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92歳 三石巌のどうぞお先に 38

三石巌が1994年から産経新聞に掲載していた「92歳 三石巌のどうぞお先に」の記事を掲載させたいただきます。(全49回)


薬の副作用

活性酸素より“恐ろしい”抗がん剤

 よその国ではどうか知らんが、日本人ならだれだって薬の副作用を気にしている。それについての一面のヒントが前回にあったはずだ。それは、がんをはじめとする成人病のもとになる活性酸素だった。電子ドロボーのニックネームのつく凶悪犯だ。
 医者先生だって、副作用を承知のうえで薬をだす。友人が、ある離島の診療所をうけもたされた。カレが栄養療法をとりいれたせいで、薬の売り上げが前任者の十分の一におちこんだ。すると、県からおしかりをうけちゃった。これは、医療費の膨張に頭をなやましている国の話だよ。
 こんな話をいやがる手合いがいるらしいから、ほこ先をかえるとしよう。
 血圧がたかいといえば、ハンコでおしたように降圧剤がだされる。そして、つづけなけりゃだめだとくる。何十年も血圧の薬をのんでいる人はめずらしくないようだ。六十歳をこしたら、降圧剤のおかげでたすかる人はないっていう統計的事実があるんだがね。さっきとべつの友人の医者先生は、絶対に薬をのまん、といっている。
 薬の副作用は、ゲドクからくる活性酸素だけじゃすまないってことがのみこめたかな。活性酸素のほうは打つ手があるから簡単だが、もうひとつのやつがいやだよ。
 じつは、副作用のいちばんすごいのは抗がん剤だ。それと免疫抑制剤だ。このふたつは、抜群の発がん物質として有名なシロモンなんだ。
 ここまでのお勉強で、DNAが電子をぬすまれるのが、がんの始まりだってことを知ったはずだが、ぬすまれてこまる場所はきまっているんだな。きまったところをいくつかやられなけりゃ、がん細胞はできあがらん。
 こりゃ、やっかいな仕事だ。よっぽどながい時間をかけなかったら、こんな難事業はできっこないさ。電子ドロボーがねらう場所はでたらめなんだから、こりゃ大変なこった。
 DNAの電子をぬすまれてこまる場所を急所といっておく。それは、DNA上の遺伝子の意味だ。
 その細胞がホルモンを作るのが役目だとすれば、その設計図をもつ遺伝子があるはずだ。この遺伝子がやられたらこまるじゃないか。急所とはそういうものだ。
 急所はまだある。その細胞が、がん化したらこまるだろう。そのがん化をおさえる遺伝子がある。その遺伝子がやられたら、がん化にはつごうがいいわけだ。それも急所なんだな。

三石理論研究所


三石巌
1901年 東京都出身
東京大学理学部物理学科、同工学部大学院卒。
日大、慶大、武蔵大、津田塾大、清泉女子大の教授を歴任。
理科全般にわたる教科書や子供の科学読み物から専門書にいたる著作は300冊余。
1982年 81歳の時、自身の栄養学を実践するために起業を決意し、株式会社メグビーを設立。
1997年 95歳で亡くなるまで講演・執筆活動による啓発につとめ、
生涯現役を全うした。


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