20年前のインド(初海外一人旅)〜デリー初日編~

荷物の検査を終え、空港のロビーを出ると深夜とは思えないおびただしい数のインド人が待ち構えていた。
ほぼ全員何か叫んでいる。
怒っているのか悲しんでいるのか喜んでいるのかも分からない。

これは雰囲気に飲まれる・・・なんだかコワイ。

朝まで空港で待とうかな。。。
そう思いなかなか第一歩が踏み出せないまま躊躇していると
僕の名前を叫ぶヤツがいた。
デリーで?こんな深夜に?

あたりを見渡すとアルファベットで僕の名前を書いた紙を持ったインド人がいた。誰やねん・・・
「ホテール、ホテール!」
むむ、あぁ、そういうことか。
全く確認してなかったのだが、どうやら空港までのお迎えがついていたらしい。
さすがにこの状況で詐欺ってこともないだろうということで
ヘトヘトになった体を車に押し込み、ホッと一息。
ここで運転手が何かまくし立てていて、ある事に気づく。

俺、英語しゃべれへんやん。

インドなまりを差し引いても分からん。
大学受験で覚えた単語は1000や2000を超えるはずだが
会話なんてしたことねー。
なんとかカタコトで会話を成立させながら
車の窓から沿道をみるとまさに漆黒。

それでも時折電灯ひとつで営業している屋台が点在しており、
明かりに近づいていくと何の店かがわかる。
暗闇に浮かび上がる巨大な生肉・・・
ビクッとする。

なんでやねん。

ロクに人も通らない真っ暗な夜道で何故、生肉を売っているんだ?
素朴なというより、怒りにも似た疑問を感じながらも
異国に来た実感が湧いてきた。
もうエピソードなんてなんでもいいのだ。
日本であり得ないこと全てが異国(インド)情緒に変換される。

ひたすら暗闇の道を通り、ようやくホテルに着いた。
は?あり得ないくらい豪華。
マハラジャツアーではなくバックパッカーがしたいんだよ、俺は。

旅行会社の気遣いか、初日はやたらと豪華なホテルに宿泊。
何をしゃべったかも覚えてないが、無事にチェックイン。
案内された部屋もそこそこキレイではあったが、ところどころボロい。
隣の部屋ではファランが何か騒いでいる。

お湯が出るかも確認し、疲れていたのでシャワーを浴びて眠りにつく。
明日からやれんのか?俺。

翌朝目覚めると深夜とは違い、明るくなった部屋の掃き出し窓からは
街が一望できた。どうやらここはニューデリーの中にあるようだ。

おぉ、インドらしい街並み。たまらん。
写真を撮ろうと窓を開け、小さなバルコニーに出たその瞬間。

ファサササー!バサバサッ!

!!!!

足元で大きな何かが動き、反射的に部屋に逃げ込む。
よく見ると弱った鳥がベランダにいたらしい。
とはいえ、スズメやハトのレベルではない。
ハゲタカくらいの怪鳥が横たわっていたのだ。

いきなり肝を冷やしたが、幸い部屋の中になだれ込んで来ることはなかったので窓を閉めて朝食に向かう。

これもインドか・・・
これは便利な解釈でこの後何度となく感じることになる。

ペラッペラの食パンとコーヒーの朝食を取り、
いよいよ街に向かう。

「歩き方」の地図のページを開き、現在地を確認。。。
ココのはず・・・
どういう見方をしても目の前の地形と地図が合致しない。
これが「地球の迷い方」と揶揄される理由か等と思っていると
ひっきりなしにオートリキシャがこちらをジロジロ見ながら通り過ぎる。

あ、インドルピー持ってない。

慌ててホテルに戻り、ロビーで両替を頼む。
たぶん死ぬほど悪いレートで両替してたと思うが気にしてられない。
無事にインドルピーを手に入れ、今度こそというタイミングで
ホテルの土産物屋の奴らに取り囲まれる。
多少良さそうなホテルでもインド人はインド人。
あの手この手でしつこく売り込まれ、仕方なしに絵ハガキのセットを購入。
なんつーベタな展開なんだと思いつつも
せっかくなので日本に送ってみることにした。

当時付き合ってた彼女に送ろうと文章をしたため、
いざ宛先を書く段になって郵便番号と番地が分からない。
とにかく大きく「JAPAN」と書き、あとは日本の郵便の力を信じて
番地手前までの住所で送ることにした。
(これは帰国より後に無事届いていた。さすが日本の郵便局。)

こうなるとまずは郵便局である。
再度見てもやっぱり地図はアテにならない。
そうこうしてるとまたもやオートリキシャが集まり、どんどん声をかけられる。
でっかいターバンを巻いた髭面インド人はなんだかコワイので
メガネのお父さん的な運転手のオートリキシャにすることにした。

インド街歩きの開始である。(オートリキシャやけど)
乗る前に値段交渉をしたが
「どこに行きたい?」
「郵便局。それからデリーのうまいメシ屋」
「とりあえず乗れ」
やってはいけないパターンでの乗車だが、
とにかくリキシャは走り出した。
googleマップはおろかスマホもない時代、どこをどう走ったのか確認のしようもないが、郵便局に付き窓口へハガキを出しに行こうとすると
窓口は大行列。
いや、列にすらなっていない。
人のダンゴ状態。
ビビりながら並ぶも一向に進む気配がないしどうやって出せばいいのかもわからない。基本的に全員仕送りなのかバカでかい荷物を送ろうとしている。

見かねたリキシャの運ちゃんが僕のハガキを手に取り、
こうやるんだよ。と言わんばかりにダンゴに突入していく。
付いて行く形で僕もダンゴに突入。
スパイス臭い体臭の集団に突っ込み、一気に窓口へとショートカット。
運ちゃんナイス!
こうして無事にハガキを出すことが出来、
郵便局の外に出ると運ちゃんから
「インドではお利口さんで待ってたらいつまでも順番なんて来ないぜ」
的なことを言われる。
なるほど、そんな話は聞いたことがあったが、
知ってるのと実際に体験するのとでは大きく違う。
これはハートを強く持たないとやれるな・・・

礼を言い、じゃあ次はメシ屋に連れてけというわけだが、
リキシャは走り出すと案の定というかなんというか、
小綺麗な土産物屋に滑り込んだ。
今でこそこういうのはマージン狙いの行為であるあるだと分かるが、
当時はそんなことも分からずに大きなお世話的に連れて行ってくれたくらいに認識していた。

店内に入るとたちまち数人の店員に囲まれいろんなアクセサリーを進められる。
「これはシヴァのご加護を得られるブレスレットだ・・・」
だのなんだの。
典型的な押しに弱い日本人(少なくとも当時は)である僕は
結局数点のシルバーアクセをお買い上げ、
今日に至るまでそのアクセは持っている。

いきなりそこそこ高い買い物をしてしまったが、
妙な満足感を持ち、いよいよメシ屋へ向かうも
これまた高そうなレストランに連れて行かれる。
「いや、こういうんじゃなくてもっと庶民的なうまい店を・・」
ってな感じだったがうまく伝えられない。
運ちゃん的には日本人が腹を壊さず美味しく食える店。
日本人は金持ってるだろう。
ってな感じで教えてくれたのだろうが、明らかに
入っていくインド人の装いが中産階級以上。
自分で他の店を探そうかとも思ったが、
昼過ぎにはホテルに戻り、その日の列車でバラナシに向かわなければならない為に時間がない。

サンキューな、とリキシャの料金を払おうとすると
「値段はあんたが決めな」
とヤケに紳士。
とりあえず知ってた相場観から旅行者としては激安、
地元民としてはやや割高くらいの料金を払うと少し残念そうな顔。
しかし文句は言わない。
いろいろ親切にもしてもらったので少し悪い気がしたが(お人好し日本人)
運ちゃんはそのまま受け取り
「荷物には必ずロックをするんだ」
「大体店が閉まってるとか祭りで通れないとかは嘘だから気をつけろ」
などと、今に至るまで役立つ北インド注意をしてくれ
グッドラック!
と走り去って行った。
最初にしてはまぁ当たりのリキシャだったな、と今でも思う。

こうして高そうなレストランに入店したわけだが、
確かに高いがもちろん日本の感覚で高いわけでは無い。
メニューに英語も書いてあるのでなんとかなる。
とりあえず美味そうなカレーとナンという無難な組み合わせを頼んだつもりだったのだが、最初に出てきたのが小ポットにはいった小さい玉ねぎ数個。
あれ、間違ったかな・・・(アミバ)
前菜のサラダか何かかと思い、とりあえず口に入れる。。。。
辛い!猛烈に生タマネギ!
涙目になりながらひとつを食べきったがこれは無理。
もはや初インド食で泣いてる状態になったところで
頼んだメニューが到着。
どうやら後から聞いたところ、お口直し的にかじる程度の副菜?
みたいなもので丸々かじるものではなかったらしい。
さすがにそらそうよな。。。

生タマネギの記憶が強烈でメインの料理の味をあまり覚えていないが、
まぁ美味しかったと思う。

辛いデビュー戦を終え店を出ると、
時間がなくなってきていることに気づき慌ててリキシャを探す。
ホテルを指定するもどいつもこいつも馬鹿みたいにふっかけてきやがる。
ひとり寡黙なじいさんリキシャを発見し、
声をかけると黙って乗れ、のゼスチャー。
値段は?と聞くも再び乗れのゼスチャー。
嫌な予感はしたが、さいあく殴り合いになってもコイツなら勝てるだとうとの妥算も働き乗車。

インドの交通事情はひどい。
渋滞は当たり前で交通ルールなんてあってないようなもん。
皆ギリギリを攻めるので、少しでも進めるように車はサイドミラーを畳んでるではないか。クラクションは常時鳴らしっぱなし。
カルチャーショックを受けていると信号待ちだか渋滞待ちの時に
右肩を叩かれる。
「マニー」
インド名物の物乞いオバハン現る。
事故なのかわざと自分でやったのか、ヤケドのような怪我を見せつけ
哀れみをさそってのお恵み要求。
これは金をくれてやるとキリがないというやつだな。
しつこく要求してくるのを断り切り、初戦勝利だぜと思っていると
今度は左肩を叩かれる。
次はどいつだ、俺は負けねーぜと振り向くと
またさっきのオバハン!
オバハンもまだ負けてなかったのである。
たくましさを感じつつも断りきり、
この一戦で早くも疲れたメンタルでなんとかホテル到着。

しかし俺は敵と共に移動していたらしい。
到着するや寡黙なジジイが一変、猛烈にふっかけてきやがる。
どこか吹っ切れていたのでギャーギャーわめくジジイを
抑え込み、50ルピーだけ渡して下車。
負けていられない。
周りのリキシャ仲間みたいな奴まで集まってきて危なかったが
ホテルの敷地に入るとそれ以上は追ってこなかった。
これが高めのホテルの効力か。

半日でいきなりメンタルをすり減らしたわけだが、
次はもっと強烈と噂のバラナシである。
ホテルに預けた荷物を受け取り、駅に向かう。

疲労とワクワクを併せ持ちながら、
インド名物の夜行列車。
駅の表示もどこのホームかも意味不明。
なんとかかんとか乗り込んだ列車で自分の席を見つけ、
ようやく一息。

次回へ続く。

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