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短編:ヌタウナギ
短編書きました。
<本文>
私は、転職を行うため転職活動用のページを開いていた。ふと思い出したかのように、前の働いていた会社の検索を行った。会社のホームページより前にニュースページが引っかかった。ニュース見出しは、「顧客情報漏洩規模は数千件にものぼる」だった。ニュースを見出しを見たが、私は驚かなかった。薄々このようなニュースがいずれ出るだろうと思ったからだ。
<回想>
私は、入社5年目のエンジニアだ。人事管理システムや経理システムなどを構築する業務を行なっている。私は、ワクワクしていた。今日は、新入社員の受け入れがあるからだ。新入社員は久しぶりだった。経済不況もあり、ここ数年、新入社員の採用を行なっていなかった。
「失礼します。」
新入社員が入ってきた。この部署に配属されるのは一人だ。
「じゃぁ、自己紹介から。」
上司が言う。
「はい、モリノブアキです。」
新入社員が自己紹介をする。若く瞳をキラキラさせている。
当時、私は新人に教育を行うことが楽しみだった。こう思われるのは、おかしいかもしれないが。元々、私は文系の大学出身だった。プログラムの知識も何もないまま入社した。正直、右も左もわからない状態だった。情報系の業界は厳しい世界だと思う。常に忙しく、多くの知識が求められる。知っていて当たり前という風潮がこの業界にはある。新人なんてそうそう即戦力になるはずがないと思っている。わかるない人の気持ちがわかる、それはこの業界で新人を教育していく上でとても大切な要素だと思う。また強みだと思っている。
しかし、教えることはそうそううまくはいかなかった。彼らは、私たちの想像より上をいく存在だった。
「じゃぁ、この検査データのまとめよろしくね。わからない事があったらなんでも聞いてね。」
私は、新人に簡単な業務を渡す。
「はい、わかりました!」
新人が答える。
私は、あえて期日を設定しなかった。期日があると、焦るからだ。焦ると品質の低い成果物が出てくるからだ。品質の低い成果物が出てくれば、やり直しを命じなければいけない。それは、会社にとっても、新人のモリ君にとっても良くない。
2日が経った。しばらく様子を見るために放置した。自分のペースで仕事をやって欲しかったからだ。しかし、新人から何の報告もない。進捗確認のため、モリ君に話を聞いてみた。
「モリ君、進捗はどう?」
「はい、終わりました!」
私は、彼の発言に驚いてしまった。終わったなら、声を掛ければいいのに、と思った。
「終わったなら、声を掛ければいいのに。」
私は、心で思ったことをそのままモリ君に言った。
「でも、カヤマさん忙しそうだったから。」
私は、なるほど、と思った。
「それと、報告は指示になかったので。」
続けてモリ君は答えた。
「カヤマ君、検査データは?」
ミヤノさんが私に向かって言う。
「いえ、まだです。」
「どうするの?今日までだけど。」
「モリ君からの検査データを確認してから、お提出します。」
「今日までのものを今日チェックするって、どういうこと?ちゃんと進捗確認しているの?モリ君の教育担当だよね。」
ミヤノさんが捲し立てる。ミヤノさんはあたりが強い人だ。そのせいもあって、周りからも怖がられている人だ。
「はい、すみません。」
「すみませんなんて言葉は、聞きたくないのよ。対策も考えてきて、今日中に、明日報告、聞くから。」
ミヤノさんは続けて私に向かっていう。その裏で、新人のモリ君は何をやっていたかというと、こちらなど見向きもせずに、別の作業をやっていた。今のところ、検査データのまとめ作業以外、何も仕事は与えていないはずだが、パソコンの画面をじっとみている。自分自身の報告がなかったせいで、私がミヤノさんに注意を受けているにもかかわらず。
モリ君は、指示した内容のことしか基本的に行わない。(指示した内容も完遂できない。)ちなみに、検査データのまとめは、全くできていなかった。本来慣れている人間ならば、2時間程度で終わるような仕事だが、新人ならば、倍以上はかかる。私が進捗を確認をしなかったのが、全て悪いのだが。このような結果になったのは、残念だった。しかし、私が新人の時も、同じように失敗したことはあった。自分自身に納得させて、モリ君を見捨てずに、指導をしようと考えた。(検査データのまとめは全て私がやり直した。)
しかし、あるとき、事件が起こった。
私の会社では、システムの構築も行なっているが、そのシステムを使い、顧客情報の管理等も行なっている。顧客情報を移動する際は、専用のUSBを使用する。
「モリ君、このUSBに顧客情報を入れておいてね。使い方はマニュアルを見てね。」
ミヤノさんがモリ君に業務指示を出した。私は、心配になり、モリ君に聞いた。
「モリ君、大丈夫そう?」
「はい!大丈夫です!マニュアルがあるんで!」
なおさら、心配になったが、その答えを聞いたら、もう何も言うことはないと思い、彼を信じた。
次の日に、怒号が響く。声の主は、ミヤノさんだ。
「モリ君、USB確認したんだけど、情報にロックがかかって、見れないんだけど!」
ミヤノさんがモリ君にいう。
モリ君は怯えた様子で、答える。
「マニュアル通りやりました。」
モリ君の声は震えていた。
「顧客情報だから、大切に扱わないとダメじゃん!そして、何でUSB僕のPCに挿すの?僕のPCにウイルスが感染したんだけど!」
続けてミヤノさんはいう。
私は、モリ君を守らなければと思った。普段から思っていたが、ミヤノさんの当たりは強い。強すぎると思ったからだ。モリ君は確かに指示通り業務を行い、USBをミヤノさんに渡した。これで怒られるのは、あまりに理不尽だと思った。
「ミヤノさん、それはモリ君がかわいそうです。ミヤノさんの指示通り行なったじゃないですか?」
私は思わず、答えてしまった。
「何だと?」
「指示通り行なって、必要以上に注意されるのは、あまりにかわいそうです。それにミヤノさんだって、マニュアル読め!しか言ってないじゃないですか?それに、モリ君だって、良かれと思って、ミヤノさんのPCにUSBを挿したんじゃないですか?」
続けて私はいう。
「ミヤノさんのPCがウイルス感染して、顧客情報をロックしたんじゃないですか?」
私は内心、心臓がバクバク言っていた。
「…。」
ミヤノさんは黙ってしまった。周りも、ミヤノさんを冷ややかな目で見ている。
「おはよう!」
いいタイミングで上司が入ってきた。
「どうしたの?」
周りの様子を見て、上司は質問する?
その後、ミヤノさんは、別室に行き上司と会話をした。会話の内容はわからないが、必要以上の叱責と、顧客情報のデータのロックの件だと思う。(それ以外にない)
部屋からミヤノさんは怒ってでていき、それを上司が追っていた。
しばらくして、ミヤノさんは辞めてしまった。正直、ほっとしていた。ミヤノさんは自分にとって怖い先輩であった。周りにとってもそうだと思う。モリ君は、相変わらずである。もっとひどくなっているように感じる。この前のあったことだが。
「カヤマさんに電話がありました。」
モリ君が言う。
「本当に。誰から?」
モリ君が固まる。
「聞いてなかったです。」
今度は私が固まった。
しばらくして、USBのログを取得する業務があった。顧客情報を入れるUSBには、しっかりとログが残る。誰がいつ何をしたのかがわかるようになっている。
私は、あの時の事件を思い出した。そういえばあの時のログはどうなっているのだろう?みてみると、おかしなデータが混入していた。隠しファイルの設定になっている。データの中身自体は、一度削除されてしまい見れないが、おそらくウイルスであろうと思った。ウイルスが混入した、PCはモリ君のPCだった。
ここからは私の推測だ。おそらく、モリ君は個人情報の移動中に、Webサイトで調べ物をしていた。リンクを踏んだ際に、USBにウイルスが感染した。それをわかっていながら、彼はUSBをミヤノさんのPCにさした。ミヤノさんに罪を着せるために。
私は、モリ君の席にそっと覗く。彼はネットサーフィンをしていた。
<回想終わり>
いつかこのような結果になることは、わかっていた。気づいたら、私は会社に辞表を出していた。
いつ、ミヤノさんのようにやめることになるかわからないからだ。
ミヤノさんがいなくなってから、しばらくして、仕事は増えた。ほっとした自分が情けなく思えた。ミヤノさんは裏でたくさんの仕事を抱えていた。モリ君を思って、新人の教育計画も作っていた。そう思うと本当に自分が情けなかった。何もわかっていなかったのは自分自身だった。
ニュース記事をスクロールするとある文言が目についた。
「上司の指示通り行たました。」
<了>
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