたいんです。それが、希望なんです。生き続けるための」

面接官「あっ、そう。変わってるね。あんた。まあ、断る理由もないから。じゃあ、明日から来て」

   シュウ勢いよく椅子から立ち上がる。

   面接官に深々とお辞儀する。

シュウ「はい!ありがとうございます!全力で頑張ります!」


〇日本橋三越(夜)

   シュウがお菓子売り場で商品を険しい表情で吟味している。シュウ一つのお菓子売り場に足を止める。

店員がにっこりとシュウを見つめる。

店員「何をお探しですか?」

   シュウ険しい顔から笑顔に変わる。

シュウ「初めての入社が決まったんです」

店員「おめでとうございます」

シュウ「どんなお菓子が喜ばれると思います?30人ほどの司法書士事務所なんです。憧れの。僕の人生の希望になるかもしれないんです。」

店員「人生の希望、ですか」

〇プラスティック司法書士事務所 

〇シュウのデスク

シュウのデスクには大量の書類が段ボールに入って置かれている。シュウはそれぞれの書類のホチキスで止められた針を一心不乱に外している。シュウの額には汗が浮かんでいる。シュウは汗を拭わずに、汗がデスクにポタっと落ちる。宮 崎がシュウのデスクにやってくる。

宮 崎「まだ?」

シュウ「はい、すみません。こういう作業苦手で」

宮 崎「困るなあ、早くしてね。東大でてようが何しようがさ、ホチキス外すのも立派な君のメインの仕事なんだからね」

シュウ「はい、頑張ります!」

〇プラスティック司法書士事務所 給湯室

宮 崎がまだ開けられていない三越の包み紙の手土産をゴミ箱に乱雑に捨てる。

宮 崎「ふんっ、エリートが」

〇公道(深夜)

シュウが肩を落とし下を向いて歩いている。

公衆ライトに照らされてできたシュウの影がくっきりと浮かぶ。

影の上にシュウの涙が落ちる。

シュウ「くやしいな」

   シュウの影が濃さを増す。

   シュウの影が長くなる。

   シュウの透明度が増し、少し透ける。


〇プラスティック司法書士事務所 

〇宮 崎のデスク

シュウが段ボール3箱を宮 崎のデスクに置く。

シュウ「終わりました!」

宮 崎「はあ、遅いよ、君。庶務さんだったら半日でおわるよ。てか、本当に君1週間もホチキスだけ外してたんだ。バカみたいだね」

   シュウ一瞬険しい顔になる。

   シュウの影が濃くなる。

   シュウの透明度が増し、少し透ける。

   シュウ作り笑顔をする。

シュウ「すいません」

宮 崎「ジョークで言ったんだよ俺」

シュウ「ジョークですか」

所員「そうだよお、シュウちゃん。わかってよ俺のジョーク。なので、これもう一回ホチキスで止めてもとに戻しといてね」

           シュウ険しい顔になる。

   シュウの影が濃くなる。

   シュウの影が長くなる。

   シュウの透明度が増し、透ける。

   シュウ作り笑顔をする。

シュウ「はい」


〇公道(深夜)

シュウが肩を落とし下を向いて歩いている。

公衆電灯に照らされてできたシュウの影がくっきりと真っ黒に浮かぶ。

影の上にシュウの涙が落ちる。

「はははは」

           シュウの影が濃さを増す。

   シュウの影が長くなる。

   シュウの透明度が増し、少し透ける。


〇シュウの家の浴室(深夜)

   シュウが手首をカミソリで一筋細く薄い切れ目を入れる。手首からポタ、ポタ、と血が落ちる。シュウはのぼせながら手首をだらっと浴槽のわきに垂らし、天井を向いている。

   シュウの影がどんどん真っ黒な闇色に濃さを増していき影はどんどん大きくなり浴室一室を一瞬闇に染めて呑みこむ。

   影が人物の3次元の立体となりシュウの身体から切り離される。シュウはその様子をのぼせながらぼんやりとみつめている。

シュウ「君は?」

影「影だ」

シュウ「僕の?」

影「ああ、お前が呑みこんできた怒り、不満、恐怖、絶望、焦燥、嫉妬、孤独、喪失それらの集合が煮詰められてできた存在だ」

シュウ「そう」

影「交渉をしないか?」

シュウ「ははは、僕、影と話してる。そろそろやばいかな。で?」

影「お前が影となり。俺がお前になる」

シュウ「構わないよ。もう決めたんだ。僕はこの人生を降りるって。僕が押し付けてきた闇が君なんでしょ?もう僕は終わりにしたいんだ。この辛くて苦しい永遠に続くような人生から」

影「たった1週間イジメられただけで?」

シュウ「知ってるだろ?君も。物心ついた時からどうやって生きるかではなく、どうやって死ぬかばかり考えてた」

影「だから灯りが欲しかったと?」

シュウ「ああ」

影「それが町の法律家という夢だったのか?」

シュウ「まあね、でも灯りを付けると影は濃くなり長くなる。それは分かってたんだけどね。ただ生きていくために希望が欲しかったんだ。でも、もういいんだ」

シュウ大粒の涙を流す。

シュウ「僕、僕、頑張ったんだ」

影「ああ」 

シュウ「もう僕はこれ以上何も考えることも決断するともしたくないんだ。君にあげるよ。僕の人生を。そして少しみてみたいのかもしれない」

影「なにを?」

シュウ「僕の影だったらどう生きていくのか」

影「戻れないぜ」

シュウ「構わない。君は君らしく好きに生きてくれよ。僕ができなかったように」

影「ああ。約束するよ。さよなら」

   シュウ瞳をゆっくりと閉じる。

   立体的な影はだんだんと色がついてい

き、立体的なシュウの身体に変わっていく。

同時にシュウの身体は色を失い黒くなっていき、2次元の影となる。

影とシュウは入れ替わり、影とシュウは元のようにくっつく。

影となったシュウ「さよなら」

   シュウとなった影浴槽から立ち上がり仁王立ちとなる。


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粕谷 経

   

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