エコール

『エコール』2004年 フランス 監督 ルシール・アザリロヴィック

《あらすじ》
深い森の中に佇む塀に囲まれた謎の学校「エコール」。そこには6歳から12歳までの少女が5つの寮に別れて寄宿生活を送っていて塀の外へ出ることは決して許されない。
物語は新入生イリスが棺に入れられてエコールにやってくるところから始まる。そして最年長のビアンカはイリスの世話をしながらエコールを去る準備を始める。

《感想》
 この映画が公開された当時、ある男性作家がこの作品を「ミステリー好きとしては途中でオチが分かってしまってとてもつまらないストーリーの映画だった」と評しているのを読みました。
 エコールの最年長の生徒達が毎晩どこへ消えて行くのか?ただその謎を知るためにこの映画を観ていたのであれば、確かにこれはつまらない映画かもしれません。でもこれはそういう種類の映画ではないと私は思います。
 初潮を迎える頃の少女達が「皆さんは繁殖の相手を見つける時が来たのよ」「その足は外でもウリになるだろうよ」と、否応無しに自分の身体が性の対象として選別され、鑑賞され、消費される存在へと変態していくその理不尽な違和感。脱走を試みた少女達がたどる運命を知っている先生達が「服従こそが幸せへの道」だと説かざるを得ない無力感、エコール内で教えられている教科がダンスと生物だけだというその意味・・・。
 そういう「女体を持つ者としての共通の記憶」のようなものがこの映画を観た瞬間に感覚ごとよみがえって来て私は心を大きく乱されたのですが、やはりそういう感覚も男性からは「ありふれた結末のつまらないストーリー」として切り捨てられるのだろうか。あの男性作家の評を読んだ時、今までに幾度となく味わって来た男性とのそういう視点のズレに私は深く失望して軽蔑の感情を抱いたのを今でも鮮明に覚えています。
 それにしてもこの映画は謎だらけです。棺に入ってやってきた新入生のイリスは「弟に会いたい」とは言うけれど両親のことは全く口に出しません。ということは、エコールは親のいない女の子が売られて来る学校なのだろうか?先生や召使いたちはエコールを脱走した罰としてここで一生働くのだろうか?そして、エコールから去って行く少女達は一体どこへと連れて行かれるのだろうか?何度観ても正しい答えは分かりません。
 作品全体を覆うじっとりとした森の湿度、水浴びをする少女達から滴り落ちる湖の水の冷たさ、女の子同士の肌が触れ合う甘美な連帯感など、美しい絵画のような映像から呼び覚まされる様々な感覚にただ身を任せてこの作品を鑑賞していると、まるで自分だけの色を持った絵画が次第に完成して行くようなそんな感覚にもなります。『エコール』はそんな不思議な作品なのです。

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