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文学研究 拙稿「安部公房とエドガー・アラン・ポー(一)――「異端者の告発」「どれい狩り」「第四間氷期」をめぐって――」の要旨

 拙稿「安部公房とエドガー・アラン・ポー(一)――「異端者の告発」「どれい狩り」「第四間氷期」をめぐって――」が二〇二二年九月刊行の『京都大学國文學論叢』第四七号に掲載された。本文は以下のURLから読むことができる。

https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/handle/2433/276903

 興味があれば目を通していただきたいが、論文はそれなりの分量があるので、時間を損しなくてもいいように要旨を以下に記すので、どうぞご参考に。なお、(一)とあるように、続編を構想している。

 戦後を代表する前衛作家、安部公房(以下、公房と略)はエドガー・アラン・ポー(以下、ポーと略)を高く評価し、生涯を通じて彼に言及し続けていた。公房にとってポーは創作の起点となった重要な作家であり、その影響は甚大であったと考えられるが、従来の研究で両者の関係を論じたものは僅少であった。そこで本稿では、公房の読んだポー作品の確定と本文の比較を行い、ポーからの影響関係を明らかにした。公房は、英語が苦手だったとたびたび述べていたため、ポーを翻訳で読んだ蓋然性が高い。年譜やエッセイでの発言、対談やインタビューでの発言から、具体的には一九二九年から発行された新潮社の『世界文学全集』シリーズ、春陽堂の『エドガア・ポオ小説全集』、作品集『赤き死の仮面』(一九二〇年六月、言誠社書店)を読んでいたと推察される。以下、ポー作品の本文は上記三種のいずれかから引用している。
 比較した作品は三作で、まず公房「異端者の告発」について論じた。ドッペルゲンガーがストーキングと忠告を繰り返すという点などが類似していることから、この作品はポー「ウィリアム・ウィルスン」を下敷きにしていたと考えられ、両作品の相違点から公房は、個人内部におけるマイノリティに対する共感と拒絶の葛藤を主題にしたと考えられる。二作目は公房「どれい狩り」を取り上げ、騙りのために珍獣の扮装・演技をする点がポー「ちんば蛙」に類似しており、その差異を踏まえ、「どれい狩り」は国家の理不尽さをテーマとしていたのではないか、と推察した。最後に公房「第四間氷期」に登場する死体と会話する場面が、科学技術によって死者と会話する点、死者が施術者に体を操られる点、一連の行いが実験を目的とする点でポー「ヴアルデマア氏病症の真相」に似ていることを指摘し、両作品の違いを参考に、「第四間氷期」は科学技術とその使用者には、人間を物のように扱う傲慢さがあること、および科学研究と政治の結びつきを描いていると解釈した。
 以上、まとめると、公房はポーから多大な影響を受けており、「異端者の告発」、「どれい狩り」、「第四間氷期」はポー作品を下敷きにして創作されたと考えられるが、物語の展開や設定を取り込みつつも独自の主題が加えられていた。



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