Bounty Dog 【清稜風月】25

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 その女の腰の一部は、去年の年末に上司の実家がある北東大陸を南部にある別国以外掌握している連邦国家の巨大イベント会場で行われた、ファンによる追っかけが多い故にライブをする度にファン達が何かしら狂った事をして次の日に発行される北東大陸の新聞に1面か2面で事件として載る、支援者がエゴイストだらけで非常に有名な某超人気男性アイドル歌手グループによる、鑑賞チケット争奪戦で死者が何十人も出たという風の噂まで流れてしまっているデビュー曲から最新曲までの全曲を歌唱したメドレーライブツアーの最終日公演で大盛り上がりだった。
 腰に装着している、会費がボッタクリ価格であるにも関わらず会員が大量に居る有料ファンクラブの最上位会員である彼女自身も奇跡的に手に入れた、現地での鑑賞は保護組織の仕事都合で出来ずにチケット参戦を断念せざるを得なかったライブ中継音声を再生専用機械から超絶大音量で流し続けながら山道を走っているコノハは、己の腰に付けた”纏めて愛している”ダーリン達の、何百回聴いても心がトロけるライブ終了直前の呼び掛けに、微音感知型耳栓越しに酔いしれていた。
『皆んな!ぼく達もとても悲しい、悲しいです。だけどこれが皆んなに送る、ぼく達全員が皆んなへの愛を込めた最後の、最後の曲だよ!このツアーで皆んなに会えて、ぼく達は本当に幸せだった。今日は皆んながぼく達の歌で癒されて、良い夢をみて眠ってくれたら嬉しい。では聴いて下さい!ラストソング!【ドリーム(夢)】!!』
 北東大陸の超人気アイドル歌手グループは、熱狂的ファンが外国で勝手にした愚行のせいで、無関係な外国人達の平和な眠りを妨げて”バッドドリーム(悪夢)”と化している、皮肉でしか無い曲名の歌を超絶大音量で熱唱し始める。
 狂ったファンによってまた北東大陸の新聞に”お騒がせホイホイアイドル”扱いされて大々的に事件として載せられる、アイドル好き以外の人間達には非常に煙たがられている哀れな被害者アイドル達を無意識にプライベートですら東の島国への観光や来訪を半永久的に出来なくさせたイケメン大好き保護官は、身に付けている白い迷彩服のポケットに入れていた通信機が急に震えたので、アイドルの歌から仕事の備品に意識を移した。通信機の側面に付いている応答ボタンを押して、耳栓を片方外してから外した方の耳に機械を当てる。
 己を見捨てたと思っていた上司が、再び己に呼び掛けてきた。シルフィ・コルクラートはヒュウラの参戦と相手に指示している密猟者退治依頼をコノハには伏せた状態で、先ず密猟者の正確な残数を伝えてから『今向かっている片方だけを対応しろ』と指示してきた。
「了解しました、リーダー」
 真面目な言葉で返事した、やり方が大幅に常識からズレているが仕事自体は律儀にこなすコノハに、シルフィは未だに音が大き過ぎるアイドルの歌が流れているからなのか、黙る。
 沈黙は数秒だったが、相手の態度は急変していた。小さく溜息を吐いてから、上司は極めて冷静な態度でコノハにもう1つの指示をしてきた。
『サクラダ。任務が終わったら直ぐに、そのアイドル歌手の機械を止めて。そしてヒュウラを厳重に見張りなさい。何かあったら直ぐに連絡を頂戴。出来るだけ私も支部から動かないから。
 デルタや軍曹を攻めはしないわ。だけどあの子は元々大人しいけれど、野生の本来の姿からどんどん離れてしまっている』

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