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【掌編】残熱

どうして僕らは、この世を懸命に生きることを
宿命づけられねばならないのか。
ならば、蜉蝣のように散りたい。
ケーキの甘みが沁みわたった席で、窓の外を青嵐のようにゆく人々を眺めて、悠久の時を思うようだった。
僕は連綿と続いてきた遺伝子の果てのない旅路を辿るような気分で、
ベビーカーに乗った赤子を見ていた。
妻がスマホで次の店を調べて、夫がそれを見守っている。
若い夫婦の姿は、五月の窓に絵画のように見えた。
いずれ人類は滅びるだろう。それがいつかは分からない。けれどそれは、いつか必ずやってくる。
ベビーカーを押して行った夫婦の残した影に僕は言った。
ならば、僕らは徒花なのか?
かもしれない。
コーヒーをすする。熱が舌の上に広がり、僕は五月の窓を眺めて、青嵐の吹く街を美しいと思った。
それはきっと
この魂が知ってしまっているからだ。
それはきっと
この魂が覚えてしまっているからだ。
胸に灯る。革命の熱。
僕を狂わせるのは
世界の熾火だ。


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