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<イシグロくん> 元気ですか?

高校1年生のとき、席が近かった<イシグロくん>。スィートでもビターでも何でもない思い出の数カットですが、その割にあまりにもくっきりと、彼との記憶は私の脳裏に残っています。あれは何だったのだろう・・・
私の中に潜在する<お茶目なツボ>にハマったまま、数十年経った今でもそこに居座っています。とは言っても、殆ど奥にしまわれていて埃を被ってはいますが。

キーはYMO、ユーミン、スティーブ・マックイーン、バスケットボール、そしてあるカップル。
<イシグロくん>は身長は高くボディはスレンダーですが顔は大きく決してハンサムではなかった。大き目の男爵イモを前後に少し潰した感じ、髪はさらっとしていてかき上げる仕草は多かった。裕福なお家だったみたいでいつも人とは違うちょっといい物を持っていたという印象。スニーカー、スポーツバッグ、バスケのときのトランクスなど。自意識は過剰気味でした。

episodeⅠ YMOとユーミン

席が隣だったか前だったか後だったかの<イシグロくん>

「おまえユーミンのアルバム持ってんの?」
「うん」
「俺のとトレードしない?」
「誰のと?」
「イエローマジックオーケストラ!」
(注※このとき私はまだYMOを知らなかった)
「えーっ、<イシグロくん>クラシック聴くのー?」
(注※「オーケストラ」というワードに私は反応)
「バカ!テクノポップだよ」
「・・テクノポップ?」

現代とは違い音楽メディアは直径30㎝のLP盤で、大きなアンプ&スピーカーで聴いた時代。盤が曲がったり、ジャケットが傷ついたりしないよう注意をはらいながら大事に抱えて持参。
初めて聴くテクノポップは「何コレ・・?」というのが率直な感想でした。そのすぐ後、世界的に爆発的人気。
<イシグロくん>が、ユーミン聴くんだ・・・と思ったものでした。

episodeⅡ 愛しのスティーブ・マックィーン

スティーブ・マックィーンの大ファンでした。テレビ放送されたアリ・マッグロー共演の<ゲッタウェイ>を見て好きになり、以来何らかの形で全ての映画(TVドラマ以外)は観ていると思います。昔の大俳優です。1930年生まれ、1980年に50歳で亡くなっています。

一時期「恋してる」という感じで、学校の図書室に行っては映画に関する本や雑誌を手にS・マックイーンのこと何か書いてないか探したりしていました。インターネットやスマホが無い時代です。

世界史の授業で「19〇〇年に・・・」と先生が言えば
「はぁ・・・スティーブが△△才のときだわ・・」などとなぜか<イシグロくん>に向けて呟く私。
そんなことが続いたある日
「なぁ、おまえ、そんなにスティーブ・マックイーンが好きなの?」
「うん好き」
「だけどよー、あいつだってウ〇コするんだぜ」
「・・・・」
「オ〇ラもするんだぜ」
「・・・・(えーっ)・・」

生理現象を言うのも知られるのも恥じらう年頃。今の私なら「別に」「人間だから当然」「それが何か?」と返してスルーするんでしょうし、ここで取り上げるような思い出にもならなかったかも。

でも、「たしかに・・」と思うところもありました。どんな大スターでも霞を食べて生きてるわけじゃなし。同じ人間なんだよなぁ、とムッとしながらも納得する自分がいました。

episodeⅢ バスケットボール

<イシグロくん>も私もバスケット部でした。

バスケットシューズの滑り防止のためにコートの隅に濡らした雑巾が常に置いてありました。

ある日、夕方の部活時。
<イシグロくん>はドリブルで一人速攻、サイドからゴール下に回ってシュートを狙いました。が、ゴール下にたどり着く前にコーナーの雑巾を踏んでしまい大きく滑ってお尻から転倒してしまったのです。一瞬みんなクスっとしましたが、こんなことは別にとりわけ珍しいことでもありません。私もすぐ忘れました。

しかし翌日、教室で<イシグロくん>は「昨日のことは誰にも言うなよ」と。私は瞬時に何のことか分からず、「昨日のこと?」というリアクション。

「昨日、俺が滑って転んだことだよ」
「なんで?別にいいじゃん、バシュー履いてれば滑るときあるし」
「ダーメなんだよ!俺がカッコ付けてんのに恥ずかしいだろ!おまえが言わなきゃクラスの誰も知らないからさ」
「そんなに知られたくないの?」
「きまってるだろ」
顔がマジでした。

そんな風に口止めしてくるから、改めてあの映像を巻き戻して何度も見たりして、そのカッチョ悪さに気が付いちゃったりするんです。
でも理解できないんですよね。今でも。だって、そのレベルの<イシグロくん>の笑っちゃうこと、他にいくつも目撃していて、<キメラレナイヤツ>って知ってましたから。みんな。

episodeⅣ 他人の恋路・・微笑ましいカップル

家も近所で、小学校、中学、そして高校と一緒だった、いわば<竹馬の友>と呼べる男子Gくんが居ました。少し小柄で、素朴で、野球部、やはり決してハンサムではなく、私にとっては気兼ねなく付き合える友でした。

<イシグロくん>とは真逆なタイプ。

Gくんは、私と<イシグロくん>と同クラスの女子、華奢で可愛くて上品で、お勉強も学年でトップクラスのTさんとカップルでした。Gくんは放課に私たちの教室に来てはTさんとよくお喋りしていました。
それを遠まきに見ながら<イシグロくん>、
「なぁ、なんでTはあんな夏ミカンみたいなヤツがいいんだ?」

「ジブンだってジャガイモなくせに・・」
とは、口にこそ出しませんでしたが。この人は自分に気が付いていないのか、自分は<イカした男の子>とでも思っているのか・・・。そこのところ、あの日なぜ私はハッキリと聞かなかったんだろう。

episodeⅤ おしまいに

その後クラスも変わり、私はバスケ部もやめ、<イシグロくん>とは高1の1年間だけでしたが、廊下ですれ違っても、何らかの機会で顔を合わせても、挨拶するでもなく、不思議なくらいに他人同士でした。
卒業後はもう全く知りませんし、彼の情報を聞いたこともありません。

<イシグロくん>、元気ですか?今、どんな大人になってますか?


















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