Bounty Dog 【清稜風月】191

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 イヌナキ城という、此の城に民が何時の間にか名付けた呼称をどうすれば古の武将が名付けた真の名に戻す事が出来るのか、本気で悩んでいた時期があった。「負け犬の遠吠えの如き響きである故に?」と揶揄ってきてから「犬は、いと強う動物。私は此の名を誇りに想うとります」と力強い口調で説得してきたのは、家内の凪・イヌナキだった。
 生き物を2つも腹の中から産み出しても至極元気に生きていたのに、鬼が起こした火の爆発を一度身に受けただけで家内は呆気なく死んだ。嫁入り前の見合いの時から死ぬ日まで、艶やかで長い黒髪を強間(きょうかん)の位置で纏め上げて、薄紫色の紫陽花の絵が描かれた青い櫛を髪飾りとして団子髪の上に挟み乗せた髪型か、縛らず何も付けずの髪型をするかの何方かしかしない兎角何もかもにおいて頑固な女だったのに、頑固で強う女だと想っていた凪は次男の紡を腕で抱き、長男の柳を背後に隠した格好で鬼に火で喰われて、己が産んだ2人の子ごと纏めて身を崩されて呆気なく死んだ。
(女子[おなご]は強う無い。悍ましくも無い)
 女は死ぬ時、男と同様に呆気なく死ぬ。どの生き物の女も雌も死ぬ時は呆気なく死ぬ。
(女は化け物では無う。故に退治は容易)
 槭樹・イヌナキは7ヶ月前に櫻國に降り注いだ忌々しい”火の厄災”で、妻子の命と引き換えに学んで悟っていた。
(真の化け物も容易に退治出来る。どんな化け物であっても)
 本丸の中庭で腕を組みながら大股開きで立っている槭樹の足元に、人間の生首が入る程に大きな木製の深い桶が1つ置かれていた。
 桶には透明な液体が溢れんばかりの量で入っている。刃物も大型で非常に鋭利なモノを腰に差していた。”やり方”は”あの本”を読んで学んだ。思ったよりも簡単で、材料は櫻國で容易に手に入るモノだった。
 ーー彼奴は、いと可愛い野生の犬。ーーだが、風が進入を密告してきた”あの犬”の処分は昨晩、床に就く前に決めていた。

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