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映画『パリ13区』、現代の新しい波。

目の覚めるようなシンセサイザー音とパリの高層ビル群。そこに生きるアジア系、アフリカ系、白人たちの自由な性愛、混じりあう肌の質感や光沢。モノクロで映し出されたパリ13区は見たことのない世界だった。

ジャック・オディアール監督と『燃ゆる女の肖像』のセリーヌ・シアマ、『アヴァ』のレア・ミシウスの共同脚本で作られた『パリ13区』はエネルギーに満ち溢れた作品だ。ジェンダー、世代、人種間のクロスオーバーはまるで現代の「新しい波」だ。

登場人物は皆いずれも順調な人生を送っているわけではない。カミーユ、エミリー、ノラはそれぞれ家族の問題を抱え、仕事も恋も決して上手くはいっていない。彼らは安心できる居場所や肌の温もり、そして自分自身を探し求めている。火花のような一瞬の輝きで体は繋がるが、それも長続きはしない。彼らは孤独だ。

なんと言っても元ポルノ女優のアンバー・スウィートの登場、彼女とノラの出会いはこの物語の核心だろう。カミーユたちが見せる肉体関係を排除した、プラトニックとも言えるこの不思議な関係は我々を引きつけ、一定の安らぎや共感を覚えてしまうのは確かだろう。

身体では繋がっているのに、心では繋がれないカミーユたち。直接会ったことはないがチャットで心が繋がれているノラとアンバー・スウィート。オフラインで繋がれない者たちとオンラインで繋がれていく者たちをの対比は現代に生きる我々への警告ともとれる。

オンラインであろうがオフラインであろうが、目の前にいる人物と繋がっているか。本作は人間のコミニケーションの1つであるセックスを通して、心と身体、両者が一体となり人と繋がることの意味を今一度考えさせてくれる。

ノラとアンバー・スウィートの出会いこそがこの物語の唯一の愛に見えてしまう不思議、そして最後に見出されるこの愛に至るまでに繰り広げられる男女の逢瀬に今の若者は何を思うのだろうか?

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