Bounty Dog 【アグダード戦争】284-285

284

 ヒュウラの首輪に赤いランプが2個付いていた。このランプは1分経つ毎に1つずつ消えていく。残り時間は2分。
 シルフィとイマームに指示されている任務の制限時間は、残り2分。任務で『壊せ』と指示された、彼は本気で最低最凶の物体だと思い込んでいる、人間が作った最終兵器『神輿』の未破壊数は、3個。

「ミディールを捕まえろ。光を付けろ」が、ヒュウラに指示されたリングの任務だった。相棒の狼は会話を物凄く面倒臭がるので、同じ言葉を数回返してキレてバウバウ吠えるように喋らない普段は、5W1Hが何も無い言葉だけを言ってくる。
 其れでも相棒の猫は、正しく”ノリ”で相手が何を言いたいのか分かるようになっていた。出会ってからたった13日以内でヒュウラについてほぼ全てを理解した、狼が己の主人だと思っている人間の保護官に、次点で近付いている。
 猫のリングはモグラのミディールが出す声とクシャミとハートマークを頼りに、己もニャーニャー鳴いて位置を教えながら、闇の中からモグラを見つけ出した。モグラを背負ってから、暗闇でもモノが見えるミディールに照明のスイッチを見付けさせる。スイッチに近付いて、ミディールにロッカ式のスイッチを押させた。東側が闇から光に変わると、光に弱いモグラが眩しがってあぎゃあぎゃ騒ぎ出した。

 モグラの中で思い出として密かに生き続けている“自称”アルバード・テスタロスタ大佐は、己が率いる先進国陸軍第1部隊から中佐以下の階級の人間を上から14人選出して、今から5年前にアグダード地帯にやってきた。
 其れまでは様々な国の軍隊と時々戦闘任務を行うものの、アグダードに比べれば遥かに平和に祖国で暮らしていた。大佐とカスタバラク少佐は、基地では相部屋だったが休暇中も一緒に暮らしていた。カスタバラクは”牢獄だった”生家を己が実力で少佐に昇進した日に焼き払って喪失させており、喪失させる前も彼は大佐に家から出して貰った18歳の時以降、一度も己が幽閉されて育った家には帰宅しなかった。
 少佐は帰る場所が陸軍基地しか無い為、年に数回ある中期間の休暇中は、陸軍基地に残っているか、大佐が借りていた”大変家賃がお安い”2LDKのボロアパートに一緒に住んでいた。更に基地に居ると、中尉が会長を務める勝手に作られた『ナスィル少佐激愛有料ファンクラブ』の人間達に此処ぞとばかりにしつこく追いかけ回される為、殆どは大佐の家を自分の家代わりにして、悍ましいエゴイスト達から逃げるように上司とシェア暮らしをしていた。
 基地の寝室も、カスタバラクが3等兵だった新兵時代から20年近くずっとシェアしていたので、正しく親子のように何時も一緒に暮らしていた2人だった。しかし休暇中のアパート暮らしでは、家事を一任していたカスタバラクの作る料理が健康志向過ぎて、流行りの健康食材が良く入っている事と味が全体的に薄い件、加えて大佐の趣味の件で頻繁に喧嘩をしていた。
 味が濃い料理が好きだった大佐の趣味は、大好きな服を着るのでは無くお得なセールでお安く買う事だった。『安物のダサい服が溜まっていく一方だ。無駄使いでしか無いから、この趣味を辞めろ』と、金自体には興味が無いが生真面目だった義理の息子に頻繁に”叱られて”いた反面で、義理の父親のようだった大佐も頻繁に反撃していた。反撃する時は、相手の”お安いに対する考えの甘さ”を何時も突いていた。
 今は冥土にある地獄の一角に義理の息子と一緒に居る大佐は、モグラの心の中にある思い出から誰にも聞こえない声で、遥か昔のある日に祖国のボロアパートでしていた、己と義理の息子の喧嘩時の言葉を呟き出した。
(ナシュー。だから何故、毎回大特価セールに連れて行くのに4割引き品までしか買わない?!私は何時も半額まで待てと。服は半額からワクワクし始めて、7割引き辺りから嫌ああああ!安いいいい!!って興奮するモノだと……、
 は?スカしか残って無いから?覚えておきたまえ、窒息呪い付き美男。残り物には福があるんだ。東にある島国の言葉だが、大変素晴らしい事に”服”と”福”を掛け……、
 ナシュー、そのゴミを見るような表情をするのを止めたまえ。爺さんは、ジジイはオヤジギャグを言ってはいけないのか?!
 その顔ですら呪いが発動するぞ!息が全く出来ん!!何をしても物凄く格好良過ぎるんだ、君は。やはり私も君は軍人を辞めて、俳優に転身して映画賞を獲ってレッドカーペットを歩くのが相応しいと……何故昔、君が友達からされた勝手な依頼を私が知ってるかだと?当たり前だろ、私はスパイだ。君の事は全部お見通し)

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