Bounty Dog【Science.Not,Magic】61-62

 他と遥かに違うと何もしていなくても、此の世では其れだけで生き物達から大罪扱いにされやすい。

61

 カイ・ディスペルは着衣・重量荷物持ち・子供で軽いが荷物としては重い亜人1体持ちのスーパーハイパーウルトラスペシャル・アルティメット・ハンディキャップ抱え状態でトライアスロンの第1競技を完走仕掛けていた。平泳ぎからクロールに泳ぎ方を変えてからの彼は、惑う事なき超人だった。スピードがジェットゴムボートの速度を超えている。
 身に纏っている激しい怒りの念が、9歳の北東大陸人を一時的に人間から逸脱させていた。2度は絶対に出来ない少年のスーパーハイパーミラクル泳ぎっぷりに、泳ぐスピードは比較的に速い方であるヒュウラは完全に置いていかれる。狼の亜人は全く動揺せずに、のんびりと平泳ぎで追い掛けた。ボート上のスパイは双眼鏡で確認しながら渋い顔をする。
 敬愛なる”会ちょ”にあのボボ(馬鹿)ガキの勇姿を見せてやったら、どのような反応をするのかボンヤリ考えた。ゴムボートが到着する前にカイは先に海から砂浜に上がるなり、普通の人間に戻る。鼠の亜人を背中から放り投げて豪快に倒れ込む。ゼーゼー、ゼーゼー、豪快に呼吸した。限界突破させられた体が痙攣し始めたので、鼠の亜人がうきゅうと鳴いて近寄っていく。
 砂浜に散在している小枝を拾い集めて、鼠は目を真紅に染めた。砂浜に枝を被せてから”魔法”を使う。空気を人差し指で叩くと、火の玉が出現した。小さな焚き火を作って、友達と己の体を温める。
 カイは咳混じりの喘ぎ声しか出せなかった。身を起こそうと努めるが、限界を超えて動いていた彼の体はテコでも休息状態から復帰しない。
 「もどかしい」ともスーパーハイパー何たらとも口から言葉を全く出せないカイは、地団駄も踏めずに焚き火の温もりに大人しく包まれる。焚き火に枝を追加しながら、エスナはうきゅうきゅ鳴きながら、目の色を真紅にして海側を見つめていた。”奴”の姿はまだ見えない。気配も感じないが、動物の勘で”奴”が近付いてきていると察知していた。
 ゴムボートのエンジン音が聞こえてくる。エスナは動けないカイを掴んで背負った。人間の友達はスーパーハイパーウルトラミラクル、重い。服が水を吸っていて通常の1.5倍になっている上に、重い荷物を持ち過ぎている相手を子鼠は背負えなかった。うきゅうと鳴いてカイを元の位置に戻す。エスナはカイを見下ろしながら思考に耽た。
 鼠の亜人は、幼体でも頭脳が人間の科学者並みに高い。直ぐに名案が浮かんだ。瞳孔の濁った大きな瞳を真紅から灰色に染めると、エスナと個体で名前が付いた『ローグ』とも人間達から呼ばれている鼠の亜人は、早速行動を起こした。

 浜辺に到着するなり漆黒のゴムボートを素早く回収して、スパイの青年はターゲットの捕獲に乗り出した。ボボガキにあり得ない動きを見せ付けられて任務へのやる気を喪失させられ掛けたが、今のボボは己と同じ人間で、かつ、己の生涯と比べて未だ半分しか生きていない子供である。
 ターゲットのボボガキを捕まえて北東大陸の某寒村に戻す任務を始めようとした時、またもやスパイに邪魔が入った。邪魔をしてきたのは海でのんびり泳いでくるボボペロ(馬鹿犬)では無い。ターゲットの隣に居たラトン(子鼠)だった。

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