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奇跡のインド11

翌日(アシュラム滞在3日め)も、基本的には前日と同じメニューの繰り返しだ。朝5時にホールに集まって瞑想をして、そのあと宿舎に戻って院長先生のヨガ、朝食をいただき小休憩、その後11時にスワミジのお話、そしてお昼、という流れだ。

しかし、この日は私にとってはちょっと困った事件が発生した。デジタルデトックス事件である。
私は今回、せっかくヨガの合宿に行くのだから、できることなら俗世間から離れよう、と思って羽田でWiFiを借りなかった。ただ、会社を休んでインドに来ているので、万が一のとき会社からの連絡を受けられないと困る。

コロナ以前は、夏休みに海外に行ったら、会社のことなんて無視した。会社が私用で海外に行く時は、会社携帯を持って行くな、というケチくさいことを言うのだから仕方ないではないか。連絡の取りようがない。
しかしコロナ禍で、在宅勤務が導入されて以来、繋がらない自由が奪われた。去年の夏休みは、まだコロナ禍の真っ只中だったので、さすがに旅行好きの私も海外には出られず、沖縄で過ごしたのだが、まあ電話のかかってくることくること。仮にも夏休みなのだから、少しは遠慮してくれればいいと思うのだが、いや、少しは遠慮してくれていたはずなのだが、それでもそれなりに会社携帯が鳴った。
そんな状態だから、海外に行きます、携帯は持っていけないので連絡は一切付きません、あとはそっちで適当に処理してください、とまで割り切ることはできなかった。だから仕方ないので、国内のギガを海外でも使えるサービスを事前に申し込んできて、どうしても連絡が必要な時はメールを送ってもらうように、会社に頼んでおいた。だから、会社が休みの日はギガは必要ないので、会社の営業日だけネットの申し込みをしておいた。

ところがいざネットにつながらなくなると、不便なこと不便なこと。ちょっと何か調べたくとも調べられないし、YouTubeも見られない。LINEも使えないので家族に連絡を取ることさえできない。誤算だったのは、アシュラムでは当然のこととして、初日のホテルでもWiFiがうまく接続できなかったこと。私は結果的に、やむなく数日間デジタルデトックスをしただけで、すでにネットに飢えていた。
だからネット接続の申し込みをしていた日が来たら、ネットに繋ぎたくて繋ぎたくて仕方なくなった。

ところが、繋がらないのである。海外利用のサポート窓口が無料通話だったので、私は合計4回、おそらく1時間以上電話したと思う。なぜネットに繋がらないのか、とキャリアに文句を言った。
ところが返ってきた答えはインド国内の通信障害。しかもそれは以前からずっと続いていて、解消の目処も立っていないという。ホームページにはそのことが書かれていたと言われても、そんなもん読むかい、と文句のひとつも言いたくもなる。おまけに田舎のほうは電波も悪いという。加えて、役に立たないなら海外ギガ利用の契約を解除できるのか、と尋ねたところ、解除はできない、とのこと。怒りがわく。

日本に4回も電話をかけて悪戦苦闘し、疲れ切ったこともあり、私はとうとう観念した。

「ここはインドだ。諦めよう」

通信障害が継続していても解決しようとしない国に、自ら好きこのんで来ているのだ。初日にバスの中でガイドさんは言った。
「日本の常識で考えないでください」
その通りだった。

幸い、電話自体はギガが使えなくても通じるようなので(だからヘルプダイヤルに電話がかかったのだろう)、会社もいざ本当に困ったら、電話を掛けてくればいい。そう割り切ることにして、私のデジタルデトックスは継続するところとなった。羽田で素直にWiFiを借りてくるべきだった・・・。
この事件のせいで、この日の朝食後の休憩はすべて潰れてしまったのだった。

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