Bounty Dog 【アグダード戦争】85-86


85

 余分な時間は一切無かった。ーーお互いに。だがミトとヒュウラはお互いに、相手の状況については一切何も知らなかった。
 事実は『空』には行っておらず、ミトと同じアグダードの地で元気に生きているが、直ぐに死んで本当に『空』に行く可能性も十分にあるヒュウラは、己が直ぐに死ぬ可能性がある事も一切知らないし、例え知っていても切り抜ける自信は”未だ”あった。
 ヒュウラがコレから“叱る”相手は、朱色目の黒布が暗殺したがっている喪失対象”ロストターゲット”で、朱色目と軍曹が率いる”お掃除部隊”が最も掃除したい”粗大級超ド一流ゴミ”の1人で、屈強だと名高い先進国の軍隊にかつて所属していた、階級持ちの軍人の成れの果ての男だった。人間でない亜人のヒュウラは相手の人間の世界で築いている肩書きを全て知らなかったが、纏っている雰囲気と、してくる攻撃の仕方で、強敵だと十二分に理解していた。
 ヒュウラは現在、カスタバラクから逃げていた。己が“叱る”前に、相手から凄く”叱られて”いた。

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