昨夜のカレー

「昨夜のカレー、明日のパン」(2014 年 NHKBSプレミアム ドラマ) 原作•脚本:木皿泉 主演 :仲里依紗

《あらすじ》
テツコ(仲里依紗)は若くして夫の一樹(星野源)と死別したが、 夫の死から7年経った今でも義父「ギフ」(鹿賀丈史)と二人で楽しく穏やかに暮らしている。
テツコには会社の同僚の岩井さん(溝端淳平)という恋人がいるが、いろいろなことがひっかかってなかなか結婚には踏み切れずにいる。

《感想》
テツコとギフは一見のんきに楽しく暮らしているように見えますが、「人間は必ず死ぬ」という寂しさを共有しながら生きています。

仏壇にお供えした後の固くなったご飯をテツコとギフが交代で食べる習慣とか、テツコの親子丼をうらやましがるギフにテツコが「じゃぁ後で小さいの作りましょうか?」と言う感じとか、“シュウマイの最後の一つにだけウスターソースをかけて食べる”というギフのマイルールとか、冷めて固くなった昨日のカレーにちょっと水を足して温めなおす作業とか.....。普段は流してしまうような些細な場面が「もうご飯を食べない一樹」との対比によって「テツコとギフは確かに生きていて、そして生活が続いているのだな」と、とても愛おしい場面に見えてくるのです。
そして、きっと、死ぬ直前に「幸せだったな」と思い出すのは、大きな舞台でスポットライトを浴びた瞬間よりも、こういう些細な日常なんだろうな、と、この作品を見るたびに思います。

この作品の料理を担当しているのは料理研究家の高山なおみさん。
高山さんの作るテツコとギフの食卓は、強いこだわりがあるわけでもなくそれでいて手抜きもせず、普通の料理が普通に並んでいる、とても健全な食卓なのです。(テツコが電子レンジや炊飯器を使わずに、それが当然のこととして古い土間の台所で料理している感じが好き)

この作品にはテツコとギフの他にも、笑えなくなった元CAのタカラ、顔面神経痛で常にニヤニヤした顔になってしまう元産婦人科医のサカイくん、事故で正座ができなくなった元住職の深っちん、ギフの義妹で歯科医の朝子などなど、それぞれに事情を抱えた愛すべき人々がたくさん登場します。

この作品は木皿泉さんの小説をご自身でドラマ化したものなのですが、小説版ではそれぞれの登場人物の視点で物語が語られて進んで行きます。(ドラマでは描かれていない、一樹の母•夕子の視点の章が私はとても好き)。ぜひ、小説と合わせて楽しまれることをおすすめします。

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