見出し画像

ジャニー喜多川氏の功績は本当に偉大なのか? ~ジャニーズ性加害問題は消費者問題だと考える理由~

0.はじめに

 故ジャニー喜多川氏が、多数の少年に対して性的暴行を加えていたことが問題となっています。
 ジャニー喜多川氏の性的暴行行為が許されないことだという点は万人が認めるところですが、一部からは「ジャニーズという素晴らしいエンターテイメントを作り上げたジャニー氏の功績まで否定するべきでない」との論調があがっています。 
 しかし個人的にはこの論には非常に違和感を覚えますし、むしろJPOPを深く愛しているファン(注:本論では、ジャニーズ事務所以外のファンも含む意味で使っています)こそ、ジャニーズ事務所とそれを作り上げたジャニー氏の体質や手法を問題視すべきだと考えます。以下、詳しく考察したいと思います。

1.ファンが真に求めるべきものとは?

 そもそもJPOPを愛するファンが求めるものとは何なのでしょうか?

 それは、多様な才能を目にする機会がなるべく多く与えられること、及びその多様な才能が公正な競争環境下で消費者の趣味嗜好によって選別され、質的に優れたタレントがスターダムにのし上がっていくこと、だと思います。 
 察しのいい方が気づくと思いますが、こと男性のボーカルダンスグループというジャンルにおいては、こういったファンの求めることと真逆のことを行なってきたのがまさにジャニーズ事務所なのです。

2.ジャニー喜多川氏の功績とは?

 そもそもジャニー喜多川氏の功績とは何なのでしょうか?多くの意見があるでしょうが、突き詰めると以下の2点に集約できると思います。

  • (1) ジャニーズという男性アイドルジャンルを作り上げたこと。

  • (2) ジャニーズ事務所が日本で非常に大きな商業的成功を収めたこと。

 まず(1)の点ですが、確かにジャニーズは独特の世界観を持っているユニークなタレント集団だと思いますが、客観的なパフォーマンススキルが突出しているわけではないと考えています。現に、韓流グループはBTSなど世界的にパフォーマンスを認められて活躍しているグループがいくつかありますが、ジャニーズ事務所には少なくともパフォーマンスを武器に世界市場で成功したグループはなく、およそ国際的競争力があるとは言えません。
 むしろ個人的には、歌謡曲チックな単調なメロディ(確かにカラオケでは歌いやすいんですけどね…)とか、ヒョロヒョロの体で肉体的説得力が全くないダンスとか、長いキャリアにも関わらずサビでハモリもせずにユニゾンで被せるしかできない低レベルな歌唱力とか、ボーカルとダンスに関する基本的なスキルは、プロの中ではむしろ劣位にある事務所だと認識しています。
 確かにあの独特の世界観が好きだという感想を持つ方がいるのは分かりますが、客観的なスキルベースでは全く功績と言えるようなものを残していないのが実情だと考えます。

 次に上記(2)の点ですが、ジャニーズ事務所が日本の芸能シーンで非常に大きな地位を占めているのは事実ですが、それが「質的な功績」を意味しないことは明白です。今回のジャニー喜多川氏の性的暴行に対する調査報告書(*1:以下、単に「調査報告書」といいます。)を読んでも分かるように、ジャニーズ事務所は独占的な地位を利用して自社に有利なメディアコントロールを行なっていたわけで、そういった偏った情報空間において適切な競争が働いていなかったことは明白です。日本における商業的成功は、単にジャニーズ事務所が情報工作に成功したという以上の意味はほぼ持たないと思います。
 例えるなら北朝鮮で朝鮮労働党が圧倒的に支持されているからといって彼らが善政をしているわけではないのと同じく、日本で商業的成功を収めているからといってジャニーズ事務所が質のいいタレントを供給しているとは言えないのです。

 上記をまとめると、そもそもジャニー喜多川氏の功績というもの自体が、何か客観的な裏付けがあるわけではなく、むしろ単なるメディア関係者の思い込みに近いのではないかとさえ思えます。

3. ジャニーズ事務所のJPOPに対する罪とは

 一方で、ジャニーズ事務所の体質や手法を鑑みると、明確にJPOPファン(特にジャニーズ以外の男性タレントファン)に対する背信的行為を行なってきたといえると思います。

3-1. 社内における不透明なデビュープロセス

 まず挙げられる問題点は、どのタレントをデビューさせるかが極めて不透明で不適切なプロセスで行われてきたという点です。上記調査報告書においては、以下のような記載があるので引用します。

このように、ジャニー氏は、ジャニーズJr.の誰をどのように売り出していくかというジャニーズJr.のプロデュースについてほぼ無制約の専権を有しており、ジャニーズJr.から見れば、自分がタレントとしてデビューして人気を博することができるかどうかを決める生殺与奪の権を握る絶対的な権限を有する立場にあった。

調査報告書のP.12

ジャニー氏の「お気に入り」になれば実力以上に待遇が上がり、そのポジションを守るにはジャニー氏の性加害を断れず、断ったらチャンスがなくなると思っていた。実際にジャニー氏の「お気に入り」になって待遇が上がった人や、断って辞めていく人はたくさんいた。

調査報告書のP.22

振付師が『それで(性加害を受け入れることで)仕事をもらっている。』みたいな話をしていたことがあるので、振付師もジャニー氏の性加害を知っていたはずである」と述べる者もあった。

調査報告書のP.29

 以上の記載からも分かるように、ジャニー喜多川氏は『自分の性的嗜好にあった少年』でかつ、『自分との性交渉に従順な少年』を優先的にデビューさせていたことが推認されます。ジャニーズ事務所の枠でデビューできれば、それこそ大規模なメディアミックスやゴリ押しで、質的に優れていなくても多くの仕事が与えられ一定の成功が約束されています。
 逆に言うと男性アイドルグループにおいては、どんなに才能やスキルがあっても、ジャニー氏の好みではなかったり性的交渉を受け入れなかったりすると、日本の消費者の目にとまることすら許されないという恐ろしい事態だったわけです。
 じゃあ他の事務所で活動すればいいのでは、とも思いますが、それが簡単なことでなかったことは周知の事実だと思います。

3-2. 社外の同業タレントへの不適切な圧力

 この点も、上記報告書には以下の記載があります。

他のタレント事務所の男性バンドは、ジャニーズのタレントと同じ番組には出演できず、ジャニーズ事務所に関するネガティブな報道は抑制される。

調査報告書のP.37

「原告事務所[注:ジャニーズ事務所を指す。]は怖く、当局[注:在京の民放テレビ局を指す。]でも事務所にネガティブなことを扱うのはタブーである」「マスコミ対応を委ねられているメリー喜多川は、ドラマの共演者が気に入らないと、その放送局の社長に直接電話をかけ、外すよう要求することもあった。」・・・「マスメディアは、原告事務所を恐れ。追従していること」それ自体又はその前提となる事実を真実と信ずるについては、相当の理由があったと判示している(この点は、東京高裁判決についても維持されている。)

調査報告書のP.55

 まあ私のように90〜00年代のJPOPを見てきた方々にとってはもはや公然の秘密だと思いますが、ジャニーズ事務所やジャニー喜多川氏の力が強すぎて、他のプロダクションの男性ボーカルダンスグループが大手メディアで全く活躍の余地を与えられなかったのは事実です。例えば、我々世代だとDA PUMPやWindsが不自然にテレビからフェードアウトさせられたのは記憶に新しいですし、何より主要な音楽番組において男性ボーカルダンスグループがジャニーズ系しか出ていないという時代が長らく続いていました。
 つまりジャニーズ事務所のメディア支配が強すぎて、他の事務所にいる同業のタレントが活躍する場をろくに与えられなかったわけです。性犯罪すらまともに報道できないくらい腰の引けたメディア業界ですから、ジャニーズに忖度して他の事務所のタレントを無視することくらい些細なことでしょう

 しかしこれはJPOPファンにとっては本来大問題で、真に怒るべきことのはずです。どんなに才能があっても、ジャニーズ事務所に所属していないというだけで消費者に評価する場を与えられないというのは、全体として見れば損失でしかありません。本当はきちんとした競争環境が与えられていれば、日本の市場を勝ち抜いて世界で成功する可能性のあった才能でさえ、一プロダクションとそれを支配する社長(しかも性犯罪者)の一存によって握り潰されていたということです。JPOPファンとしては、「誰が優れたタレントかをお前が勝手に決めてるんじゃねえよ、それは我々が決めることだ」と強く抗議すべきではないでしょうか。

4. まとめ

 上述してきたようにジャニー喜多川氏は、メディアに対する支配力を利用し、男性ダンスボーカルグループというジャンルを自分の趣味嗜好及び自分への従属度合いのままに、非常に狭い範囲に矮小化してきたという点で、日本の音楽文化において極めて罪深いことをしたと思います。日本の消費者は当該ジャンルにおいてジャニーズタレント以外の選択肢にまともに触れることすら長年許されてこなかったわけで、非常に偏った情報環境での判断を余儀なくされたという点で多大な不利益を被ったといえます。

 まあ長々と書いてきましたが、常識の範囲内で考えるだけでも「一人の性嗜好異常者によって支配されている業界なんてろくなもんじゃないよね」というのは容易に想像がつきますし、そんな業界からよいものが生まれてこなかったのもまた火を見るより明らかではないでしょうか。

P.S. ジャニー喜多川氏の世界観に共感し、ジャニーズタレントに魅力を感じるファンの方々がおられることは非常に結構なことだと思います。当記事は、そのような方々の楽しみ自体を否定する意図は全くありません。

<参考文献>
*1:調査報告書(公表版) 外部専門家による再発防止特別チーム(林眞琴、飛鳥井望、斎藤梓)編、2023年8月29日 https://www.asahicom.jp/pdf/hokokusho_20230829.pdf

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?