半獣神の街 第三話 “イット”

○ 牧神市・市街地から外れの森(夜)
  森の木々の上を、警官の田中元が枝から枝へ飛び移る。
  それを背後からカーディガンが追う。
カーディガン「さあ、鬼ごっこはもうやめだ」
  カーディガンは田中元に向けて、指を振る。すると鎌状のエネルギー波が田中
  の体を切り裂く。
田中「うぐっ!」
  田中は木から落下して、地面に体が叩きつけられる。
  カーディガンは眼下の田中の元に飛び降りて、指を向ける。
カーディガン「トドメだ」
  田中は上体を起こし、拳銃を取り出して、カーディガンの腹を撃つ。
カーディガン「ぐふうっ」
田中「はあはあ‥‥」
  カーディガン、腹をおさえてうずくまる。
田中「ナッジのカーディガンってのはお前だな。しかし、小洒落たニックネームだ。ナッジの忠実なイヌにはお似合いの名だよ」
カーディガン「舐めるな!」
  カーディガン、地面に向かって指を出鱈目に振る。
  地面がナイフで抉ったようになり、爆風で田中とカーディガンが吹っ飛ぶ。
  拳銃が田中の遥か前方の茂みに吹っ飛ぶ。
  田中は顔についた砂埃を手で払い。周りを見渡す。カーディガンはどこにもい
  ない。
田中「ちいっやられたぜ。うんっ!?」
  田中は茂みの向こうに人影を感じて、手近な木の幹に回り込み体を隠す。
  茂みの向こうから、金髪の青い目をした女性が小走りで現れる。
  地面に転がっている拳銃を金髪の女性は拾う。
田中「しまった!?」
  金髪の女性は拳銃をニヤニヤしながら、舐め回すように見る。
  銃を構えて、撃つ仕草をする。

第三話 “イット”

○ 秘密基地(夜)
  タイチたち一向はテーブルを囲って座っている。
タイチ「ナッジの奴らは絶対にゆるさねえ」
カニ娘「ゆるさないって、これはもう警察の仕事だよ。わたしたちにどうにかできるレベルじゃない」
タイチ「俺たちには力があるじゃねえか!」
カニ娘「でもわたしたちまだ子供じゃん!」
橋口「まあまあ、喧嘩しないで。警察も動いてますし。僕たちだってオチラと能力があるじゃないですか。けっして無力じゃないと思いますよ」
カニ娘「つってもねえ‥‥わたしなんて死んだ人の声聞くだけだし」
マルクス「まっ大丈夫だ。特にポスドクは戦力になるんじゃないか」
ポスドク「僕は能力を使いませんよ」
タイチ「はぁ!!マジで言ってんのかよ!!」
ポスドク「皆さんの力は一歩間違えば人をも殺せかねない。僕は殺人の片棒は担ぎたくありません」
タイチ「もういいよ。お前には期待しない」
  タイチ不貞腐れた表情で雑魚寝する。
  その時、戸を叩く音がする。
  タイチ、さっと立ち上がる。
タイチ「誰だ!」
マルクス「ナッジの連中もうここを嗅ぎつけたのか!?」
  金髪の女性が秘密基地の中に入り込む。
金髪の女性「おーい。おめさんらぁ。ここでなぁにいやってがぁー?」
タイチ「あんたは‥‥」
ポスドク「イットだ」

   ×     ×      ×
  
  イット、秘密基地の中でテレビを見ながらくつろぐ。
  タイチ、ポスドクと話し込む。
タイチ「なあ、あいつ何者なんだ?」
ポスドク「街によくでる浮浪者ですよ。いろんな家に点々とお世話になってるみたいです」
  カニ娘も話に加わる。
カニ娘「わたしんちに泊まったことあるよ。なんか親もあの人にやけに好意的で、それであの人って何者?」
ポスドク「知らないよ。イットさんでしょ」
カニ娘「名前なの?何人?日本人じゃないのは確かだけども」
ポスドク「よく分かんない」
  三人の話の輪にイットも加わる。
イット「へっへっへ、おめさんらぁ。これ見てくれぇやあ」
  イットは拳銃を見せつける。
タイチ「なんだよ。そのモデルガン拾ったのか」
イット「へっへっへ、おめさんらにぁやらんて。これでこいつを撃ってみようか?」
  イットは片方の手を突き出す。木島が入った瓶である。
タイチ「お前!それ!?」
  瓶の中の木島はジタバタする。
イット「へっへっへ。楽しそうだてぇ」
マルクス「こいつ!私のリュック漁りやがった!」
  タイチ、瓶を奪い取る。
タイチ「返せ!」
イット「けちんぼぉー、じゃああっちのヤギめぇめぇと遊ぶかてぇ」
タイチ「はっ?ヤギ!?お前オチラを!!」
  イット、マルクスのリュックから顔を出すオチラの顔を鷲掴みにする。
イット「かわいーヤギさんらてぇー」
  マルクス、オチラとリュックを奪い返す。
マルクス「手癖の悪い奴だなこいつ!」
イット「へっへっへ!!」
タイチ「とにかく今日からナッジ打倒計画のはじまりだ!危ないから固まって動いた方がいい」
カニ娘「はっ?それじゃどこで寝るの?」
タイチ「どこって、ここだよ。」
カニ娘「ええ!!お風呂どうすんの!?」
タイチ「風呂は今日は我慢しろよ。ポスドクがいい感じのドラム缶を前見つけたから、明日からあれでドラム缶風呂を作ろう」
カニ娘「食べ物は!?非常食は結構あるけども」
タイチ「食いもんは明日橋口が透明能力を使って、俺ん家から調達する」
カニ娘「泥棒じゃん!」
タイチ「仕方ないだろ。とにかく今日からナッジ打倒に向けて動くんだ。そうだな‥‥今日はナッジアウト記念日だな!」
カニ娘「あんたさあ。彼女ができたら逐一記念日作るタイプだねー」
タイチ「だったらなんだよ!」
カニ娘「じゃあ、せめて着替えだけでも取りに行かせてよ」
タイチ「わかったじゃあ橋口と‥‥」
イット「おらもいくぅてぇ!!」
カニ娘「うーん。まあイットさんは前に家に泊まったことあるし、いいかな」
タイチ「なんでお前らこんな得たいのしれないやつを家に泊めれるの?」

○ 国道沿い(夜)
  夜道をカニ娘、橋口、イットが歩く。
  その姿をドローンが追う。

○ ナッジ本部・視聴覚室
  部屋にはモニターが置かれており、街の様子が空撮されている。
  映像にはカニ娘と橋口が映っている。イットはカメラに映し出されない。
  その模様をナッジ職員二人が見つける。
ナッジ職員A「いたぞ!花乃日翔と橋口隆だ!」
ナッジ職員B「さっそく本部に報告だ!」

○ 国道沿い(夜)
  イットは空中のドローンを見つめて、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。

○ ナッジ本部・視聴覚室
  カニ娘と橋口が映った映像が砂嵐になる。
ナッジ職員A「なんだ?故障か?」

○ 国道沿い(夜)
  イットが立ち止まって空中を見ているのを、カニ娘と橋口は不審がる。
カニ娘「あのお、イットさん?何やってるんですか?」
イット「いやぁ星が綺麗だすけぇ」
カニ娘「ああ、確かに綺麗な星空ですね」

○ 牧神市・全景(朝)
  牧神市に朝が来る。

○  同・路上(昼)
  橋口はメモ見ながら歩く。
橋口M「はぁこんな能力持ったばかりに‥‥俺パシリじゃん」
洋次郎「よう!橋口!」
  橋口が振り返ると、牧羊洋次郎と取り巻きたちがいた。
  
○  公園・砂場(昼)
  砂場の中で、牧羊洋次郎の取り巻きたちが、一人の男子生徒を足蹴にしてい
  る。
  洋次郎は、その様子をただほくそ笑みながら眺めている。
  隣の橋口は顔が青ざめている。
橋口「ねえ、なんで丸山くんをいじめるのさ?」
洋次郎「なんでって、キモくてさ、それに何より‥‥」
  洋次郎、橋口の耳元で囁く。
洋次郎「お前のダチだったやつだから」
橋口「やめさせてくれ。もうこんなこと」
洋次郎「じゃあ、お願い聞いてくれるかな?」
橋口「なんだ?」
洋次郎「君が丸山を蹴り飛ばしたら。やめてやるよ」
橋口「は?」
洋次郎「大人の社会って理不尽が多いじゃん?みんなと輪に加わっていじめもできないようなやつがさ。そんな理不尽社会生きられないっしょ?」
  橋口、睨みつける。
橋口「お前、変わったよな。子供の頃はそんなんじゃなかった」
洋次郎「ほら早く蹴ろよ!早くしないと、丸山の身ぐるみ剥がさせるぞ!!」
  洋次郎は取り巻きにアイコンタクトを送る。
  取り巻き、丸山くんの服を脱がせにかかる。
橋口「やめろ!分かった蹴るよ」
  橋口、丸山くんのもとへと近づき、足を上げる。足は空中でガタガタと震え
  る。
イット「おめら!やめるんだぁてぇ!」
  イット、キックボードで公園に駆け入る。
イット「弱えぇもん痛めつけてぇ!!それでよく平気でいられるなぁ!!」
洋次郎「ははっ!!また一人社会のクズが現れたな!!」
  洋次郎はイットに詰め寄る。
洋次郎「お前もいたぶってやろうか。カス!」
  イット、洋次郎の額に拳銃を突きつける。
洋次郎「なんだよ。こんなモデルガン。こんなの買う金があるのかよ」
  イット、洋次郎の襟元を掴む。
  イットの雰囲気が変わる。
イット「お前‥‥殺すぞ?」
洋次郎「は?こんなおもちゃで何が」
  洋次郎、イットの腕を引き剥がそうとするができない。
洋次郎M「なんだこの腕力?」
  洋次郎の顔が汗でびっしょり。
洋次郎「放せ。放せ。放せー!」
  イット、カチャッっと撃鉄をおこす。
イット「ばーーーーーーん」
洋次郎「うわーーーーー!」
  イット、腕を離して、破顔する。普段の雰囲気に戻る。
  洋次郎、放心して倒れ込む。
取り巻き「洋次郎さん!」
洋次郎「お前ら!帰るぞ!」
  洋次郎と取り巻きたち退散する。
  橋口は丸山に自分の上着を着せてやり、肩を支えて立たせる。
  そして丸山を連れて公園から出て行く道すがらにイットに顔を向ける。
橋口「ありがとうございます!!」
  イット、にやにやと笑い、空を見上げる。
  イット、空中を飛び交うドローンに狙いを定めて、拳銃の引き金を
  引く。
  プロペラを撃ち抜かれたドローンは地に落ちる。
  イット、落ちたドローンを踏みつける。また雰囲気が変わる。
イット「音声機能は残っていますね。では、ナッジの皆さん。聞こえてますか?半獣神の所在は把握しました。黒羊さんとやらに伝えてくださいね」
  イット、ニヤリと笑う。
イット「お前を逃さないと」
  イット、ドローンを踏み壊す。

  
  

  

 
  


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