Bounty Dog【Science.Not,Magic】75

75

 ーー魔法は呪文が必要だ。呪文まで編み出さなくても構わない。ーー

 カイ・ディスペルも、科学反応に関する実験結果を記した論文を魔法の呪文とは思っていない。実験結果は科学者が努力の果てに見出すモノであり、幾百幾千と同じ事を繰り返して得たデータは、見えない宝石のようなモノだとも想っている。
(さっぱり分からない!何で言う事を聞いてくれないんだ?原子、原子!!)
 頭の中で声が聞こえた。時々うきゅうと鳴く、己が背負っている友達の声では無く、遠い北東大陸に居る唯一の家族が、過去に家の中で発していた声。
 怒りに満ちている、実の兄の声。
(何で人間はローグを殺したんだ?絶対に頭可笑しいだろ!?)
 カイは花火と雑音、徐々に聞こえてくる吹奏楽のような音楽を聞きながら、家族の声も聴いていた。心中でぼんやりと思う。
 独り言を心の中で呟いた。
 ーーオレの兄貴。タクト・ディスペルは、のんびりしていて滅多に怒らない。怒った時は本気で怖いけど、それはオレがやり過ぎた時だから、オレのせいでしかない。きっと今も怒ってる。この間電話した時も、スーパーハイパーミラクルアルティメット怒られて、挙句にスーパーハイパーウルトーー(割愛)。
 ーーでもそれ以外は優しくて、オレには時々厳しいけど大抵は機嫌良くニコニコしてる。村では人気者で、働いてる北東大陸の連邦国家にある大学でも人気者。女の子にも結構人気らしい。そんな兄貴だけど、家では夜中に部屋で良く発狂してた。研究でだ。
 原子操作術の研究。全ての原子を活性できる術式を解明したら、ありとあらゆる科学賞を総ナメで受賞出来るどころか、世界を支配出来るとさえいわれる程に難しいらしい”科学”の研究。
 それで兄貴は今でも家に居る時は良く試験管とフラスコを叩き割って、スーパーハイパーウルトラアルティメット、発狂して頭抱えてるんだ。だから……、
 だから、そういう発狂してまで苦労して歩んでる兄貴とか他の人達の研究の道筋である論文や臨床データをパクって、勝手に利用して何か勝手に作るとかっていうのは!!ーー
「絶対に許さねえんだよ!だから成敗してやる!!エーデンバーグ!!」
 カイが喚いたので、彼におぶさっている鼠が驚愕してうきゅうと鳴いた。遠くで人間達が騒めく声も聞こえてくる。花火が連続で上がった。カイは読めない弾幕を潜って、パレードの列の中に入り込んでいく。ターゲットを探す目的地を既に設定していた。
 パレードは無視する。カイは人混みを掻き分けながらズンズンと進んでいく途中で、ターゲットが紛れ込んでいる人間の群れと極めて近い距離まで接近した。
 が、勘付かなかった。

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