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新インド ダイバダッタは今いずこ

 先日、『インド外交の流儀』の書評を読んで、なぜかダイバダッタと思い出してしまった……。

 インドが中国を抜いて人口世界一となったということで、世界から注目を浴びてます。
 人口が多いということは消費者が多いということで、若い割合が多いということは労働力も豊富ということですから当然でしょう。
 しかもIT大国。優秀な人材も多い。もっとも貧富の差や学習差といったらいいのか、就学できなかった層や知識の習得が難しい層も厚い。

 タイトルにあるダイバダッタ。これを知っているのは、BBA、GGIレベルの世代だろう。原作が石ノ森章太郎の子供向けTVドラマ『イナズマン』に出てくる主人公の師匠である。
 子供の頃、インドの山奥にはダイバダッタのようなスーパーヨガ仙人がいる――と信じ切っていたわけではない。子供心にもちょっと眉唾とか思っていた。でも、やっぱりちょっとは信じていた。
 今思うと、日本の人里離れたところに忍者が住んでいると思い込んでいる――あるいは、そう思いたい外国人のようであった。
 そう言えば、ジェット・リー(李連烈)デビュー映画『少林寺』が大ヒットしたとき、中国で映画に出てくるようなカンフーの老師が山奥にいるに違いないと家出する少年が続出したとかいう話を小耳にはさんだことがあった。「何て純朴な子供たち……でもアホか」と思った。
 数年後、中国留学していた前世紀に、ある日本人青年がダイバダッタの中国版なカンフーの老師を探し歩いているという噂を聞いた。え? 現代日本人青年が? 「アホか……でもある意味純朴なのか?」と思った。
 だが、ダイバダッタって眉唾だけど、もしかしてもしかするといたりして……と微かな期待を捨て切れなかった子供時代の自分と被るものを微妙に感じてしまう。子供であったとは言え、過去の我が身がちょっとイタい。彼らを笑えない。

 くだらない話だが、もし、仮に本当にダイバダッタのような人がいたとしたらどうなんだろう。前世紀はまだしも、現代では山奥で隠遁生活なんて、国土の広いインドだって無理だろう。
 そういう情報を嗅ぎつけた途端、TVや雑誌――いや、ユーチューバーか――が草の根分けて探し出して、TVや動画で配信するんだろうな。インド版の『激レアさんがなんちゃら』とか『マツコの知らない世界』とか『徹子の部屋』とかに取り上げられて、スタジオに呼ばれて、いつの間にやらすっかりタレントになっちゃってそう……。

 バカ話はさておき、学生時代に当時の現代中国研究の大家であった故・中嶋嶺雄氏の学生向けの小さな講演を聴きに行ったことがある。どういう内容だったか、もう全然覚えていないのだけれど、中嶋先生が「中国とインドの比較研究をしたら面白いかもしれない」と言っていたのだけは記憶に残っている。
 そして、今、まさにそうなった。インド、面白くなってきたようです。
 中嶋嶺雄氏に関してあまり評価しない人もいるようだが、そのことについては確かに先見の明があったようである。
 そう言えば、若い頃、一緒に働いていた中国人の同僚が彼の著書を読んで、彼の論は現実中国とは違うと否定していた。随分前の話で、これまたさっぱり詳細を思い出せないのだが、そのときに私は同じ物事でも視点や立場を変えると違って見えるのだなぁと知った気がする。些細なことだが、ちょっとした目から鱗な出来事であった。

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