Bounty Dog 【清稜風月】26

古のモノを守り過ぎると未来が喪失する。だが未来のモノにしか目を向けずにいると、歴史を喪失して過去と同じ悲劇を繰り返す。

26

 ーー日雨(ひさめ)は、俺と一緒で俺と全然違う。ーー
 最重要保護対象であるSランク『超希少種』の虫の亜人『麗音蜻蛉(れねかげろう)』の日雨を密猟者から救う緊急保護任務を完了させたヒュウラは、人間のように生きて暮らしている保護対象(ターゲット)の日雨に強い興味を持っていた。
 彼女と、彼女の幼馴染で護衛役である人間の青年・睦月(むつき)・スミヨシと合流する前に、ヒュウラは先ず己の身にへばり付いている密猟者から受けた大量の返り血を、山から麓に向かって流れている川まで行って洗い流す事にする。川に辿り着くと『世界生物保護連合』3班・亜人課の現場保護部隊支部に帰っている、己の相棒である猫の亜人・リングが教えてくれた、浅瀬の川でゴロゴロ横に転がって入って向こう岸に出ては、また川に入ってゴロゴロ転がり泳いで戻ってを繰り返す”猫亜人式ワイルド行水”をした。
 5周程ゴロゴロ転がりながら川の縁と縁を往復すると、血が川の水で洗い流されて身体が綺麗になった。身は充分綺麗になったが、己が近付いた時に日雨が死なないように、密猟者達が機械を使って山中に流していた麗音蜻蛉が吸うと死ぬ汚染物質入りの煙が絡まった足も、念の為にピンポイントで綺麗にする。
 川の縁に腰掛けてバタ足で良く洗い落とす。バシャバシャ音を出して澄んだ川の水で足を洗っていると、突然気配を感じた。反射的に後ろに跳ね飛ぶ。跳ね飛ぶと同時に、細長い木で出来た人間の飛び道具らしき物体が川の縁に刺さった。
 ヒュウラは虹彩が金、瞳孔が赤い片目5億エードの宝石になる目を激しく吊り上げた。思いがけない新たな人間らしき存在からの攻撃を受けて、強く警戒する。
 だが攻撃は1度きりで終わった。ヒュウラは音を立てないように川の縁に差し込まれた人間の道具らしき、鳥の羽が先端に付いた謎の木の棒の近くまで歩み寄って、棒を引き抜く。
 それは彼が昨日の昼から滞在している、東の島国『櫻國(おうこく)』で使われている独自武器の1つ、和弓(わきゅう)用の矢だった。土に刺さっていた小さな刃の部分も含めて、外の世界から来た狼の亜人は繁々と珍しい人間の道具を観察する。
 長過ぎてポケットに入らないので、手から外している睦月からの借り物・手甲鉤(てっこうかぎ)と同じように、腰に巻いている赤い布とライダースーツのような黒い服のズボンの間に挟み込む。新たな道具を手に入れたヒュウラはなるべく音を出さないように両足をしっかり川の水で再び洗うと、今は平和を取り戻した山の頂上付近にある、藁屋根の大きな一軒家に向かって走っていった。

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