呼吸関連の実験など(高校理科生物)
●単離ミトコンドリアの呼吸速度の実験
ミトコンドリアは基質を無駄に消費しないように調節機能を備えている。これを呼吸調節と呼ぶ。呼吸調節は各種の呼吸阻害剤を利用して、呼吸速度を測定することで観察でき、電子伝達系やATP合成酵素が、膜間腔の水素イオン濃度を一定に保つように調節されていることが分かる。
単離ミトコンドリアに、呼吸基質と無機リン酸を十分に与え、さらにADPを加えると、O2濃度が減少する。これは電子伝達系、ATP合成酵素が機能するためだと考えられる。しかし、ATP合成酵素の働きを阻害するようなエネルギー伝達阻害剤を加えると、O2濃度の減少が止まってしまう。これは水素イオン濃度の減少が起きなくなると基質等があっても電子伝達系が機能しなくなることを示唆する。
つまり、水素イオン濃度の勾配を生み出す電子伝達系は水素イオンの減少がない場合、抑制されると考えられる。これを裏付けるように、脱共役剤(水素イオン濃度の濃度勾配を打ち消す、阻害する)を与えるとミトコンドリアの水素イオンの濃度勾配は減少し、その分だけ電子伝達系が促進される。また、この時に電子伝達系を阻害すると、促進の効果は効かなくなる。
これらの実験結果が示すのは、ミトコンドリアでは一定の濃度勾配(プロトン駆動力)を膜間腔に維持しようとする働きがあるという事である。
●呼吸基質と呼吸商
呼吸基質である糖、タンパク質、脂質はそれぞれ化学組成が異なる。
よって、各物質を出発点とした呼吸(化学反応)は異なっている。
つまり、呼吸基質の違いが呼吸の化学反応式の違い(消費されるO2や生じるCO2の量等の違い)に対応する。それゆえ、反応式の違いから逆に呼吸基質を推測することができる。
では、どのように反応式の違いを検出するかと言うと、気体に注目する。
気体には、同温・同圧下で物質の量(分子数)が気体の量(体積)に比例するという性質があるため、気体の量を物質の量と同等に扱うことができ、化学反応式の違いを検出できる。
特に呼吸では酸素が消費され、二酸化炭素が生じるのでこれらの量を測定する。すると、呼吸基質ごとに吸収、排出される気体の量が異なり、それらの量の比が求められる。そして、その比は呼吸基質ごとにおよそ一定の値をとる。そのため、その比を商の形で表し、呼吸商と呼ぶ。
呼吸商から生物の利用する主なエネルギー源が分かる。
・ 呼吸商を求めるための実験
密閉した容器内に植物等を入れて、その容器内部の体積の変化を測定する。着色液の移動距離を利用し気体の量の変化を測定する。
1つ目(Aとする)では密閉した容器に水酸化カリウムを入れておく。
これが二酸化炭素を吸収するため、酸素が消費された分だけ着色液が移動する。つまり、吸収したO2の体積が測定できる(これを結果 a とする)。
呼吸商を知るためには排出されるCO2 の量も必要だが、これを直接得ることが難しいのでもう一つの実験(Bとする)を利用して間接的に求める。
Bの実験では水酸化カリウムの代わりに水を置く。その結果、酸素と二酸化炭素両者の増減が管に詰めた着色液の移動に関わり、 結果 b が得られる。
b は吸収した酸素と放出した二酸化炭素の体積の差である。
よって、a - b = x という計算で放出したCO2の体積が得られる。
呼吸商は CO2の体積 / 吸収したO2の体積 なので、 a / x で計算できる。
●発酵と解糖
酸素が利用できない環境にある生物や細胞、ミトコンドリアを持たない細胞(原核細胞や赤血球)は呼吸を行うことができない。
では、それらはエネルギーを必要としないのだろうか?それはあり得ない。
全ての生命活動にはエネルギーが必要である。従って、それらの生物や細胞にもエネルギーを生み出す仕組みが備わっている。
つまり、無酸素下で有機物を異化する仕組みがある。
このうち微生物が行いヒトに有用なものを発酵と言い、筋肉で見られる反応を解糖と呼ぶ。
・発酵
微生物が行う無酸素下で有機物を異化する仕組み。
二種類の発酵が代表的なものである。
解糖系でATPを生産し、NADHの酸化に有機物を利用する。
解糖系にはNAD+が必要であるが、酸素が無い場合にはNADHが酸化されずNAD+が不足し解糖系が行えなくなる。これを回避するために酸素の代わりに有機物を使ってNADHを酸化する。その結果、様々な物質が生じる。
①アルコール発酵
有機物の異化に伴い、二酸化炭素とエタノールが生じる発酵
NADHの酸化に伴ってピルビン酸から二酸化炭素とエタノールが生じる。
②乳酸発酵
有機物の異化に伴い、乳酸が生じる発酵
NADHの酸化でピルビン酸が還元され乳酸が生じる。
・ 解糖
筋肉が行う無酸素下で有機物を異化する仕組み。
解糖系でATPを生産し、NADHの酸化にピルビン酸を利用する反応。
その結果、乳酸が生じる。
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