Bounty Dog 【アグダード戦争】90-91

90

 ーーリーダー、リーダー、お願いします。ヒュウラを”叱って”ください。テレビのリモコンと海苔付きの醤油煎餅を持っていたら全部取り上げて、眼鏡を仕返しに取られても取り返して、幾らでもデコピンをビシビシしまくっちゃって、『ワン』でも『御意』でも良いから言わせて謝らせて反省するまで”叱って”ください。お願いします、直ぐ追い出して!お願い、”連れて”行かないで!!ーー
 ミトはカスタバラクの私邸で主の寝室に辿り着くまでの数十秒間、今は『空』にいる、最も信頼している元上司に心の中で懇願した。ヒュウラが死んだと思い込んでいる彼女の心は砕けて壊れていたが、感情の欠片が未だ残っていた。
 恐怖の感情が残っていた。己が居るこの荒れ果て枯れ果てた砂と土ばかりの無法地帯アグダードでの、命が余りに簡単に消えていく戦争に巻き込まれている今の己の状態が怖くて堪らなかった。命の喪失”ロスト”を阻止する保護官である筈の己が、大勢の命をこれまで散々に喪失”ロスト”させてしまった。
 命を殺したくないと願う己の『自由』が散々に奪われている。だから己の大好きな存在、自分の”友”、一緒に『世界生物保護連合』の3班・亜人課の支部から一緒に傍に居てくれる保護対象、亜人のリングとヒュウラが心の支えだった。ヒュウラは自分の命よりも大事な全てだった。彼自身が必ず保護しないといけない『超希少種』の亜人であり、己が脅威から保護した大切な命でもあるが、己を保護官として育ててくれた信頼する亡き上司を『主人』と思っていた、大切な大切な、上司の形見のような存在でもあった。
 ミトは、カスタバラクの寝室で”ソレ”を見つけた時まで、心が喪失と恐怖で満たされていた。今は違っている。”ソレ”を見下ろしている今の彼女の心は、別の感情に置き換わろうとしていた。

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