Bounty Dog【Science.Not,Magic】76

 記憶の砂嵐の隙間で、星が瞬いている。星の粒が瞬く度に若い男の声が、あの言葉を呟く。
 ーーお前は次の産まれた日の夕方に、仲間から力を借りてお前が1番愛している人間と出会える。1番欲しいものが貰える。その前にお前は、3番目に愛しているモノを目の前で失う。ーー

76

 猫の亜人がニャーと鳴いた。鳴き声が聞こえない別の種の亜人が、1人の人間の心の中で響き続けるモノと同じ声で独り言を呟く。
「ろすと」
「ヒュウラ、何してるんだ?」
 セグルメントが側に来た。赤い腰布を捲り上げてポケットの中を探っている亜人の顔に、人間の男が咥えている煙草の煙が当たる。
 ヒュウラは鼻を摘んで、両手から片手になってポケットの中を探り続けていた。紅志はパレードの群勢を見ていて、亜人の様子に興味すら持っていない。
「ろすと」
「あー、それな。安心しな、喪失(ロスト)じゃねえから。後で俺がチャチャっと直してやるわ」
 折れた首輪のアンテナを握った手がポケットから出てきた時に、セグルメントが自信満々に言った。振り向いてきたヒュウラの顔を見て、セグルメントはハハハと笑い出す。
「御意。……ろすと」
 煙草の臭い避けで鼻を摘みながら、ヒュウラは仏頂面に戻って首を縦に振ってから、横に振った。不思議な行動をしている亜人に、セグルメントは己の首を斜めに傾ける。
「何とも思わない」
 ヒュウラはポケットにアンテナを戻して、再び歩き出した。引き続き、有る場所に向かって人間2人を連れて行く。
 黒縁眼鏡が無くなっている事に勘付いたが、ヒュウラは道具にカウントしていない失くし物に対して、本当に何とも思わなかった。
 現在所有している道具は本とアンテナで、アンテナもヒュウラにとっては、脅威を乗り切る為の道具では無い。

 遠い記憶は砂嵐から、霞になって喪失する。

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