Bounty Dog 【清稜風月】186

186

 ヒュウラとコノハが櫻國に滞在出来る期限は、本日までだった。明日の昼に、此の島国で生きている人間達と亜人がどのような状態であっても此の島を去らないといけない。
 1日、残り24時間も1体と1人は自由に行動出来た。人間が築いている全ての国家と文明は、星が作り出した自然という強大な存在よりも圧倒的に脆い。24時間も掛からずに全てを徹底的に根本的に変える事は、赤子の手を捻るよりも容易に出来る。
 だが其れは、人間以外がすれば成り立つ。

 櫻國滞在29日目。ヒュウラは日が出てから間も無い早朝に目覚めた。横を見ると、日雨が”ノウ”と一緒に同じ布団で寝ていた。虫の亜人の頭に生えている2本の赤い触角の先端が、ノウの額に押し当てられている。1体と1人の女と女が記憶の共有という意味で1つになっていた。
 和室の一角が虹色に染まっていたが、ヒュウラは隣の虹よりも部屋の端に置かれている”其れ”の方が気になった。眠る直前に日雨から見せて貰った”其れ”は、己よりも早起きだった。一部が姿を現しては消え、また現れる。”其れ”は黄金色の朝日を浴びながら己自身が作った空想の道具で遊んでいた。
 ヒュウラは布団から這い出て、間近で”其れ”を見る。不快にならない甘い匂いがした。ヒュウラは産まれて初めて見る摩訶不思議な物体だった。繁々と観察していると”其れ”に4つのモノで、頬と額をペタペタ触られた。
 暫く経ってから、日雨が禁断の薔薇色の夢を見ているコノハの額から触角を離して、共有していた楽しい夢から目を覚ました。布団から起き上がるなり、部屋の端に這って行く。”其れ”を両腕で抱えて優しく揺さぶると、4つのモノで頬と額をペタペタ触られながら部屋中を見渡した。
 ヒュウラの姿が家から消えていた。日雨は彼が向かった場所を知っていた。心の中で呟く。
 ーーヒュウラさんは、むっちゃんとみかんちゃんと槭樹さんを助けに行った。その前に昨日煎じ薬を飲ませていた時に私が教えた、あの場所に行ったんだ。あの場所は『霊』にお願いが出来る。でも、あの場所は……。ーー
 不安になって思考を止めたが、大きく被りを振る。ニッコリ微笑むと、再び心の中で呟いた。
(ううん、大丈夫。だってヒュウラさんは私よりも自由で、私よりも人間になれる人)

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