Bounty Dog 【アグダード戦争】265-267

265

 『飛んで火に入る夏の虫』という諺がある。我々の世界ではアジア圏にある島国、ヒュウラ達の世界では東の島国の人間達が使用している諺だが、この諺の意味は”自ら危険や災難、リスクを伴うモノへ進んで飛び込む事”である。
 我々の世界にある別の大国の人間達が使っている言い方では『It is like a moth flying into the flame』と言われており、先程示した小国の諺の虫が蛾になっているだけである。夏の虫は街灯等の人工の光に良く吸い寄せられているのでこの諺が作られたという説があるが、実際の虫は光に単純に吸い寄せられているのでは無い。虫は月の光を頼りに一定の法則で飛ぶ性質があり、人工の光を月と勘違いして、”飛ぶ”という生きる為に必要な行動をする為に街灯に吸い寄せられているのが真実だ。
 上記からは全く別の話になるが、虫ではなく人間は暗闇に放り込むと、無意識に光を探し回る。目が光を頼りに物を見るという機能をしているから故に、闇を避けて光に包まれた場所にいたがるのが本能だ。更に光り輝くモノに対して興味を持って引き寄せられるのも、本能での行動である。
 何であれ光を受けて輝けば輝いている程、目立つ。人間は光によって目立っていれば目立っているモノ程、無意識に吸い寄せられる。そして輝いている其れが罠であれば、簡単に引っ掛かる。


「始まったな。儂の生涯、最大級の祭り」
 ミサイルで火の海と化している元阿片畑だった麻薬奴隷商会本部の周囲の広場の一角で、ミディールの群れのリーダーである祭り大好きモグラは呟いた。相手側の武器が枯渇したのか、襲撃に行った人間達の方に標的が変わったのかは不明だが、今は広場に1発もミサイルが撃ち込まれていなかった。コルドウ駆除用の毒入りミサイル弾も、勿論イシュダヌ軍は撃ってこない。
 ラフィーナは、己の群れの仲間3体と横に並びながら、地中から両腕を出した。何でも斬り裂く鋼鉄の爪が生えた指を揃えて手首を曲げ、左右を上下に固定したポーズをする。そのポーズは、蟷螂を連想させる独特の構えだった。
 腕だけ露出させたモグラは、地中に住む蟷螂と化す。蟷螂になったモグラは、非常に渋い大人の男の声で再び呟いた。
「人間よ。我が祭りの贄となれ」
 カスタバラクより歳上の43歳祭り狂おっさんモグラは、そのまま蟷螂の手をブンブン高速で振り始めた。戦闘準備は万端だと盛大にアピールすると、横に居るエスカドが50音字の4番目を壊れたように大声で連呼して叫び上げ、他の雌モグラ2体は慣れたように相変わらず思考がぶっ飛んでいる雄モグラ2体を無視すると、其々持っている無声笛を大きく吹き鳴らした。
 ラフィーナの産まれてから死ぬまでされる生涯という祭りには、生け贄も時に必要であるようだ。クルテラとマクマクが吹いた笛の超音波を聞いて、他の群れのコルドウ達が広場に集まってくる。己達も途中で笛を吹いて、どんどんアグダード地帯全域の生き残っている仲間達を広場に呼び寄せていった。

 アグダード中から、大勢の生き物が一箇所に集まってくる。集まってくる全ても、襲撃している者達も未だ知らない。
 後先考えずに故郷を平気で喪失させようとした『死神の不良品の花』は、1時間後に星の5分の1が消え去る威力を持った最凶の爆弾を『処分が凄く簡単だから』という非常に安易な考えで、この地に落とそうとしている。

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