半獣神の街 第一話 オチラ記念日

○  N県牧神市藩町・丘の上(昼)回想
  二人の少年は街の全景を眺めながら、地べたに大の字で寝ている。
レイジ「なあ、一生の間に手にいれられるものと、失うものどちらのほうが多いんだろうな?」
タイチ「ははっなに言ってんだよ?お前?」
  レイジ(当時11)は起き上がり、タイチ(当時10)に顔を向ける。
レイジ「なあ、タイチ。お前に頼みがあるんだ」

第一話 オチラ記念日

ーーそれから数年後の冬、牧神市藩町は記録的な豪雪に見舞われた。
○  秘密基地(内部)
  テーブルいっぱいに藩山の地図を広げる。
タイチ「よーし!堅雪探検計画始動だ!」
  タイチは地図のばつ印を指さす。
タイチ「ゴール地点はここだぞ!藩山の立ち入り禁止地区の奥!!」
カニ娘「あーーんたたちね!ホンキ!?雪の下に埋まったらどうするつもり!?バカじゃないの!ねえ‥‥」
マルクス「なんだおめえぇビビってるのか?カニ娘!」
タイチ「そうだぜ!カニ娘!」
カニ娘「京子さん。カニ娘はやめてって言ってるじゃん。日翔って呼んでよ」
タイチ「山の奥に入れるチャンスは今しかないだろ!日翔!!」
カニ娘「タイチ!!あんたは下の名前禁止!!」
タイチ「じゃあ、今度からてめえでいいのか」
カニ娘「(ムカっ)諦めが第一なんじゃないですかね?(冷ややかな目で)山田諦一くん」
タイチ「(ムカっ)」
橋口「まあまあ、二人とも!山の奥に入れる機会は滅多にないし、奥の方に入りたいなあって日翔さんが最初に言い始めたことじゃないですか?」
カニ娘「まあ、そうだけども‥‥」
タイチ「あのバリケードって去年の春からあるけども、あの区画を工事しているのもナッジなんだよな」
  藩山にバリケードを作るナッジ職員の姿
カニ娘「ナッジって最近やたら見かける会社?建設会社かと思ったら、駅前でハンバーガー屋も始めたよね」
ポスドク「検索したら分かるよ。株式会社ナッジ。ホールディング企業らしい」
タイチ「ああポスドクありがとさん。ポスドクだけあって物知りだね。ところでホールディングってよくわからんけど」
パスドク「ホールディングっていうのはですね‥‥ああそろそろ昼ですよ。cm始まりますよ」
   ポスドク、tvにリモコンを向ける。
   カニ娘はポスドクからリモコンを取り上げる。
マルクス「残念。それエアコンのスイッチ」
   エアコンのブオーという起動音が鳴る。
   マルクスはテレビのスイッチを入れる。
   テレビでは、カニ娘がカニの着ぐるみを着て歌い踊っている。
カニ娘「さあ、眉月水産の蟹だよー!とーれたてーピーチーピーチーカーニーの旨みだ♪」
カニ娘「やめて!!!」
   カニ娘、リモコンを奪って消す。
タイチ&マルクス「な~んだぁカニ娘ちゃん。“恥ずかしいカニィー”?」
   タイチ&マルクスは顔をにやけて、エアクオート(両手でピースサインを作り頭上で二回指を曲げるボディーランゲージ)の仕草で挑発する。
カニ娘「カニクオートやめなさい!黒歴史なんだから、金輪際昼の時間はテレビ禁止!そうじゃなきゃ夜中に捨てるから!!」
   テーブルの上の藩山の地図、ばつ印が付けられた地点のアップ
タイチM「学校からばっくれてからの俺たちはこんな感じだったんだ。(一人ずつ顔のクローズアップ)おれ、山田諦一(14)と、オワコンロコドルのカニ娘こと花乃日翔(14)、怖い怖いマルクスシスターズの末っ子、丸楠京子(14)。ポスドクこと毒島学(14)。そんで橋口隆(14)。こんな日々がずっと続くと思っていた。あの日の冬にあれに出会うまでは」
   
○  藩山(昼)
  タイチたち一行は堅雪の上を進行する。
カニ娘「ねえ、これさ。私たち全員埋まったら、誰からも発見されないんじゃないの?」
タイチ「大丈夫だろ。誰かの親か親戚が気づくだろ」
マルクス「わたしは親に一切いってないぞ」
橋口「俺もだ」
  タイチ、突如不安げな顔を見せる。
タイチ「誰も連絡してないのか?」
マルクス「それはそうだろ?こんな危険なこと言えるわけないじゃん」
   タイチ、ガタガタ震え始める。
カニ娘「何?タイチ結局怖いの?もうやだよ。去年から葬式続きで不吉‥‥」
   タイチ、その言葉を聞いて表情が変わる。
   雄叫びを上げて雪山の奥へと疾走する。
カニ娘「ちょっと待ってよタイチ!」
   タイチに置いてかれた一同はタイチの姿を追う。

○  藩山・深奥部(同)
   タイチは奥で呆然と立ちすくんでいる。
一同「なんだこれ」
   山の奥に鎮座していたのは巨獣であった。山羊の頭と2本の足、胸から腕に
   かけては、獣の毛に覆われてるが人型である。
   巨獣の足元の雪には不思議な魔法陣が書かれている。
ポスドク「僕、小さい頃から生物図鑑を読んでるけど、こんなのみたことない」
マルクス「現実にこんな生き物がいるのか?立ち入り禁止なのはこいつの処分をしてたってことか?」
カニ娘「でも、変よ。こんな大きな生き物だれが飼ってるっていうの?」
タイチ「俺たちが飼おう!」
橋口「お前は相変わらず発想がぶっ飛んでんな!」
カニ娘「どうやってこんなでかいの飼うのよ!餌代だって馬鹿にならないでしょ!」
ポスドク「いや、信じられないけど、ご飯を食べなくても生きていけるんじゃないかな?」
カニ娘「はっ?ポスドク君どゆこと?」
ポスドク「見なよ。これだけの巨体でフンが一切落ちてない。ていうか、さっきから一歩も動かない。これは普通の意味での生物とは根幹が違う‥‥常識ではありえないけども、そう判断せざるを得ない」
タイチ「じゃあさ。名前つけようぜ。名前!」
カニ娘「あんたさぁ呑気だね?」
タイチ「こいつは俺らが見つけたから。そうだな‥‥“オレラ”ってのはどうだ?」
カニ娘「ふっはははは、山田諦一くん!あんたねーネーミングセンスないのね‥‥見つけたのは俺らじゃなくてうちら、“ウチラ”がいいんじゃないの」
橋口「じゃあ、両方をとって“オチラ”ってのはどうだ?」
マルクス「なんだ?オナラ?」
   タイチ、オチラへと歩み寄る。
カニ娘「危ない!だめタイチ!!」
タイチM「オチラがゆれ動くたびに紋様が青く光っている?この魔法陣がオチラを縛っているのか?」
  タイチ、リュックから小型スコップを取り出して、オチラの足元の魔法陣を崩
  す。
オチラ「メェエエエエエエエエエエエエエエエ!!!」
  オチラ、タイチの前に手を差し出して、掌に乗せる。
カニ娘「嫌、タイチ!!」
  オチラの体から閃光が出て、タイチの体の中へと入り込む。
タイチM「なんだこの感覚?」
タイチ「おいっお前らもオチラの手のひらに来い!」
カニ娘「えっ何っ怖い!」
マルクス「ははっ面白そうだな!」
カニ娘「待ってマルクスさん!」
  一同はオチラの手のひらに包み込まれる。その場が青い光に包まれる。
オチラ「メェエエエエエエエエエエエエエエエ!!!」

○  藩山・帰路(夕方)
 タイチM「俺たちは放心状態で帰り道を急いだ。こんな経験を今後の人生でま 
 た経験することがあるだろうか?」
カニ娘「きゃぁああああああああああああ!」
  カニ娘、雪に埋まる。
マルクス「カニ娘!!」
橋口「大変だ。二メートル以上は積もってるんだぞ!!」
ポスドク「誰かロープ!早くしないと‥‥」
  タイチは周囲が慌てふためくのに対して、静観している。
タイチM「俺はその時、驚くほどに冷静だった。ただ“できる”ことは分かっていた。それを解放するだけだ」
  タイチはカニ娘の埋まった穴におもむろに近づく。
カニ娘「たすけてーーーーーーーーー!」
  タイチは腕をかざす。
タイチ「カニ娘!!飛び上がれ!!スノーバウンド(雪の跳躍)!!!」
  カニ娘の体は穴から空中に飛び上がる。
カニ娘「きゃあああああああ!!?」
  落下するカニ娘をタイチはキャッチする。
  マルクスのリュックの中からのぞく生き物の目が、ギラリと光る。
タイチM「その日を俺たちはオチラ記念日と名付けた。俺たちはオチラ記念日からそれぞれ力を手にした。この先に失うものはもうない。そう思えたんだ」

○ 藩山(昼)
ー時は過ぎ、苛烈な冬の時代は終わり、春。
  黒服を着た一群が藩山の奥で話し込んでいる。
黒服A「なんだ!?半獣神が逃げた!!?あの結界を突破したのか!!?」
黒服B「先輩‥‥どうすんすか。これ?」
黒服A「ナッジ本部に連絡だ。おい!!早くしろ!!!」

○ タイチの自宅・キッチン(朝)
  タイチは冷凍庫の中をいじくっている。
  タイチの父(44)が入って来て声をかける。
父親「おい、諦一!ヒックッ最近、何冷蔵庫を開けっぱなしにしてるんだヒックもったいないだろ!!バカ息子!!!」
タイチ「お前の酒代の方がもったいないっての」
父親「なんだと!!おめえこそ学校へ行け!!ドラ息子!!」
タイチM「ほんっと最低な家だ。うんざりだ。だけどもう違うのだ」
タイチ「よし。実験成功だ。できてる。できてる!」
  タイチは冷凍庫から人工雪を取り出して、食卓の上のクーラーボックスに詰め
  る。
タイチM「俺たちには力があるんだ」
  父親は椅子に座って、酒を飲みながらラジオをつける。アナウンサーの声が流
  れる。
アナウンサー「県警は一連の失踪事件に関連性があると見て‥‥」

○ 牧神市ショッピングモール・セントラル広場(昼)
  カニ娘、ポスドク、橋口はアイスクリーム片手に待っている。
  タイチが現れると、一同手を振る。
橋口「おーい!遅いぞ!タイチ!連絡よこせよ!!マルクスさんは連絡きたぞ!少し遅れるってな」
タイチ「この荷物を見てくれよ。重いんだよ。クーラーボックス!」
カニ娘「何に必要なのよこんなデカブツ!」
タイチ「だから今日は俺の能力の試し撃ちだって話じゃん!!あっアイスちょうだい!!」
 タイチ、カニ娘からアイスをひったくろうとする。
カニ娘「だめよ。そのデカブツにいっぱい入ってんでしょ。それ食べなよ」
タイチ「あのなあ。これは‥‥」
  セントラル広場に選挙カーのアナウンスが響き渡る。
選挙アナウンス「栗島秀樹!栗島秀樹をよろしくお願いします!!」
カニ娘「うるさいわねぇ。なんかここで街頭演説始まるっぽいから。そろそろ場所移ろうよ」
ポスドク「マルクスさんは待たないんですか?」
カニ娘「まあ、マルクスさんにはおいおい連絡して‥‥」
  そこに牧羊洋次郎(14)と取り巻きたちが現れる。
洋次郎「あれー。不良たちがたむろってるーここも治安悪くなったねぇ」
タイチ「洋次郎!!お前ら学校はどうした!?」
洋次郎「あはははは!今日は早退きなんだよ!しかし最高のジョークだぜ。それはこっちのセリフだよ!!お前らこそ学校はどうした落伍者ども!!」
橋口「洋次郎!落伍者だなんて」
洋次郎「気安く下の名を呼ぶな。お前も含めての落伍者どもだ。お前と幼馴染なのを恥ずかしく思うよ」
  洋次郎と取り巻きたちは束になって、タイチたちを嘲笑する。
マルクス「そこまでだ!それ以上友達を侮辱するな!!」
  マルクスが現れる。手にした木刀を振る。
洋次郎「ちっ!丸楠京子。厄介なのがきたな」
洋次郎の取り巻きたち「どうします?」
洋次郎「マルクスシスターズに報復されるかもしれない。噂では姉の方がムショから出てきたらしい」
  竹刀を持ったレディース達のイメージをカットイン。
  洋次郎たち、その場を去る。
洋次郎「いいか!タイチ!!これで済んだと思うな!!覚えてろ!!」
  カニ娘、洋次郎らに向かって、あっかんべえをする。
  セントラル広場に選挙カーが入ってくる。
マルクス「演説が始まって、うっさくなるな。さあ、どっかよそに行こうぜ」
オチラ「めぇーーーー」
  マルクス背負うリュックから小さくなったオチラが顔をだす。
カニ娘「可愛い、ちびオチラちゃんだ」
タイチ「しっかし、あんなにどでかいのが、こうなるなんてなぁ」
マルクス「わたしのガリバーにかかればこんなもんさ」
タイチ「ガリバー?」
マルクス「能力名だ。名付けたんだ」
  選挙カーが停車する。そこから栗島(54)と秘書の木島(46)と数人の側近
       が出てくる。
  秘書はマルクスのリュックから顔を除くオチラを見て驚愕する。
木島「栗島さん。あれ見てください!!間違いありません半獣神ですよ!!」
栗島「なぜここに!?あのガキたちは誰だ!!?木島!なんとしても捕まえろ!!演説はいい。あれの確保が最優先だ!!」
木島「わかりました!!」
  退散しようとするタイチ一向に木島が近づく。
木島「ねえ、僕たち。そのペットどこで拾ったの?」
マルクス「はぁなんだよおっさん。ただのヤギだよ。うちらにゃ投票権はないぜ。中学生だからな。媚び売っても意味ないぜ」
木島「そのヤギさんはね。実はとーっても貴重なヤギなんだ。ずっといなくなって困っていたんだよ。さあおじさんたちに渡しなさい」
マルクス「嫌だよ」
  マルクス、手にした木刀に気を込める。
マルクス「伸びろ!ガリバー!!」
  木刀は竿竹ほどの長さになる。
  木島の表情が険しくなる。
木島「君、その能力‥‥どうやら色々知っちゃったみたいだね君たちは」
マルクス「こいつでぶっ飛ばすぞおっさん。さっさと失せろ!!」
木島「その能力はガキのおもちゃじゃないんですよ。使ったら最後‥‥」
マルクス「最後どうなるんだよ!」
木島「戦争だよ!!」
  木島はマルクスに腕をかざすとマルクスは後方に吹っ飛ぶ。
  リュックが地面転がり、オチラが転がり出る。
オチラ「めええええええええええ!!」
マルクス「ぐはあ!」
タイチ「マルクス!?」
  マルクスは血を吐く。
  木島、オチラを拾い上げる。
木島「半獣神はもらう。君たちの住所は調べ上げるからね。震えながら待っていなさい」
  タイチたちはマルクスに駆け寄る。
タイチ「大丈夫か!マルクス!!」
  木島は足の空気を爆発させて、高速で走り去る。
マルクス「逃すかぁああああああああああ!!!伸びろ!ガリバー!!!」
  マルクス、木刀をさらに巨大化させる。
タイチ「俺もいくぜ。マルクス!!」
  タイチとマルクスは巨大化する木刀にしがみつき、さらに木刀が伸びてしな
  り、二人の手が木島に迫る。
  その様を見ていた広場の人々は驚きの声をあげる。
木島「なっなんだあのガキども!?」
マルクスM「これが私の能力、ガリバー。ものの体積を縮小、拡大する力」
木島「くっ!!」
  木島、腕から空気の塊を打つ。タイチの持つクーラーボックスに直撃して、弾
  き飛ぶ。
  タイチとマルクスは、衝撃で体が宙を舞う。
  地面にクーラーボックスの中の人工雪が散らばる。地面に雪溜まりができる。
  タイチは空中で、マルクスの体を掴み。雪の上へと落下する。
タイチ「ぐううっ!すっスノーバウンド!!」
  タイチとマルクスの体は地面に叩きつけられるが、トランポリンのように弾
  む。
タイチM「俺の能力に助けられた。スノーバウンド。雪や霜に弾性を与える力」
マルクス「ゲホッ!大丈夫か、タイチ」
タイチ「くそっ逃げられたか!」
  タイチ、地面に溶けゆく雪をかき集めて、雪玉を作る。
タイチ「雪玉もせいぜい二つか‥‥どんどん溶けていきやがる」
  タイチの手の中で雪解け水がポタポタと落ちて行く。
  マルクス、視線を遠くの路上に捨てられた自転車に向ける。
マルクス「まだ終わりじゃないぜ!タイチ!!」
  マルクス、胸を押さえながら、タイチの手を引いて歩き去る。
  一方、栗島は呆然としている。
栗島「木島のやつ!人前で能力を使いやがって!!おい!木島を追うぞ!きっと“あそこ”だ!」
  栗島と側近たちは選挙カーに駆け込み、乗り込む。
栗島「おいっ早くだせ!きっと木島はあそこに向かったはずだ。」
  選挙カーの上部からドスンという音が車内に響く。
  栗島、車外に出て見上げるとお立ち台にカニ娘が乗っていた。
  カニ娘はマイクを握って、声を張りあげる。
カニ娘「みんなーーー!!!」
  広場の群衆が、一斉にカニ娘に注目する。
群衆「カニ娘だ‥‥カニ娘がいるぞ!!」
  群衆は一斉にざわつく。
カニ娘「(赤面しながら)きょっ‥‥今日の蟹は美味しい“カニー”?」
  カニ娘はエアクオートの仕草をする。
群衆「美味しいカニー!!」
  群衆は選挙カーの周りに集まる。
栗島「くそっ!!ガキどもめ!いつの間に!?」
側近「栗島さん。何者かが車に入り込んでます!きっと能力です!!」

○ 国道沿いの遊歩道(昼)
  栗島は立ち止まり、周りを見渡す。
栗島「所詮はガキだな。非力なもんだ‥‥あっはははははははは‥‥はあああああっ!?」
  栗島の前に巨大化した自転車が現れる。右ペダルをタイチ、左ペダルをマルク
  スが担当している。
タイチ「おい、タイミングがあってないぞマルクス」
マルクス「お前があってないんだろ。ほら、やっこさんいたぜ!」
栗島「なんなんだよ。あのガキどもは」
  栗島は食品工場の敷地内に入る。
タイチ「おい。あそこに入ったぜ!ナッジ食品センター?」

○ ナッジ食品センター・内部(昼)
  タイチは施設の内部を見渡す。そこには人の影がなかった。
タイチ「なんだここ?何で人がいないんだ?食品工場じゃないのか?」
マルクス「ごほっごほ」
  マルクスうずくまる。
タイチ「大丈夫かマルクス」
マルクス「どうやら限界みたいだ。あとは頼むタイチ」
タイチ「任せた。お前は休んでろ」
  タイチは施設の内部を探索する。
タイチM「本当に誰もいないぞ。一体?いた!あいつだ!」
  タイチは雪玉を投げる。
タイチ「スノーバウンド!」
木島「ハズレだぞガキ!」
  雪玉は木島の後方で跳ねて、木島の背中に直撃する。
木島「ぐへっ!」
  吹っ飛んだ衝撃で木島は抱き抱えていたオチラを離す。
オチラ「めえええええ」
  タイチ、オチラを拾い上げる。
タイチ「よしよし。お前は俺たちのモノだ。もう離さないぞ」
  タイチは出口を目指して走るが、空気弾を背中に受けて吹き飛ぶ。
タイチ「うわあああ!」
木島「舐めるなよガキ!」
タイチM「雪玉はあとひとつ。スノーバウンドであいつの鳩尾を」
  タイチ、ポケットから雪玉とりだすが、だいぶ溶けて小さくなっている。
木島「もうその攻撃は読み切ってるぜ。クソガキ!!」
タイチ「スノーバウンド!」
  タイチは雪玉を床に向けて投げる。雪玉は床でバウンドして、天井を跳ね返り
  木島の頭部へと飛ぶ。
  木島は雪玉を見ることなく、正確に雪玉に空気弾をぶつける。
  雪玉は空中で消滅する。
木島「言っただろ?読み切ったって、やっぱガキだ学習能力がないんだな」
  タイチはオチラを抱えて、踵を返して全力疾走する。
  背後に空気弾が迫り、爆発して地面を抉る。
タイチ「うわあああ!」
  タイチとオチラ、地面を転がる。
木島「本気を出せば、いつでもてめえなんて殺せるんだ。分かったか。ああ!もう半獣神とかどうでもいいか。どうせ責任は全部栗島の野郎が被るんだからな。死ね!小僧!」
タイチM「もう残弾はない。ここで終わりか!?」
  タイチ、横に設置された施設案内図を見る。
タイチM「そうか、ここは一応食品工場なのか。ということは!」
  タイチ、立ち上がり。走る。
木島「無様だな。興奮しちまうぜ」

○  牧神市ショッピングモール・セントラル広場(夕方)
  お立ち台でカニ娘は熱唱している。
カニ娘「とーれたてーぴーちぴーち海のールビーだ♪」
  選挙カーの周りを群衆が取り囲み。盛り上がっている。
カニ娘「海のーほーせきー、おいしいー“かにー”」
群衆「おいしい“かにー”」
  群衆は一斉にカニ娘とシンクロするようにエアクオートの仕草を決める。
  車内では栗島と側近と橋口、ポスドクがいる。気まずい雰囲気が漂っている。

○  ナッジ食品センター・暗室
  ボロボロになりながら、タイチは暗室の中に駆け込む。
木島M「ガキの浅知恵だな。暗いところに入れば、逃げ隠れることができるとでも思ったか」
  木島、にやつきながら暗室へと入る。
タイチ「来るな。来るな!」
  タイチはリュックの中の液状のものをぶちまける
木島「手元が狂ってるぞ。心配しなくてもちゃんと殺してやるから安心しろ」
タイチ「ははっははは、そのガキをまだ殺せてないじゃないか。おい、おっさん。こんどは連続で出してみろよ!!」
木島「気が狂ったか。お望み通り。10連発だ。遺骨も残らないかもな!親に申し訳ないな!!ガキ!!」
  木島は空気弾を連射する。
  タイチはオチラと共に地面に伏せる。
タイチM「ここは食品工場。ということはあるよな。あれが」
  空気弾が壁にのめり込む。
木嶋「何!?」
  壁には先ほどタイチが撒き散らした液体が結晶化していた。
タイチM「冷凍室が!!スノーバウンド!!!」
  跳ね返った空気弾が木島の鳩尾と足に直撃する。
  木島は後方に吹っ飛び、のたうち回る。
タイチM「ははは、勝った。勝ったぞ」
  タイチは暗室の外へと出ていく。
  木島は地面を這いずり、空気弾を地面に打ち込む。
木島「終わりだ。クソガキ」
  地面が抉れて、爆発する。
  タイチの体は窓を突き破って、外に放り出される。
タイチM「あれ?これって‥‥俺死ぬのか?」

○ N県牧神市(丘の上・昼)回想
  二人の少年は向かい合う。
タイチ「頼みってなんだよ」
レイジ「もし俺が死んだら、この街を守ってほしい」
タイチ「お前が死ぬ?その歳で?」
レイジ「人は誰だって死ぬさ」
タイチ「そりゃそうだけどさ、この街に守るだけの価値があるのか?」
レイジ「あるよ。ここは特別な場所じゃないか。僕にとっても君にとってもね。さあ約束だよ」
タイチ「んーまあ。分かったよ。じゃあさ、このブレスレットに誓おうぜ」
  タイチとレイジ、腕のお揃いのブレスレットをぶつけ合う。

○ ナッジ食品センター・外(夕方)
  タイチは空中を落下している。
タイチM「そして俺はお前を失った。人生で手にしたもの全てより、お前の存在が大きいことを知った。ガッコウよりもマチよりもイエよりも………俺も今そっちにいくよ。レイジ」
  暗転
  タイチが目を覚ますと、元の巨体に戻ったオチラの手のひらの上であった。
オチラ「メエエエエエエエエエエ!!」
  横にはマルクスがいた。
マルクス「いやー外からお前が降ってきたとき、ビビったよ。お前を小さくして受け止めようとか、色々考えたんだけど、オチラのガリバーを解除したら、お前を受け止めてくれた。お前、こいつに気に入られてるな」
オチラ「メエエエエエエエ!!」
   タイチ、オチラの目を見つめる。
タイチ「お前の方があいつよりも体はでかいな。ははっははは」
  タイチは体をくの字にして、泣きじゃくる。

○ 秘密基地(内部)夜
  秘密基地にタイチ一行が集まる。
橋口「タイチ、マルクス。体大丈夫か?」
タイチ「なんかオチラの手のひらで眠ったら、怪我とか痛みとかなくなった」
マルクス「私も全快だ」
カニ娘「それがオチラの能力?なのかな?」
タイチ「それで、栗島のやつはどうなった?」
ポスドク「花乃さんのワンマンショーが終わったら、そのまま帰って行きましたよ。みなさん魂が抜けたみたいだったな」
タイチ「そのまま。帰らせたのかよ!」
カニ娘「仕方ないじゃん。政治家を誘拐でもしろっていうの!」
タイチ「あいつらオチラとか能力のこととか色々知ってたぞ」
ポスドク「ではタイチこそ栗島の秘書をどうしたんですか。
マルクス「あのおっさんならここだ」
  マルクス、テーブルに小さくなった木島が入った瓶を置く。
カニ娘「嘘でしょ。嘘でしょ。嘘でしょ!?見知らぬおじさんを連れ去ったの。犯罪者じゃないわたしたち‥‥もしかして、最近牧神市で起こってる失踪事件ってあなたたちの!!」
タイチ「そんなわけねえだろ!!とにかくこのおっさんには聞きたいことがある。おいっマルクス。解除しろ」
  マルクスは瓶から木島を取り出して、元のサイズに戻す。
  木島は手足をロープで縛られて、じたばたしている。
木島「お前ら。自分が何してんのか分かってんのか!!ナッジを敵に回してるんだぞ!!」
タイチ「ナッジってホールディングってやつ?まあ、とにかくボディチェックだ」
  タイチは木島のボディーチェックを始める。木島の手首を注視すると、タイチ
  の顔が凍りつく。
タイチ「お前、このブレスレット一体どこで手に入れた?」
  タイチは腕まくりして、木島の腕のブレスレットとを見比べる。同じものであ
  る。

 
 


  

  

  
  

  


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