Bounty Dog 【清稜風月】27-28

27

 ヒュウラは、”何となく面白そうだから言われる事を手伝ってやる”から始まり、己が主人だと認識した人間が出来てからは”主人が指示してくるから”・”主人が望んでいた事だから”・”準主人を守りたいから”・”準主人の暴走を止めたいから”と様々な理由で特別保護官として任務に参加している、人間達が作った国際組織『世界生物保護連合』3班・亜人課の現場部隊長に、昨日この東の島国『櫻國』で”1ヶ月間休暇を取れ”と指示されていた。
 だが偶然己と同じ、人間による乱獲が原因で絶滅寸前である虫の亜人『麗音蜻蛉』の日雨と出会い、彼女に早速密猟者達が襲い掛かってきて撃退した事により、ヒュウラの休暇は僅か半日足らずで幕を下ろした。
 任務完了後、彼は休暇を指示してきた保護組織現場部隊長に、掌を返されるように首輪越しに『1ヶ月間、貴方の迎えが来るまで麗音蜻蛉の傍に居て保護し続けろ』と一方的に命令された。睦月によって再び風呂に入れられて袖がビラビラした櫻國の民族服を着せられたヒュウラは、敷かれた人間用の敷布団に入って寝る直前に突然連絡が来て言われた、エゴ極まり無いシルフィの命令に対して何の感情も抱かずに、3大口癖の1つを使って返事してから通話を切った。
 日雨の種『麗音蜻蛉』は、特殊な亜人である。櫻國の固有種である彼女の種は櫻國でしか生きられず、更に櫻國の中でも特に空気と水が澄み切った山の中でしか生存出来ない、非常にデリケートな身体をしている”捕獲不可能”の亜人だった。
 彼女は現在、ヒュウラが居る山の頂上付近に建つ藁屋根の一軒家の別の部屋で寝ている。睦月は己の横に、布団を敷いて寝ていた。
 人間の寝具については、毛布なら主人のデルタから勝手に奪ったお気に入りの草臥れた毛布が支部に置かれている。だが『布団』というモノは産まれて初めて使う寝具だった。
 頭の下に敷かれた『枕』は非常に固かったが、枕以外は重量が若干あるものの程良い固さで気持ち良かった。ヒュウラは疲れていたのか直ぐに寝る。寝方はいつものように横向きになって、くの字に身体を折り曲げた格好をした。
 あのクビキリギスが、外で相変わらず群れになってジージージージー大合唱していた。日雨に引き寄せられている虫達だが山が平和になった今は、虫が出す音達を煩わしいと微塵も思わなかった。

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