半獣神の街 第二話 黒羊

○ 牧羊葬儀斎場(夜)
  レイジ(享年14)の遺影が祭壇の上に飾られている。
  
  第二話 黒羊
 
  黒服の葬儀参列者たちが啜り泣く声をあげている。その中にタイチもいた。
タイチN「俺の生涯最高の親友、牧羊零治は昨年の夏に突然にこの世から姿を消した。大人びていてもイタズラ好きな子供っぽいところのあるあいつのことだから、葬儀が大々的に開かれても、いつものおふざけのような気がした」
  タイチの肩をポンポンと誰かが叩く。
  タイチが振り向くとカニ娘であった。
カニ娘「タイチ、元気してる?最近、学校にも来ないし」
タイチ「(小声で呟く)あいつさあ、何も言わなかったんだ」
カニ娘「えっ?」
タイチ「あいつ一人で相談なく逝っちまったんだ。昔、一緒にこんなチンケな街を飛び出してやろうって話で盛り上がったこともあったのに‥‥」
カニ娘「それにしてもさあ。牧羊洋次郎って零治くんのいとこだよね。葬儀にも来ないなんて酷すぎるよ」
タイチ「あんな奴の話なんてするな!!」
  二人の元にマルクスが現れる。
マルクス「おい!タイチ!久しぶり!それにあんたカニ娘ちゃんじゃん」
カニ娘「ああ、あなた丸楠京子さん‥‥ですよね。わたしは花乃日翔っていいます。カニ娘は芸名なんで出来れば下の名前で呼んでもらえたら‥‥」
マルクス「二人に話しあんだ。あの毒島ってやついるだろ?あいつが秘密基地にでもできそうな小屋見つけたんだよ。こんど二人もどうかなと思って」
タイチ「(憔悴した面持ちで)ああ秘密基地か。まあ、いいね‥‥毒島ってポスドクか。小学校の頃クラスが一緒だったことあったわ。それじゃ‥‥」
  その時、生前に録画されたレイジの映像が葬儀場のモニターに流れた。
  子供の時分のレイジが和服を着て、祭りに来ていた頃である。
レイジ「お父様、お母様。見てください綿菓子です。とても甘いです」
  生前のレイジの姿が歳を追って編集されたビデオだ。
  タイチはそれを見て、目に涙がつたう。

○  N県牧神市(丘の上・夕方)回想
  タイチとレイジは丘の上で街を眺める。
レイジ「タイチくん。僕と友達にならないか?僕は人に心を開けない性格だからね。たまにこうしてこの丘で君とこうやって話をしていたいな」
タイチ「ああいいぜ!」
レイジ「じゃあ、友達の証に君に僕の秘密を教えてあげよう」
タイチ「何だよ。尻に蒙古斑があるとかか?」
レイジ「君がこの世から消したいものってあるかい?」
タイチ「はっ?消したいもの?」

○ タイチの自宅・居間
  幼少期のタイチが父親の袖を引っ張る。
タイチ「ねえ、おとーさん。ママはどこに行ったの?」
  父は顔を歪ませて、足で息子をはらう。
タイチ「ねえ!おとーさん!」
タイチの父「やかましい!」
  父はタイチに指輪を投げつける。
タイチ「痛い!」
父「くれてやる!お前を捨てた女の置き土産だ!」

○  N県牧神市(丘の上・夕方)回想
タイチ「この指輪を消してほしい」
レイジ「分かったよ」
  レイジの手に指輪を渡す。
  レイジの手の甲には羊のタトゥーが彫られていた。
  レイジは目をつぶり、はぁと息を吐き出す。
レイジ「これで指輪はこの世界から消滅した」
  レイジが手を開くとそこには何もない。
タイチ「すごいマジックだな。タネが分からなかった」
レイジ「マジックじゃないんだ。本当に僕は消せるんだ」
タイチ「ああっそうか。俺さ前々からその指輪捨てたかったんだ。せいせいしたよ‥‥ありがと」
レイジ「じゃあ代わりに僕のおすすめの雑貨屋にいかないかい?」
タイチ「ああいこう!」
タイチN「そこで俺とレイジはお揃いのブレスレットを買った。そしてそのブレスレットが何故か‥‥」

○  秘密基地(夜)
タイチ「なんでお前がそのブレスレット持ってんだよ!」
木島「こいつはナッジの知り合いから貰ったんだよ。殺した奴の所持品を戦利品として頂くやつで‥‥」
タイチ「殺した‥‥だと!?」
   一同、タイチと同じく絶句の表情を浮かべる。
カニ娘「そんな、牧羊くん殺されたっていうの!?ナッジに!?」
   タイチ、木島につかみかかる。
タイチ「それはなんてやつだ!!」
木島「お前みたいな物騒なガキに教えるわけねえだろ!!それよりもお前ら“羊飼い”なんだろ?“黒羊さま”の意思を妨害する羊飼いどもが現れると栗島から聞いてたが、こんなガキどもとは」
タイチ「訳のわからねえこと言ってんじゃねえ!!クソ!!おい!!明日学校へ行くぞ!!カニ娘!橋口!来い!お前らの能力が必要になる」
ポスドク「学校へ行ってどうするんですか?」
タイチ「レイジの自殺現場を見に行く。殺人の物証を見つけてナッジの連中の暗部を暴いてやる!!マルクスとポスドクはこいつを見張ってくれ」

○  県立藩中学校・校門前(翌日の昼)
  タイチとカニ娘と橋口は校門前に集合する。
タイチ「それじゃあ、まず何から始めたらいいんだ?」
カニ娘「あんたがいいだしっぺでしょ!何も考えずに探偵ごっこしにきたの!私、ここ久しぶりだから気まずいのよねー」
タイチ「それは俺も同じだ!」
橋口「まあまあ、まずはレイジくんが発見された現場にいって日翔さんの能力を使う。ですね。まずは僕の能力で」
  橋口はタイチとカニ娘の体に触れる。
橋口「僕の4分33秒で体を透明にします」
カニ娘「政治家の車を乗っ取った時は便利だった!」
   選挙カーに乗り込む。カニ娘、ポスドク、橋口のコマをカットイン
橋口「4分33秒で能力が解除するんで、そこから1日使えなくなるんで、その前に身を隠してくださいね」
  三人の体は透明になる。

○ 同・庭
  庭にはカラスの群れが、地面に集まっている。
  三人の体はもう透明ではない。
カニ娘「ここが、牧羊くんが落ちてたところでしょ。飛び降りって痛いってもんじゃないよね」
タイチ「(ムスッ)」
カニ娘「でも、殺されちゃったってことは、あそこから突き落とされたってこと?」
  カニ娘、屋上を指差す。
カニ娘「カラスがまだ集まってる。あの日もやたらカラスが来てたよね。なんかまだついばんでるって感じ」
タイチ「おめえさあ。なにをついばんでるっていうんだよ!あとお前の能力つかえよ」
カニ娘「分かったわよ」
  カニ娘、精神を集中する。
カニ娘M「私の能力ジ・エコーは死んだ人の声を聞く力。もうなんで私だけそんなオカルト能力なのよ!?」
タイチ「どうだ?」
カニ娘「聞こえない。何も聞こえないわ」
タイチ「お前の能力本当に死人の声を聞くやつなのか?」
カニ娘「本当よ。この間なんて死んだおばあちゃんの声とかさ!たまに自動的に発動するの!」
橋口「まあまあ、あっ誰か来ますよ!」
  三人は木立に走り込み。身を隠す。
  警察官(38)がレイジの死亡現場にやってくる。
  教頭(52)と一緒である。腕にギブスを巻いている。
カニ娘「あれって教頭だよね。そういえばずっとギブスつけてるけど、まだ怪我が治ってないんだ。もう一人は警官?」
教頭「牧羊くんは優秀な生徒でした。自殺を止められなかったのは、我々の責任です。ところで、田中さん。このタイミングで来るというのは、何かあるんですか?」
田中「彼の自殺には不審な点が多いですからね。」
教頭「不審な点というと?」
田中「まあそれは立ち話ですることではないですね。校舎の中でじっくりと行いましょう」
  タイチは木立から出て行こうとする。橋口がそれを静止する。
橋口「何のつもりだよ。タイチ!」
タイチ「警察まで動いてるんだ!木島の野郎を突き出して‥‥」
橋口「俺たちの方が少年院行きだぞ!冷静になれ!ここは警察に任せよう」
  タイチ 、おとなしくなる。
  
  日が暮れる。

○ ナッジ食品センター・隠し部屋(夕方)
  室内で栗島秀樹がパイプ椅子にグルグルに縛られている。
  教頭ともう一人の男(30)が栗島を冷たく見下ろしている。
栗島「やめてくれ。許してくれ!全部話したろ!ガキどもにしてやられたんだ!」
教頭「山田諦一の不登校集団が半獣神を持っていったと。それを明らかにしてくれたのはお手柄ですよ」
  壁にはタイチたちの顔写真が張り出されている。
教頭「だが、貴様は取り逃がした。しかも選挙カーで歌謡大会とはね。どう思う。カーディガンくん」
カーディガン「無様、惨め」
栗島「やめてくれ。黒羊様に話を通してくれ。私は政治家としてこれからなんだ」
  教頭は左腕のギブスを取り外す。
栗島M「なんだこいつ?体のサイズに対して腕が小さい?まるで子供の腕みたいな‥‥」
  教頭は左手で栗島の頭を掴む。
  その手の甲には羊のタトゥーが彫られている。
教頭「この手はものを完璧に消滅できる。安心しろ痛みはない」
栗島「うごっやっめっ」

○  同・入り口付近(夕方)
  教頭とカーディガンが歩く。
教頭「そうだ。カーディガンくん。この男のことなんだが」
  教頭はカーディガンに写真を渡す。写真にはレイジの自殺を調査していた警官
  が写っている。
教頭「田中元という。この男はナッジの敵対勢力の可能性がある」
  一陣の風が食品センターに吹き付ける。

○  秘密基地(夕方)
  ポスドクはテレビを見てる。
  マルクスは瓶に入った木島を眺めている。
マルクス「タイチたちおっせーな。おっさんのボトルシップなんて風流がないわな。あっ音がする。帰ってきたのかな?」
  マルクスは秘密基地の外に出る。 
  テレビのニュースが栗島議員の失踪を報じる。
アナウンサー「県警は栗島議員の消息を捜索しています。牧神市では現在だけでも、元県議の五十嵐光春さん。建築会社元船の社長、元船博さん。そして‥‥」
 マルクスの声が外から響く。
マルクス「(外から)おい!遅いぞタイチ!」
ポスドク「しっそう、しっそう、失踪。‥‥黒羊?」


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