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Big Rip Boys ep1

※この物語はフィクションです

ep1:土星が消えた

今日、土星が消えた

[ハテの天文台]で天体望遠鏡を覗きながら呟いた
すごい発見をした僕は少しワクワクした
でもこの事実を話す友達がいないと気づき
そのワクワクはすぐに萎んでしまった

時歴2050年、今年から中学生になった僕には
本当の意味で友達と呼べる人はいない
周りの流行に合わせて話をしたり
遊びに行ったりする友達はいても
親友と呼べる存在はいない

最近クラスでは
消しゴムに書かれた絵柄で戦う[バト消し]が
大流行しており、休み時間はあちこちのテーブルで
消しゴムが転がっている。一応僕も参加している

「宙(そら)ー、このあとみんなで[アトラス]
 行くんだけど、今日はどうー?」

指で消しゴムを弾きながら声をかけてきたのは
クラスのムードメーカーの朝陽(あさひ)
みんなに優しくて、ザ・人気者って感じだけど
ほんとにいい奴でかなわない。

ちなみに[アトラス]は学校の近くにあるカフェで
店員さんが可愛い。らしい。

「ごめん、今日も家の手伝いなんだ。
 いつもありがとう」

うそでもないがほんとでもない。

「そうだよなー。じゃあまた今度だ、なっ!」
朝陽の勝ち。【バト消し】でもかなわない。

僕の家はこの町で一つだけの天文台[ハテの天文台]
今年で70になるじいちゃんと2人暮らしを
しながらこの天文台を運営している。
と言ってもお客はほとんどおらず、
週に1組来れば良い方だ。

「じいちゃんただいまー」
いつもどおり受付で寝ているじいちゃんに
声をかけて自分の部屋に戻る
学習机にベッド、本棚、
そして天井一面に広がる宇宙のポスター
うん、よくある学生の部屋だ。

僕の家は天文台とつながっていて、
受付裏の階段を上がり
廊下の右側1つ目のドアが僕の部屋、
向かいが爺ちゃんの部屋で奥にキッチン、
トイレ、風呂が続く

一通り部屋でぼーっとした後、
じいちゃんを起こしに受付に行く
「あとはやっとくからじいちゃん部屋で寝なー」
「おう、お帰りー」
「結構前から帰ってるよー、ほら交代交代ー」
「いつもすまんなー、
 そういやお前ちゃんと友達できたのか?」
「当たり前じゃん!もう6月だよ」

今日もお客は一人も来なかった。
入り口の扉にかかっているなぜかカフェ風の「OPEN」看板を「CLOSE」にひっくり返し、
鍵を閉める。

そして望遠鏡へ。

こんなだれも来ない天文台にはもったいない
口径40cmの立派な望遠鏡に座り
天体観測をするのが僕の日課だ。

夜空に輝く無数の星。
倍率を上げていくと月のクレーターも見えたりする

僕にとって望遠鏡は無限に広がる宇宙の一部に
触れられる特別な道具で
この時間が何よりも大切だった。

中でも他の惑星とは形状が異なる[土星]が好きで
ぎりぎり見える[土星の輪]に想いをはせていた。

実は時歴2050年現在、
天体観測を行なっている人は少なく
人類は宇宙にあまり目を向けなくなった。

というのもそれどころではないからで
人工減少や新型ウイルスのパンデミック、
特に温暖化の問題は深刻で
今年の夏の平均気温は35度だったりするからだ。

もちろん学生で天体観測をする人なんか
周りで見たことがない。

「ほんとだ、、、土星が、無い」

3日前、数少ない宇宙研究者の1人
レオナルド・ギャビンの論文で
土星の消失が発表された。

時代によっては大ニュースになったであろう
この事実は一部のオカルト誌で取り上げられる
程度のものとなった。

もちろん天体好きの僕は雑誌を読んで知っていたのだが、改めて自分で見ると目を疑うものだった。

続く

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