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映画『ノースマン 導かれし復讐者』の感想。


「この時代に生まれていなくてよかった」
つくづくそう思いました。

もう野蛮の一言。
親ガチャとか色々言われてますが、これは時代ガチャ。国ガチャ。ガチャガチャです。現代の価値観は当然無く、暴力がものをいう時代。〜ハラスメントとかそういう発想はゼロ。強いものが生き残り、生き残るものが正しい時代です。

その中世描写のエグいこと。
連想したのは2012年のニコラス・ウィンディング・レフン監督作『ヴァルハラ・ライジング』。過激なバイオレンス描写や異教徒への蛮行、セリフが極端に削ぎ落とされたそのアーティスティックな世界観に、エンタメ色をかなり強めたのがこの『ノースマン』という印象です。

徹底した世界観にただただ圧倒され、そのリアリティに疲労感と無力感が鑑賞後どっと押し寄せました。でもこれ、よくいま映像化したなと思います。

豪華俳優の共演も見どころです。
主演のアレクサンダー・スカルスガルド。凄い筋肉でしたね。彼が演じるアムレートの辿り着く結末は皮肉そのものなんですが、彼がアニャ・テイラー=ジョイ演じるオルガに出会い、ケモノから人間らしくなっていく。そして最終的には過去ではなく未来のために命をかけて戦う姿は涙なくして観られませんでした。

そしてこの物語の希望の象徴とも言えるアニャ・テイラー=ジョイ。ここ最近いろいろな作品で目にする彼女、ホント勢いが止まりませんね。彼女の意思の強さ、凛とした表情を見るだけでなんだか救われたような気持ちになってしまいます。それはわたしがただ彼女のファンということ以外に、オルガから始まる新しい命脈が希望そのものだからだと思うのです。

そんなふたりを囲むベテラン勢が実に良い仕事をしてました。イーサン・ホーク、ニコール・キッドマンはそこにいるだけで画面が引き締まりますし、ウィリアム・デフォーはミイラになっても、どっからどう見てもデフォー。死してなおデフォー。またビョークは「いたっ?」ってなったのはわたしだけではないでしょう。

どっからどう見てもデフォー

しかしながら、父親の仇をうち、母親を助け、叔父を殺すため生きるアムレートの物語は「ハムレット」の原型と言われているだけあって最後までドキドキ、ハラハラ、惹きつけられました。芸術写真のように美しくアーティスティックな絵作りは、2019年の『ライトハウス』のロバート・エガース監督ならでは。さすがです。エンタメとしてもアート作品としても楽しめました。


実は中世ファンタジーが苦手だったんです。というか食わず嫌いだったんでしょう。しかし2022年のA24の『グリーンナイト』でその意識が変わりました。『グリーンナイト』も『ノースマン』も鑑賞後に意外と色々考えさせられた作品です。

暴力や宗教を大義名分として人間の欲望や残虐性がある意味、純粋なまでに剥き出しになった世界。やはり圧倒的で瞠目せざるを得ません。われわれはいったい何者なのか。そこに迫っていくようなこんな映画体験は滅多に得られないでしょう。

しかし残念ながらこの現代においても戦争、人種差別、飢餓、いじめ。ありとあらゆる場所で「中世」はいまだに存在しています。一方で時代は進化を続けています。正しさや平等が最も叫ばれる時代でもあります。だからこそ『ノースマン』のような全く正しくない、差別的で暴力に満ちた不快で突出した作品がこうして作られるのでしょう。そこでわたしたちは歩みを止めて「自分たちは何者なのか」と改めて問うのだと思います。

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