Bounty Dog 【清稜風月】29-30

29

「昨日来た”アイツら”の狙いは、確実に日雨。あの密猟者達は麗音蜻蛉の殺し方を熟知してた」
 虫の亜人である日雨が暮らしている清浄な山と人間達が暮らしている大きな町を繋いでいる野道を、櫻國の外から来た狼の亜人を引き連れて歩いている人間の猟師・睦月は独り言のように呟き始めた。
 睦月の真横で一緒に歩いているヒュウラは、何時もの黒いライダースーツのような服の上に短い西洋鎧を付けて、腰に万能使いが出来る赤い長方形の布を、尻尾のように垂らし巻いた格好をしている。睦月も昨日と同じく上は蓬色の袖が短い着物で下は紫色の作務衣(さむえ)、足に灰色の足袋を履いた格好の上に、胸までしか長さが無い簡易な和鎧と薄茶色をした動物の毛皮を首から胸に巻き垂らしていた。
 服装は同じだが1人と1体は今日、武器を一切持っていない。手甲鉤と猟銃は『持っていると町人に辻斬り(通り魔)だと間違えられる』と家を出る前に睦月が言ってきて、日雨と一緒に家の中に置いてきていた。
 睦月は武器の代わりに、何かが入っている小さな袋を持ってきている。一定の間隔を開けて建っている赤い小さな鳥居(とりい)を、潜り抜けずに外側に回って避けるように通った。道の左右に並んで置かれている石で出来た地蔵達がいる道は、両手の平をくっ付け合わせながら道の真ん中を堂々と歩き過ぎる。
 東の島国にある人間達の仕来り(しきたり)を亜人にも真似させながら忠実に行って歩いていく睦月は、前方に町が見えてきた頃に、ヒュウラに向かって話し掛けてきた。
「1日掛かるかもだけど、今日中に君と一緒に元凶を見つけ出したい。もう一度あんな手を使われたら、君達やあいつが居てくれても日雨を守り通せる自信が無いんだ」
 ヒュウラは不思議な事をさせられていると面倒臭さを感じながら、顔は何時も同じ仏頂面だった。仏頂面で内心機嫌がまた少し悪くなっているが、別の事で疑問が唐突に湧く。
 顔は無表情のままだが、ヒュウラは頭の中で湧き上がった疑問を解決させたいと思った。非常に短い言葉で、睦月に尋ねる。
「放って良いのか?」
「日雨の事?うん、今は大丈夫」
 睦月は何故か余裕綽々の態度で即答してきた。安心させようと気を遣ってきている雰囲気を出しながら、微笑み顔で理由を説明する。
「僕は知り合いが結構多くてね。猟師仲間達もだけど、それ以外にも何人か居るんだ。その内の1人に彼女の護衛を代わって貰ってるよ。山で何かあっても、今は対処してくれる」
 ヒュウラは無表情のまま首だけを傾けた。不思議そうにしている狼に、人間のマタギは言葉を続ける。
「僕よりも遥かに強いから大丈夫。あいつよりも実力はすべからく上だし。あいつの里……君の感覚でいう”群れ”の長をしている人間だよ」
 唯、普段は凄く忙しい人だから”捕り物”には参加して貰えないんだ。と、ヒュウラが尋ねる前に睦月は苦笑しながら補足した。

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