Bounty Dog 【アグダード戦争】230-231

230

 軍曹と同じように突然突撃訪問したシルフィは、呆気に取られているアグダード人の青年に向かって、何時もと変わらないクールな態度で話し掛ける。
「悪いわね、突然。30ファヴィ君」
「??」
 『3000エード』という一方的に名付けられている物凄く安い値段の渾名を言われて首を傾げた相手は、先ず反応として、ドアが全開になっていて部屋が丸見えになっていると指摘してきた。シルフィはキイキイ言う壊れ掛けの扉を無言で閉める。
 閉める途中で床に散乱している布ゴミも見えたので、朱色目は怪訝そうな目を向けてきた。扉を閉めて密室にした室内で、シルフィも不可解な物を見つけて怪訝な顔をする。
 猫のような鳴き声が部屋の外から聞こえてきた。アサルトライフルの山と一緒に置かれている物体を指さしながら、シルフィは朱色目の黒布に尋ねる。
「それは何?」
「ああコレですか?カプサイシンですよ。私の愛用品、カプサイシン」
 朱色目は即答した。兵器と一緒に側に置いていたのは、皿の上に乗った豆だった。スプーンが添えられていて、恐らく間食用のおやつだと思われる。現在アグダードの水はイシュダヌの兵器のせいで一部が猛毒化しているので、おやつの豆は煮豆では無く煎り豆だった。
 謎の赤い粉が豆に掛かっていた。今回も掛け過ぎていて、粉チーズを赤くしたように、豆の上にてんこ盛りになっている。
 てんこ盛りの赤い粉を指差しながら、シルフィは銀縁眼鏡のレンズの奥にある青い目を、限界まで吊り上げた。
 麻薬では無いのかと思い込む。どこかで聞いた事がある名だとも思ったが、怪しい化学物質だという気持ちの方が、今はとても強くなっていた。
 シルフィは朱色目を、2人居るイシュダヌ刺客の軍曹暗殺実行役の方だと思い込んでいる。彼女は朱色目の大好物である『カプサイシン』すらも、悍ましいモノだと思った。

 手に掴んでいる白銀のショットガンは、部屋に入る前に既に銃弾を装填”リロード”済みだった。部屋の外から聞いた事の無い別の声も聞こえてきた。10代前半の若い男の声が語尾にやんすござんすを付けて、猫の鳴き声と一緒に何か喚き喋っている。
 延々とセールで買うお安い服は半額以下じゃ無いと駄目だとか、どうのこうの喋っていた。これまで数回チャレンジしては捕獲に失敗しているモグラの亜人・コルドウのように、自由を極めた宇宙人を彷彿とさせる意味不明な言葉の羅列だったので無視する。このアジトの外には、直ぐ近くにコルドウの巣があった。其処に住んでいる生き残りのコルドウと猫の亜人のリングが何か喋っているのが漏れ聞こえているのだろうと思った。
 ヒュウラの声は一切しない。シルフィは目の前の任務にのみ集中する。ーーこいつがイシュダヌの刺客だと確定した瞬間に、銃で即座に撃ち殺す。”彼”の保護の為に。ーー

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