Bounty Dog 【アグダード戦争】228-229

228

 ーー地下牢にいる、ピエロのような戯けた赤目の黒布男は、間違い無くクロ……イシュダヌの刺客だと思っている。だが、敵である”民間お掃除部隊”に、ワザワザ情報を流してくる意味が分からない。裏切っているのだろうか?もう1人の刺客……暗殺の実行犯と、2人で潜り込んでいるのではないか?
 “彼”を保護する為に、実行犯を何としてもイシュダヌごと証拠を掴んで正体を暴き、排除しなければ。ーーシルフィは険しい顔をしながら、通信機を耳にあててアジトの外に出た。
 今朝、己が軍曹達と見た地獄のような状況を頭の中に思い浮かべる。皮膚が真っ青になって顔の穴という穴から血を流して死んでいた、まるで空気を求めて出てきたように土の上に飛び出ていた保護対象”ターゲット”のモグラの亜人達。そして同じような状態で地面に転がっていた浅黒肌の人間達。野犬や鳥によって散らかされたゴミのようだった。余りにも悲惨で、惨たらしい光景だった。
 その中に”彼”を絶対に入れたくなかった。エゴなのだと自覚している。其れでも絶対に入れたく無かった。
 シルフィは薄情な人間だと所属している組織の間で非常に有名だった。実の弟にも何度も何度も指摘されていた。しかし彼女もこの紛争地帯で価値観が変わっていた。死が余りにも近過ぎるこの場所で、絶滅危惧種達に降り掛かっている人間からの脅威をマジマジと知り、其れでも彼らから『自由』を奪ってはいけないのだとも”改めて”思い、人間であるが”彼”も他の絶滅危惧種のように喪失”ロスト”させてはいけない、非常に希少な命なのだと確信していた。
 ーー彼が喪失したら、この悲劇の土地は永遠に救われずに滅びて消えてしまう。他の生き物達も全て巻き込んで。ーー
 何としても英雄を保護する。シルフィはピエロ黒布が伝えてきた言葉を頼りに、己の所属組織『世界生物保護連合』の情報部に事情を伝えた上で、通信機越しに依頼をした。
「ええ、思い込みの逆。アグダードの中では幾ら探しても情報が見つからない。イシュダヌはアグダードに滅多に居ないそうだわ!だから、アグダードの外で探して頂戴!!
 必要なら世界各国の住民情報くらいハッキングしてやるわ!イシュダヌという苗字の人間のリストを作って渡して頂戴!!コレだけ強力な兵器を大量に作れる程お金を持ってるって事は、恐らく大富豪か世界的な有名人の筈!!」

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