見出し画像

雑記15 最近観たホラー映画13——「イット・フォローズ」「ホステル」——

 セックスが恐怖の扉になる「イット・フォローズ」は奇怪な怪物に追い回される作品で、じんわり恐ろしさが迫ってくる。画面構成はいいが、ネタはありふれたもので、ストーリーにも特段ひねりはない。7点か。性行為と死の結びつきはアメリカン・ホラーの定石であり、スラッシャーものではセックスが死亡フラグになっていて「スクリーム」でもそのことがネタにされている。題名に入っているITからは、スティーブン・キング原作の映画「IT」が想起される。ヴィランが正体不明な点、様々な姿に変化する点が両作に共通するが、ペニー・ワイズが水のようにどんなものにでも変身できる一方、本作のITが変身するのは人間だけである。セックスにより恐怖が伝染していく設定は「エイズ・メアリー」、日本では「ルージュの伝言」として知られる都市伝説から取っているのだろう。内容は次の通り。海外旅行中の男が現地の女性とセックスした後、眠りに落ちる。翌朝目覚めると女はいなかった。男が浴室へ行くと、鏡に「Welcome to the world of AIDS」と書いてあり、愕然とする。都市伝説におけるAIDSが「イット・フォローズ」では化物に変更され、死の恐怖がより直接的で暴力的なものになっている。余談だが、高橋葉介『学校怪談』には「渡り蛇」というキスによって人から人へ乗り移っていく蛇が登場しており、性行為で呪いが感染する点が似ている。化物が様々な人間に変化する点はペニー・ワイズに引っ張られたと考えられるが、一方でフレゴリの錯覚に影響を受けた可能性もある。フレゴリの錯覚とは、あらゆる人物が一人の人間の変装した姿だと思い込む脳疾患で、本作の主人公・ジェイが自分に近づいてくる人間をITじゃないかと疑っている。
 同じく都市伝説に類似した作品に「ホステル」がある。トーチャー・ポルノの有名作品だが、拷問シーンが凝縮されているわけではなく、頭から終りまで延々と人を痛めつける作品かと思っていたので少し拍子抜けした。6点くらいか。拷問を話の主軸に据えた作品といえば「オーデイション」で、こちらの方が格段に面白く、怖い。9点の名作。本作はこの作品から着想を得たと思われ、「オーデイション」監督の三池崇が「ホステル」に役者として参加している。その他本作には、日本の都市伝説なり、怪談なりを参考にした形跡が見られる。旅行客が海外で誘拐され、金持ちの道楽に拷問されるという設定は都市伝説「忽然と消えるブティック客」から影響を受けているのだろう。海外を訪れた夫婦が服屋に入り、妻が試着をするのだが、どれだけ経っても出てこない。不安になった夫が試着室を見てみると、中は空になっている。夫は必死で妻を探すも遂に見つからず、失意のまま帰国。その数年後、ひょんなことから妻が拷問・強姦されるビデオを発見する。以上が伝説の内容だが、オチはいくつかバリエーションがあり、妻が海外の売春宿で働かされている事実を知ったり、だるま女にされて弄ばれている映像を目にしたりする。いずれにせよ、誘拐された旅行客が拷問に遭うという点は共通しており、「ホステル」の設定に類似する。ブティックで女性が消えるというネタの大本は「オルレアンの噂」というフランスの都市伝説らしく、日本の会談はこれに悲惨な結末を付与したものとなっている。また、本作には被害者の一人に日本人女性が登場しており、拷問の結果、彼女の顏は見るも無残なものになるのだが、その容貌は鶴屋南北「東海道四谷怪談」のお岩さんにそっくりである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?