Bounty Dog 【清稜風月】8-9

8

「お前は死ぬのか?」
 ヒュウラは日雨に差し出された緑茶を啜りながら、至極ストレートに虫の亜人に尋ねた。摘んだ葉っぱを千切りにして炒って煎じて作っている”櫻國茶”も偏食狼の口には合うらしく、湯呑みを片手で掴んでワイルドに半分程飲んでから、日雨に向かって再び尋ねた。
「山から出ると死ぬのか?」
「うん。私の種は、この国の山の中でしか生きられないの」
 日雨は桜色をした非常に長い髪の間から出ている、揉み上げのように垂れて胸の上に乗っている長い紅色の触覚をゆらゆら左右に揺らした。背中から生えている長細い4枚の羽は動かさず、己のお茶を一口飲んでから亜人仲間に向かって説明する。
「私の種『麗音蜻蛉(れねかげろう)』は、この山のように澄み切っている空気と草木と土と水があって、四季もあって決まった湿度とか気温とか条件が全部揃ってる場所じゃ無いと生きられないんだー。……もう!この山以外は何処にも行けない!!不憫で堪らないよ!!」
 触覚がバンバン前後に揺れて、控えめな胸を激しく叩き出した。中東のモグラのようなマーク類は一切噴き出さないが、憤怒している虫女の横でお茶請けの桜餅を食べていた、マタギという人間の狩人である睦月・スミヨシは、幼馴染の亜人がしていた説明に補足をした。
「麗音蜻蛉は日雨が言った通り、物凄く繊細な亜人なんだ。寿命も他の亜人に比べて凄く短くてね。君が所属している亜人課の保護部隊も、そういう理由があって麗音蜻蛉には手出し出来ないんだ」
 ヒュウラは若干目を丸くした。茶は飲んでいるが5つもある桜餅は1つも食べていない。日雨がヒュウラの桜餅を、やけ食いのように食べ出した。
 睦月は怒りながらムシャムシャ餅を食う虫の亜人に残っている己の桜餅もあげてから、小さな溜息を吐いて、ヒュウラに伝えてくる。
「君が亜人の捕獲任務をしている組織。僕の知り合いも1人所属していてね。そいつ経由で話を何時も聞いてる。僕も日雨も国際組織『世界生物保護連合』は知ってるよ」

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