三石巌全業績-4 日常生活の健康情報
三石巌の書籍で、現在絶版して読むことができない物の中から、その内容を少しずつですが皆様にご紹介させていただきます。
第5章 治療法を工夫しよう
コレステロールは悪玉か
コレステロールなどということばは、本来は七面倒くさい学術用語なのですが、今日では常識用語のようになっています。
考えてみればまったくふしぎですが、それというのも、老化の恐ろしさのあまり、せっかちにこれをまず老化の元凶として指名手配したということになります。
まず、ネズミの実験を紹介しましょう。ルノーというカナダの学者が、コレステロール5%、バター40%のえさでネズミを飼ってみました。
ただし、タンパク質の量を、A群では8%、B群では23%にしました。すると半年間に、A群では55%に心筋梗塞がおき、85%が死にました。
ところがB群では、心筋梗塞をおこしたものも死んだものもありませんでした。ここで私たちはまたしても、タンパク質の価値に気づくのです。
コレステロールは脂溶性の物質ですから、脂肪、とくに動物性脂肪にかならずふくまれています。
それで、卵黄を敬遠するという常識が生まれたのですが、コレステロールには重要な役割があるために、食物からとる量の2倍から5倍もが肝臓で合成されるのが実情です。
コレステロールは人体を構成する60兆個の細胞の膜に組みこまれているばかりでなく、それを原料として、からだは、ビタミンDのほか、副腎皮質ホルモン、性腺ホルモンなど、多くのステロイドホルモンを合成しているのです。
そうかといって、血中コレステロール値の高いのはほめたことではありません。これが動脈壁に沈着する下地となるからです。
血中コレステロール値を高める条件としては、肥満や糖尿病があげられます。
そして、それを低める条件としては、運動のほか、野菜、ビタミンE・C、レシチン、リノール酸、ニコチン酸の摂取があげられます。
血中コレステロールの余剰は胆汁にまじって十二指腸にすてられます。
野菜の線維は腸内細菌の栄養になりますが、この微生物が胆汁のもちこんだコレステロールを分解してくれるのです。
そして、分解されなかったコレステロールは、小腸壁で再吸収されます。この一事を見ても、コレステロールの重要性がわかるのではないでしょうか。
血中コレステロール値をさげる薬もないではありません。脱コレステロール剤はいろいろですが、体内でコレステロールを合成する反応を阻害するものと、分解する反応を促進するものとに分けることができます。
どちらも、反応の対象をとして中性脂肪をふくむので、血中コレステロール値とともに血中中性脂肪をひきさげる結果になります。
分解促進剤となるのはタンパク同化ホルモン、女性ホルモン、甲状腺ホルモンなどですから、副作用が心配です。
なおビタミンCには、コレステロールを分解して胆汁酸に変える働きがあります。脱コレステロール剤の副作用が問題にされている今日、ビタミンCの再評価が必要でしょう。
善玉コレステロールの話
コレステロールは、全身の細胞の膜にあって、膜の実質がやたらに動かないようにブレーキをかける役目をしています。
そしてまた、コレステロールは血中にもあります。
この血中コレステロールは、リポタンパクという物質と結合した形になっています。
リポは脂質の意味ですから、リポタンパクは脂質とタンパク質が結合した、いわゆる複合タンパクということになります。
ところが、このリポタンパクには、分子の小さいのと大きいのとがあります。小さいのを高密度リポタンパク(HDL)といい、大きいのを低密度リポタンパク(LDL)といいます。
ご承知のように、コレステロールが血管壁にひっかかってはこまります。ところが、これが血管壁を素通りできるかどうかは、分子の大きさできまるのです。結局、HDLと結合したコレステロールは血管壁に沈着することになってしまいます。
そこで、高密度リポタンパクと結合したコレステロールは善玉、低密度リポタンパクと結合したコレステロールは悪玉とよばれるようになりました。
それなら、低密度リポタンパクを少なく、高密度リパタンパクを多くしたい、と誰しも考えます。
そして、これをやってくれる方法の一つは、ビタミンEをとることです。
コレステロールが善玉とか悪玉だとかいう話は、それが血中にあるときだけの話ですので、おまちがいのないように。
胆石はとけるか
胃けいれんは痛みの王様です。ところがこれは、胃の病気ではなく胆嚢の病気です。胃けいれんという病名は錯覚の産物なのです。
胃けいれん、つまり胆嚢炎がおきるのは、胆嚢に細菌が侵入したときです。
胆嚢には、砂粒ほどの小さな石や、ニワトリの卵ほどの大きな石がたまることがあります。それを胆石といいますが、それが、1個のこともあり数千個のこともあります。
胆嚢炎をおこした胆嚢には、たいてい胆石がみつかります。
肝臓は胆汁をつくって胆管から胆嚢に送りだします。胆嚢にたまった胆汁は、必要におうじて総胆管から十二指腸にでていきます。
胆嚢は胆汁をためるためのタンクといえましょう。
十二指腸のあたりは、本来ならば腸内細菌のすみかではありません。しかし便秘が続くと細菌がここまであがってきて総胆管から胆嚢にもぐりこむことがあるのです。
恐らく、胆石がつくった傷に細菌がとりついたとき、炎症がおこるのでしょう、 胆石の正体は、たいていはコレステロールですが、回虫感染によるものはビリルビンの石です。
これらの石が、カルシウムの殻をかぶっていることもあります。
胆石のコレステロールは胆汁にふくまれていたものが析出したと考えることができます。
胆汁中には、血液中とほぼ同濃度のコレステロールがあるのです。
胆嚢にたまった胆汁には胆汁酸やレシチンが含まれています。この2つが十分にあれば、コレステロールが石になることはありません。
胆石もちの人の胆汁中のレシチンの量は、胆石もちでない人のそれの三分の一、というデータがあります。
犬の胆汁をとりだして、そのなかに胆石をいれると、とけてしまいます。
レシチンはリン脂質の1つで、重要な物質として知られていましたが、そのレシチンに、胆石を予防する働きがある、とみることができます。
これで胆石がとける可能性も 否定できません。
最近、胆石をとかす薬が発売されました。これは胆汁にふくまれる胆汁酸の30?40%を占めるケノデオキシコール酸か、腸内細菌の働きで変化したウルソデオキシコールを主剤とする薬です。
ウルソデオキシコール酸は熊の胆汁に含まれています。犬や熊には胆石ができません。
肝臓をたいせつに
どことなく大儀で食欲がないとき、肝臓の病気を疑ってみるのがよいと思います。かゆみ、吐き気などがこれに合併したら、疑いはますます濃厚になります。
そういう症状があっても、いっこうに思いあたる原因のない場合はめずらしくありません。
この時代には肝臓を傷める原因はいわば無数にあるからです。PCBも、光化学スモッグも、農薬も、肝臓を傷めつけ攻撃する力を十分にもちあわせているのです。
ところで肝臓がはたして悪いかどうかは、血液検査で確認することになっています。
肝臓の細胞に貯蔵されるべき物質、すなわちGPT、GOTなどの酵素が血液中にでてきていれば、肝臓がこわれている証拠をつかまれたことになるわけです。
血液にはそういう証拠物件が25種もありますから、これを比較検討して、急性肝炎か、慢性肝炎か、肝臓ガンか、肝硬変かの診断をくだすことできるわけです。
肝臓病で入院すると、肝臓食を食べさせられるだけで、とくに薬のごやっかいにならないのがふつうです。
へたな薬を使えば、肝臓に負担をかけるだけになるからです。肝臓食の特徴は、高タンパク、低脂肪食ということになっています。
なぜそうなのかといえば肝臓は自分のつくりかえのために、たえずタンパク質をほしがっているから、そして脂肪の消化は肝臓の負担になるからです。
肝臓病の場合は、さらにビタミンB2をたっぷりとらなければなりません。そして、食塩はへらすことです。
食塩にはビタミンB2をつれだす働きがあるからです。
患者は、なるべく床についているほうが有利です。横になっていると肝臓の血流量が3倍近くまでふえ、それが病気の回復に役立つからです。
【三石巌 全業績 4「日常生活の健康情報」より抜粋】
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