『明け方の若者たち』 / カツセマサヒコ

※読書感想文です。ネタバレあり。未読の方、あらかじめご了承ください。

小説が自分の記憶になった

記憶が産まれる、ってこういう感覚なのかな、って思った。
ある若者の忘れられない恋を描いた小説を読んだ、ではなく、
その出来事を、かつて自分が経験したかのような錯覚。
小説を読んだことで、そのストーリィから自分自身の記憶が産まれたかのような感覚。

私が大学生だったのも、就職したのも、はるか昔のことで、
「僕」や「彼女」に当時の自分を重ねたり、共感したりすることも、「まぁない」。

それでもなぜか錯覚してしまう。
「僕」が自分で、こんな恋の記憶が、自分にもあったなぁ、って。

同じように錯覚する読み手が、もし、たくさんいたら、昨今の不倫たたきも随分と減ることだろう。
だって、身に覚えがあるからね。
いや、実際の経験のことじゃなくて、この小説を読んだからには、覚えがあるでしょ、と。

かつて既婚者と恋をした。
気が付いたら好きになってた。止められなかった。

わかるよね、その気持ち。

「僕」と「彼女」の日々が、自分の記憶のように心に残ってる。

だけど、わからなすぎる「彼女」の気持ち

それから、「大学院生で既婚者」の「彼女」のことを想像した。
正直、いろいろ腑に落ちないんだよなぁ…。

ダンナさんが3年間の海外出張となると歳の差は最低でも3つ以上か?
彼女が大学1、2年のときに旦那さんは4年生か大学院生だったくらいか。
どんなにか大人にみえたでしょうね。きっと彼女の方がすごくたくさん好きになって、
彼女の方がちょっと一生懸命に追いかけるような恋だったんじゃないかな。
で、彼が社会人になるときに結婚した?
あるいは、海外出張が決まって入籍した?いやそれはないな。入籍して即「遊び相手募集」とか、考えにくい。

「夫が三年くらい、海外出張に出ることになって。実質、独身みたいなものです」                                                                                                      
出会った日の夜の公園。冗談混じりに自己紹介した彼女に、目が眩んだ。
彼女の夫は商社で働いていて、東南アジアにある会社に出向しているとのことだった。連絡はほぼ毎日のように取るが、三年の間、帰ってくることはほとんどないと宣言されたから、いっそ自分も自由を謳歌しようと決めたと、彼女は笑顔で言った。           

「七. 甘いミルクティーの氷は溶けて」134ページ
「一緒にいてね、私はこんなに愛されてもいいんだっておもえたのね」
知らねえよそんなの。
「ありがたいことだなあって毎日実感したし、同じぶんだけ愛していたいなっておもって」
知らねえってば。
「ごめんね、本当に幸せだったし、楽しかった」
もう、いいって。
「それなのに、ごめんなさい」
いいってば。
何度も何度も、彼女は僕に謝り続けた。

 「七. 甘いミルクティーの氷は溶けて」146ページ

横顔が夫に似てるっていう理由で「僕」を選び、指輪を外さず一度も家に上げなかった彼女。財布やリュックも夫が使っていたものを使い続けてる彼女。
そんなにダンナさんが好きなのに、なんで?

わからないわぁ…。「彼女」が何を考えてたのか、わからなさすぎる…。

会社、なめんなよ

もうひとつ。
「僕」や「尚人」に、社会人の先輩として言わせていただくと、

…テニスをしないテニスサークルみたいなところに所属して、そのサークルの幹事であることをウリに内定を取ったような学生…

 「一. 産声」5ページ


いやね、人事を舐めないでください。内定の理由はたぶんそこじゃない。いまはそう思うのかもしれないけどね。

「実際、ムズいよね。質にこだわらなければ、入社できる会社はいくらでもあるだろうけど、ネームバリュー目当てで今の会社に入ったくらいだし、転職先も、それなりに名前ないと。さすがに心配じゃん?」

   「四. 描いた未来と異なる現在」87ページ

会社選びが大事じゃないとは言わないけどね。入社して三年も経てば少しは周りが見えてきませんか。同じ会社の中にいても、「仕事」も「働き方」もその人によって、いる場所やタイミングによって、全然違ってくるんだってことが。

直属の上司が人でなしなら、その上の上司に訴える。それもダメならさらに上にエスカレーションする。

転職はもちろんアリだけど、自分がいまいる場所でやれることをやる、ってのも大事よ。

仕事ってね、巡りあわせみたいなところがあるからね。
他の会社に移れば、いままでなかったものが手に入る可能性はもちろんあるけど、
ずーっと同じ会社にいても、ずーっと同じってことはないんだよ。
時間が経つと、上司が変わることもあるし、世の中が変われば、お客さんや仕事の内容もしんどさも変わる。

…おそらくは六十五歳の定年まで続く、ほぼ年功序列・終身雇用の穏やかな流れに、…

「四. 描いた未来と異なる現在」83ページ

あのさー、何か勘違いしてないか?
あなたがいまいる会社、30年後、40年後も、いまのままま「穏やか」に続いていく?

どんな会社ですか。「穏やか」に30年続いていく会社。

仮にそんな会社があるとして、そこで30年たってもいまのポジションのまま、指示された仕事を言われたとおりにやってるつもりですか。「会社」とあなたの「仕事」は、別の世界にあるものなの?

ふー。こんなとこかな。。。。

読書会、楽しみです。


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