Bounty Dog 【清稜風月】155-157

155

 日雨は山の家から少し離れた場所で、大きな水柱が上がっているカンバヤシ邸を白銀の双眼鏡越しに眺めていた。櫻國固有種で清浄の地から離れると途端に死ぬ繊細な亜人は、産まれて初めて見る摩訶不思議な光景に大興奮すると、この1ヶ月の間に様々な摩訶不思議なモノを己と”むっちゃん”に見せてくれている、あの西洋から来た狼の亜人の姿を心の中に思い浮かべた。
 むっちゃんの目でも見えない驚く程に遥か遠い場所まで見る事が出来る、人間が作った摩訶不思議な道具を己に授けてくれた存在も、その狼の亜人だった。日雨の心の中で己と同じく9割以上は人間と同じ見た目である狼の亜人が、駒に紐を茶色い手袋を嵌めた指で巻き付けている。
 顔は教えに教えた笑顔では無く、仏頂面だった。幻であり実物では無い虫の心の中に現れている相手は、顔は仏頂面だが何処か楽しそうな雰囲気を身から放っていた。
 幻の狼が駒を放り投げる。虫の眼前でクルクル、クルクル回り続ける人間の子供が遊ぶ幻の玩具を見つめながら、人間の男子(おのこ)2人に命を救われて以降、8つの齢の頃から人間として生きている『桜の国の妖精』と人間達に呼ばれ『清稜の山神』とも人間達に呼ばれている虫の亜人は、此の道具を子供の頃に授けてくれた、むっちゃんでは無いもう1人の人間の幼馴染の姿も思い浮かべた。

156 

『キ・セクスキューズ・サキューズ(言い訳は、やましさの証拠)』
 シルフィは産まれても育っても、何なら任務では幾度も入国経験有りだがプライベートでは未だ”準備不足”故に恐れ多くて現地の街に足を未だ付けていない、優雅であり非常に賢くもあり高い実力と鋼鉄の精神を併せ持つ完璧な人間の女”マドモアゼル”として永住権を取って暮らしたいと勝手に子供の頃からの夢にして長年憧れている、北西大陸上部にある某国の格言を呟いた。
 コノハは、ヒュウラの首輪から唐突に呟かれた上司の摩訶不思議な独り言に反応する。意味が分からずに首を大きく傾げた。ヒュウラは返事も反応もしない。
 1人と1体は現在、カンバヤシ邸の客間の真上に位置する屋根に乗っていた。ヒュウラは人間の道具を何も持っていないが、コノハは幾つか人間の道具を愛用武器のオートマチック式2丁拳銃と一緒に装備している。
 上司は上機嫌で、ヒュウラの首輪越しに再び摩訶不思議な独り言を呟いた。
『でもその”やましさ”が、人間らしくてトレビアン(素晴らしい)』
 亜人が動いた。人間も続いて動き出す。

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