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変異と転写


●遺伝情報の変化

突然変異により染色体やDNAの塩基配列に変化が生じること
体細胞生殖細胞系列のいずれでも起きる。
だが、子孫に伝わるのは後者の変異である。

・ 染色体突然変異

倍数化、異数化、重複、欠失、逆位、転座が知られる。
遺伝子の破壊だけでなく、その数や発現量の変化が起こることもあり、
様々な影響が出る。

・ 塩基配列の突然変異

挿入、欠失、置換がある。

遺伝子に1、2塩基の挿入や欠失が起こるとトリプレットの読み枠がずれ、
変異した部分以降のアミノ酸配列が大きく変化する場合がある。
これを特にフレームシフト突然変異という。

さらに、置換が起き終止コドンが生じる変異をナンセンス変異
別のコドンが生じる変異をミスセンス変異と呼ぶ。

置換では必ずアミノ酸配列が変化するわけではない(同義置換の場合)。

・ 鎌状赤血球貧血症

ヘモグロビン遺伝子の1アミノ酸が非同義置換により変化し、
異常なヘモグロビンが生じるため貧血が起こる。ひどい場合は死ぬ。
グルタミン酸がバリンというアミノ酸に変化したのが原因である。
このように性質の異なるアミノ酸への置換は影響が大きい
グルタミン酸は親水性のアミノ酸で、バリンは疎水性のアミノ酸である。

●ゲノムの多様性

ゲノムとは配偶子がもつ全ての遺伝情報の事である
各生物に特徴があるように、遺伝子にも数や機能に様々な違いがみられる。

しかし、その構成や種類は見かけの形質から思うよりも類似性が高く、
むしろ遺伝子の使い方(制御方法)に大きな違いがあると言える。

また、種内で見られる多様性が予想以上に高いことも分かって来ている。
種内での塩基配列の違いを遺伝的多型と呼んでおり、
その中で一塩基レベルの遺伝的多型を一塩基多型(SNP)と呼ぶ。

SNPはゲノムの全範囲に存在し、数や種類も多いため、
生物のバーコード化や遺伝子の探索にマーカーとして使われている。
例えば、ある病気のヒト達に特定のSNPが見られるならば、
そのSNPの側に病気に関連する遺伝子(塩基配列)があると考えられる。(これは連鎖解析、GWASと呼ばれ独立の法則を利用した方法である。)

● DNAの校正・修復

3’→5‘へのヌクレアーゼ活性、ヌクレオチド、塩基除去修復などが存在。

●染色体異数性が関連する病気

☆遺伝子の発現調節

DNAには遺伝子の情報とそれらのを司るプログラムが書き込まれている。
いつどの遺伝子をどれだけ発現させるかという情報も刻まれているのだ。

そして、この極めて重要な計画、すなわちプログラムは、
基本的に調節遺伝子から作られる調節タンパク質により制御されている。

つまり進行を司る遺伝子によって制御されている。
(実際はRNAやDNAの構造などを利用した様々な仕組みがあるけどね。)

○遺伝子・DNA・ゲノム

●原核生物における遺伝子発現の調節

同じ転写調節領域を介して制御される、
関連した機能を持つ一連の遺伝子群をオペロンという。
ジャコブとモノーは、この調節に関してオペロン説を唱えた。

・ オペロン説(ジャコブとモノーが提案)

まず、彼らは遺伝子の概念を拡張し、
その基本構造として次の3つの領域があると考えた。
①RNAポリメラーゼが結合し転写の開始点となる領域(プロモーター)
②調節タンパク質が結合する領域(オペレーター
③タンパク質の設計図としての領域(コード領域)である。

さらに、彼らはこれらの領域がこの順番にDNAに存在し、
オペレーターに結合するタンパク質を介して、
RNAポリメラーゼのプロモーターへの結合、
及びその転写が調節されていると考えた。これがオペロン説である。
(これも複数の変異体の分類、遺伝的解析から導き出されている。)

・ ラクトース(lac)オペロン

大腸菌のラクトース(乳糖)代謝は、オペロン説に当てはまる。
つまり、RNAポリメラーゼのプロモーターへの結合を、
オペレーターに結合する調節タンパク質が制御する

普段、大腸菌は単糖であるグルコースを呼吸に利用しているが、
ラクトース(グルコースとガラクトースによる二糖)しかない環境では、
呼吸に利用する酵素以外に、ラクトースを吸収、分解する酵素も発現する。

その仕組みはラクトースと調節タンパク質の相互作用を利用したもので、
ラクトースの有る無しで lac オペロンを調節している。

転写抑制に働く調節タンパク質をリプレッサーと呼び、
これが不活性化されると転写が開始することが知られている。

ラクトース(lac)オペロンは、これの一種でありラクトースの有り無しで
機能の有る無しが変化する。具体的には以下のようになる。

①ラクトースが無い条件 ( 転写のスイッチは off になる) 
⇒ リプレッサー として活性型の状態であり、転写の抑制が可能
ラクトースが有る条件 ( スイッチが on になる) 
⇒ リプレッサー が不活性型になり転写の抑制ができない状態になる。

・ トリプトファンオペロン

lacオペロンの調節は、
必要な時以外に無駄な遺伝子を発現させない為の仕組みであった。
(スイッチのoffからonの調節)

つまり、これは無駄を減らすための仕組みである。
言うなれば、電気をつけっぱなしにしておくとお金がかかるので、
使わない時は消しておくという節約と同じ仕組みである。

これと同様に、無駄を減らすための調節の仕組みがある。
こちらは常に発現させる必要がある遺伝子について、
作りすぎを防ぐ為の仕組みである(スイッチのonからoffの調節)。

これはこまめに電気を消してやることで節電対策をしているが、
一日中電気が必要な教室や職場のイメージで考えるとよい。

トリプトファンオペロンでは、
トリプトファンの合成に関わる遺伝子の発現が、
生成物であるトリプトファン自身により調節される。

つまり、トリプトファンがリプレッサーに結合し、
リプレッサーが活性化され、最終的に転写が抑制される

●真核生物における遺伝子発現の調節

真核生物の転写調節は複雑であるが、基本は原核生物と同様である。
大まかには下記の①~③ようになる。

①〜③の説明の前に遺伝子の構造に関して述べると、
遺伝子は基本的に
転写調節領域 ( 原核生物ではオペレーターと呼ばれる ) 
プロモーター
コード領域から成り、
オペロンのように複数の遺伝子が一度に転写されるということはない。

また、オペレーターのような転写調節領域が、
遺伝子から遠く離れた位置にも存在することも大きな違いである。

・調節の仕組み

転写調節領域に「転写調節タンパク質(転写調節因子)、転写因子」
 及び調節タンパク質を補助する転写補助因子が集合、結合する。
 そして転写が調節される。

 特に転写の活性化に関わる転写調節領域をエンハンサーと呼び、
 結合する調節タンパク質をアクチベーターという。

 逆に抑制に関わるのはサイレンサーという領域で、
 リプレッサーという調節タンパク質が結合することで転写が調節される。

② プロモーターに基本転写因子(約5~6種類程度存在)が結合する。

③ 基本転写因子の複合体に導かれて、
 RNAポリメラーゼがプロモーターに結合する

通常、転写調節領域は複数存在し、
それらが大きな複合体を形成し転写が開始される。

・ 転写前調節

転写部位のDNAのメチル化及びヒストンのアセチル化を利用した発現制御

・ 転写後調節

RNAによる発現調節(miRNA)や遺伝子ノックダウンsiRNA : RNA干渉)

・ ホルモンによる転写調節 

ステロイド系のホルモンは脂溶性なので膜を通過し、
調節タンパク質に結合して活性化を引き起こす。
その結果、転写が調節される。

別のタイプのホルモンは、
膜の受容体を介したシグナル伝達により転写を調節する。

・ 選択的(細胞・組織特異的)遺伝子発現

細胞や組織で特異的に発現する遺伝子は、
それらに特異的な転写調節領域及び調節タンパク質の働きで発現が起こる。
調節タンパク質:転写因子や転写調節因子のこと

では調節タンパク質等はどのようにして特異的な発現を行うのだろうか。
代表的なものとしては、次のような仕組みが知られている。
細胞外のファーストメッセンジャーを介した制御
細胞内のセカンドメッセンジャーを介した制御
③タンパク質のリン酸化や脱リン酸化などの修飾

これらを介して、転写因子等の活性状態が変更、調節されている。
そのため、同じ組織等で特異的に(同時に)発現する遺伝子群は、
同じタイプの調節タンパク質で制御されている場合が多い。

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