Bounty Dog 【アグダード戦争】292-293

292

 ヒュウラは、アグダード地帯に初めてやってきた当時は心が酷く弱っていた。ローグに殺された”主人”の影を追い掛けて、自死をして主人の元に行きたいと想い続けていた。
 そんな彼の心を救済した存在は、軍曹と己を呼ばせて呼ばれているアグダード人の武装兵だった。同じ武装兵である親友には”ガビー(アホ)”と蔑んだ渾名で呼ばれてもいるが、非常に明るく情も非常に厚い純粋な性格をしている相手に己の全てを肯定された事で、ヒュウラの喪失していた心は生き返って大回復した。
 ミトも、人殺しをしたく無くて死ぬ寸前まで心が衰弱したが、事実は盛大に勘違いをしている”変態ロリコンゴミ男”への怒りの力で心を大回復させた。
 シルフィは双子の弟の死を悲しむ余裕が持てなかったので、心が微塵も衰弱していなかった。『超過剰種』の猫の亜人・リングは主人を作る種では無く”死”に慣れ過ぎているので、ワンワンその場で泣きはするが心に延々と引き摺るようなダメージは全く受けず、モグラの亜人のミディールも、仲間想いで仇討ちは速攻でする種だが、人間の地雷で頻繁に仲間が死ぬので”死”に慣れ過ぎて、大切な存在が死んだ時に悲しんだり、衰弱したり精神が可笑しくなるという状態には決してならなかった。

 徐々に”発作”が起きている存在が、この場に1つ居た。人間で、気付いているのは同じ人間2人。だが”発作”が始まっている本人には、状態を全く気付かせていない。
 気付かせたら、直ぐに使い物にならなくなるからだった。立場的にも状況的にも絶対にそうなってはいけない相手が、現在重い精神病を患っていた。

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