Bounty Dog 【アグダード戦争】277

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 其処は、まるで宇宙船のようだった。ーーと、人間であれば殆どの命が感想を抱くような場所だった。

 『イシュダヌ城』『ブサイク城』そしてあと1つ軍曹が勝手に名前を付けているイシュダヌ麻薬奴隷商会勢力本部の最上階に辿り着いた亜人達は、人間のような見た目の雌猫が「ウニャー!」と大きな一声を上げて驚き、人間のような見た目の雄狼は仏頂面だが、好奇心旺盛なのでキョロキョロと辺りを見回している。そして狼の背中にしがみ付いている人間のような見た目の雄モグラは、サングラスのようにしているパイロットゴーグルを付けた目からキラキラマークを大量に放出し出した。
 創作御伽噺の描写が形になって身体から飛び出てくる不思議なモグラは、キラキラマークと一緒に骨のヘルメット型帽子を被っている頭からハートマークも大量に噴き出す。2つのマークを乱れ飛ばしながら狼のヒュウラから降りたモグラのミディールは、ニャーニャー鳴く猫のリングと一緒に白い金属板に覆われた未知の空間に興奮しながら、大きな声で喋り出した。
「遂に、遂に辿り付いたでやんす。『ブラックフライデー』と『年末年始大特価セール戦争』を超えた、大変、大変素敵いいいいいいい!!な服の大大だい大、大特価セール会場でござんす!!
 もうね、此処は異次元でやんす!カゴから争奪戦が始まるでやんす!!物凄く気合い入れてね!!ライバル達のタックル攻撃と店員さん達の箒掃き出し攻撃に注意しながら、冬物と春物、何ならついでに夏物と秋物も1年分大変お買い得に手に入れるでそうろう!!」
 ヒュウラは子分の宇宙語を完全に無視する。宇宙船の壁に張り付いている物体を見つけた。近付いて物体に手を伸ばす。
 ONとOFFが斜めになっている板を押して切り替えられる、ロッカスイッチだった。押してみると、己らの周囲が闇に包まれた。猫が驚いて一声鳴く。もう一度押すと、光に包まれて元通りになった。
 天井を見上げる。梁の下に電灯が並んでくっ付いていた。9階までは電灯が無く、壁の彼方此方に置かれた燭台に乗っている太い蝋燭の火が通路を照らしていた。ヒュウラ達の世界は人間が電気を発明してから500年以上経っているが、蝋燭を未だに照明に使っているのは1000年以上続く勢力の歴史の名残だろう。だが人間では無い亜人達は、蝋燭だろうが電気だろうが身の回りが明るくなれば良いので興味無かった。この階だけが光がとても強いという事、さっきヒュウラが押したスイッチで光を消したり付けたり出来る事だけしか興味を抱かなかった。
 外でコルドウのエスカドを弄るのに使った、電気照明式の街灯に付いていたスイッチと同じ仕組みのようだ。其れをこの場所では特定の広い範囲で切り替えられるようになっているらしい。其処まで推測したヒュウラに、ミディールがまた喚き出した。
「あぎゃあああ!此処も凄く眩しいでやんすう!!親びーん、この目隠しだけでは駄目でやんす。またアレ、貸して下さいでござんす」
 ヒュウラは仏頂面のまま、モグラに赤い腰布を貸してやった。頭にグルグル巻き付けて、モグラはまた布亜人になる。
 ヒュウラ、リング、布亜人ミディールの順で縦に並んで少し歩いていると、ヒュウラの首輪から声が聞こえた。シルフィでは無かった。軍曹でも”朱色目の黒布”でも無い、若い人間の男の声が狼の亜人に話し掛けてきた。
『ヒュウラさん、イマームです。無事に着いてくれたようですね。その階に、さっきシルフィさんが言った機械があります。
 東西に2台ずつ、北南に1台ずつで全部で6台です。機械がある場所のめじーー』
「神輿は」
 ヒュウラがイマームというシルフィ経由で先程挨拶された、黒布を被っていて何時も戯けていて、軍曹や朱色目に時々顔パンチされていた記憶しか無い人間にも、盛大に勘違いしている某人間の国の文化財の事を言った。イマームは2秒程口を閉ざしてから、直ぐに指示を続けた。
『オイラもソレは全然分かんないけど……ヒュウラさんのミコシ。其れがある部屋は、扉の右上に緑色のランプ……緑色の強い光を出している大きな丸い物体が付いています。
 ランプを目印にして部屋を見つけて、中にある大きなミコシを壊して下さい。6台全部です。その階は部屋の数が少ないので、ミコシの部屋は直ぐに見つかると思います。よろしくお願いしま』
「神輿は担ぐと、漏れなく頭が狂うのか?」
 ヒュウラが指示の終わりかけでイマームにまた神輿について尋ねた。神輿を適当に扱う事で混乱を避けていたイマームは、1秒だけ黙ってから答えた。
『此処にあるミコシは其れ以上です。放っておくと、皆んな死にます』

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