6 遠藤周作「私が 棄てた 女」を読んで

 70代の知り合いが「この本いいよ」と言っていたこともあり、期待して読んだ。
 主人公の森田ミツは遠藤周作にとって思い入れのある登場人物であり、どこかのエッセイで自分自身の理想を具現化したと言っていた気がする。

 しかし、僕がこの本を読んで思ったのは、果たしてこの小説に表現された自己犠牲的な生き方は、2024年を生きる若者が理解できるのだろうか?ということであった。
 今テレビでは「不適切にもほどがある!」という番組をやっており、そこで「頑張れ」という声かけをされた社員がそれはパワハラだと言い出す、という一幕がある。これはドラマだけの問題ではなく、僕自身も入社して1日目の新入社員に仕事を教えていた時に「だる。めんどくさい」と面と向かって言われたことがある。
 このように、現代では権利を個々人が主張するようになってきており、我慢が美徳であった時代は過ぎ去ったように思う。

 さまざまな生き方があっていいと思うし、森田ミツのことも、「だる。めんどくさい」と言ってきた若者のことも否定する訳ではない。ただ、現代の価値観と小説内での価値観の違いに僕は強い戸惑いを感じた。

 遠藤周作は、自分の身を犠牲にしてでも他人のために動ける人を理想としたのだろう。志を同じくする人は、現代にはどれだけいるのだろうか?とは思う。

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