Bounty Dog 【アグダード戦争】98

98

 ーー『鳶から鷹が産まれる』という、東の小さな島国で発祥されたらしい諺があるが、他の大勢の人間と同じく極々平凡的な顔をしていた両親は、産まれた瞬間の顔を見た途端に助産師と医者と看護師達を全員窒息させた、異常な美を持って産まれた俺を鷹どころか象を餌にして船を沈める怪物のロック鳥とでも思ったらしい。恐れ恐れてしまい、自分達が窒息しないよう産まれて直ぐに顔に袋を被され、産まれたその日の内に病院を逃げ出て、家の屋根裏部屋に赤ん坊の時から俺は幽閉されて、家の外に親が出る時は必ず俺の代わりに”影武者”の孤児を雇って偽の子供兼囮にするという奇妙な家族生活を強いられた。
 知っているのは家の屋根裏部屋の景色と、両親と、両親がくれるものだけ。屋根裏部屋に窓は無かった。少しだけ広いケージの中で暮らしているペットのような非常に奇妙な生活で、更に何時も袋を被らされていて、時々大きなサングラスとマスクになったり犬の着ぐるみの頭の部分になったりして何時も息がしにくかったが、俺はその室内ペットのような生活だった乳幼児期の頃は、自分が不幸だと全く思わなかった。
 両親は俺を家から一歩も外に出してくれる事は無かったが、他の子供と同じかそれ以上に俺の事を心から愛してくれた。専業主婦の母は、「貴方のせいでは無い、貴方のせいでは無い。神様、どうして息子にこんなにお与えし過ぎたの?」と、毎晩寝かせられる時に俺に泣きながら懺悔した。欲しいものは物であれば何でも言えば買ってくれて、国の民の『自由』を守る職の1つである警察官だった純粋な性格の父は、俺に基礎的な教養と、この世に溢れる程ある人間がする悪についての情報と共に、祖国以外のこの星にある沢山の国の事、人間以外の生き物に亜人という生き物も居るのだという事、祖国から少し離れた大陸の中東にアグダード地帯というものがあり、今は危険な紛争地帯だが、自分達の祖先がかつて住んでいた、この星のありのままの姿が残っている貴重な土地の1つであるのだと教えてくれた。
 父はそこそこ地位がある警察官だったが、本当は世界的に名高い祖国の名誉ある陸軍に入りたかったそうで、挫折した夢の未練として、祖国の軍事に関する多量の一般書籍と銃と軍事用の武器をコレクションするのを趣味にしていた。俺が幽閉されていた屋根裏部屋にも母に見つからないようにコッソリ持ってきていて、俺の大きな玩具箱の底に隠し入れていた。大量の玩具に埋まって底に置かれた本物の銃と爆弾達を、子供の頃から良く掘り出して触って眺めていた。爆弾も銃も子供の俺が暴発させないように火薬と弾が抜かれて撃てなくされていたが、本物の銃と爆弾はどれも凄く重かったが、水鉄砲やプラスチックのボールよりも遥かに魅力的で妖艶で、素晴らしく”醜い”物だった。ーー

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