富士ファミリー16

「新春スペシャルドラマ 富士ファミリー」(2016年 NHK総合) 脚本:木皿泉  主演:片桐はいり 薬師丸ひろ子 小泉今日子

〈あらすじ〉
富士山の麓にある「富士ファミリー」は、笑子バアさんが切り盛りする小さな古い個人商店。お店とつながっている住居には、笑子バアさん、笑子バアさんの兄の長女の鷹子、病気で亡くなった次女のナスミの元夫の日出男が同居しているが、笑子バアさんが高齢になったために住み込みのアルバイトのカスミを雇う事になる。

 そんなある日、幽霊となった次女のナスミが笑子の前に現れて遺品のコートのポケットから「四葉のクローバー」「懐中電灯」「ケーキ」「枕」「ストロー」「コーヒー」「光太郎」と書かれた謎のメモを探し出させる。そしてそのメモに書かれた言葉が皆の人生を変えるキーワードになっていく。

〈感想〉
 私は若い頃よく「将来は可愛いおばあちゃんになりたいな」などと言っていたのですが、最近になってふと「“可愛いおばあちゃん”っていうのは、ひょっとしたら、若い人の目線から見て都合が良く好ましいお婆ちゃん像ということなのかもしれないな」と思うようになりました。

 この作品に出て来る笑子バアさんは憎まれ口をたたいて周りに迷惑ばかりかけている、いわゆる“かわいいお婆ちゃん”とは正反対なタイプのおばあさんです。でもそんな笑子バアさんに対して、周りの人達が困ったり怒ったりなだめたりしながらもコミュニティの一員として、ごくごく自然にワイワイと関わっている感じがすごくいいなと思うのです。(カスミちゃんがバアちゃんのことを「笑子さん」って名前で呼ぶのがすごく好き)

 木皿泉さんの作品にはしばしば「私のような人間がここにいてもいいのだろうか?」と悩む人達が登場しますが、この「富士ファミリー」でも、多くの登場人物が「私はここにいてもいいの?」と悩んでいます。その問いに対して、きれいごとや理屈ではなく、とても自然に「別にいいんじゃない?」と言ってくれるところが木皿作品の大きな魅力なんだよなと思います。

 そして、鷹子から見ると、笑子は叔母、日出男は死んだ妹の元夫、カスミは住み込みのアルバイトというように、直接血のつながった家族ではない人達が一つ屋根の下で当然のように家族として暮らしているという設定もすごく好きで、迷惑をかけられたりケンカをしたりしながらもみんなから愛されている笑子バアちゃんを見ていると「可愛いお婆ちゃんなんかになってたまるもんかっ!」と、思わずニヤッとしてしまうのです。

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