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【関西人がゆく】 #2 国分寺 「塩の蔵」

 この店はもう無い。
 私が東京勤務をしていた頃、ずいぶんお世話になった。
 国分寺の中心、駅ビル「セレオ」の最上階、レストラン街にその店はあった。

 国分寺は、便利な街である。
 私の自宅は小平であったが、バスで10分、国分寺に出ればなんでも揃った。
 紀伊国屋書店、ロフト、コジマデンキ、無印良品のほか飲食店など、もはや新宿に行く理由が見当たらない。
 そんな私に国分寺は、驚きの体験を用意していた。

 さてラーメン店、塩の蔵。
 塩ラーメンが美味い。
 ダシがしっかりと効いているところが、関西人の私には嬉しい。
 ただ、私は味噌派。
 後日、味噌ラーメンを注文する。
 こちらもコクがあって美味い!
 ……?
 箸に何やら引っかかるものが……。サルベージする。

 ……アスパラガス!?

 次々と引き上げられる、3センチ大の緑のタケノコたち。
「ど、どういうこと!?」
 私は、国分寺の中心で不可解を叫んだ(心の中で)。

「コホン、えへ。
 味噌ラーメン中学校のみなさん、はじめまして。
 サラダ女学園から来ました、アスパラ=ガスです。
 えっとぉ、好きな食べ物は、ベーコンで……」

「待てぃ!
 転校生!
 アスパラが混入した味噌ラーメンなんて聞いたことないわ! 味噌中、舐めてんのか!
 お前みたいな小娘が、どうやって麺に絡むねん!
 ベーコンでグルグル巻きにして、居酒屋に売り飛ばしてやろか!
 いまからドナドナでも歌っとけ!」

 阿鼻叫喚。

 当時を振り返る。
 なにもアスパラガスで目くじらを立てることもなかったな。
 ただ、これがもしセロリだったらどうだ?
 セロリ嬢……。サラダ女学園の風紀委員。
 きっと私は、セロリ嬢を味噌風呂から救い出し、店長を怒鳴りつけた上で、翌日、会社には「こんな惨い人たち、東京人たちとは仕事ができません!」と、これ幸い、関西への異動願を叩きつけていたであろう。
 だから、アスパラガスで良かった。
 ……のか?

 やはり、「塩の蔵」は、塩ラーメンが美味い。
 店、もう無いけどね。



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